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翌日、アデルの元にカヴィルから手紙が届いた。文面は丁寧で優しかったらしいが、内容はやんわりとしたお断り。

そして問題だったのは、その文の最後に添えられていた「余計なひと言」だった。


私の元に手紙を届けてくださったのが、噂の貴公子エリアス殿だったことには驚きました。エリアス様にもよろしくお伝えください。


・・・その余計なひと言により、今、エリーナはとても面倒なことになっている。


「ちょっと!!どうしてエリアス様が、私の手紙をカヴィル様に渡すことになるのよ!!?」


目の前で怒鳴っているのは、義姉のアデルだった。

ぽっちゃりした手を振り回して、まるで聞き分けのない子どものように騒いでいる。

エリーナは黙ってその様子を見ながら、(子どものようだ・・・)と心の中で思っていた。


「聞いてるの!?どうしてそうなったのよ!」


「・・・・あの・・・あの日、お城に向かったのですが、道に迷ってしまって・・・。歩いている途中で、ハンカチと手紙がなくなっていることに気づいて・・・・・」


「えっ!?落としたの!?あの手紙を!?!?」


「はい・・・いえ、落としたには落としたんですが、すぐに気づいて戻ったら、見たことないくらい綺麗な男性が拾ってくださっていて・・・」


「・・・!!エリアス様が!?私の手紙を拾ったの!?」


「はい・・・それで、カヴィル様のいらっしゃる財務部に行きたいと話しましたら・・・・」


「話したの!?エリアス様と!?」


「話す・・・はい・・そうしたら、ちょうどそちらに行くから、届けてあげると言われ・・・・・」


「信じられない・・・!!エリアス様と、ひと言でも話せたら、令嬢からこぞって羨ましがられる手紙が十日間は続くと言われるほど珍しいことなのよ!?それなのに、そのエリアス様に・・私の名前で、別の男性に手紙を渡させるなんて・・・あんた、どうしてくれるのよっ!!」


アデルは顔を真っ赤にして、怒鳴り続けていた。

このままじゃ血管が切れちゃうんじゃないかと、エリーナは内心ちょっと心配になっていた。

と、思って見ていたら、突然、近くにあった本を投げつけられた。


「私が行けばよかった!そうしたらエリアス様ともお話できたし、カヴィル様にも恥をかかずにすんだのに!」


(私が行けばよかった・・・それは、その通りですよ)


「あんたのせいよ!バカ!グズ!ブス!」


ひどい言われようである。

投げられた本はたいして厚くも重くもなかったので、ぶつかってもそれほど痛くはなかった。


そもそも、普段の格好でエリーナが、王城に入れるわけがない。わざととはいえ、汚れて見えるような身なりをしている。そんなだから、実際にこの格好のエリーナが城に行ったとしても、門番に止められて追い返されるのがオチだ。


なのに、なぜアデルはエリーナが王城に入れて、しかも財務部まで行けると思ったのだろう。こういう想像力のなさ、というか、考えなしなところが、アデルの本当に謎なところである。


とはいえ・・・

あの日、王城へ行けるチャンスをくれたのはアデルだったし、そのお礼も兼ねて親切心でカヴィルに手紙を届けたのだ。


もちろん、城に入るのはエリーナのままでは無理だ。だから最初から、サーシャ姫から約束をもらっていたエリアスとして城に向かったのだが・・・


(カヴィルよ・・なぜ、あの余計なひと言を書いたのか聞かせてほしい・・・)


エリーナは、前髪でかくれて見えない目をぐるりと回して呆れていた。


しばらく「キーキー!」と、猿みたいに何か怒鳴りながら騒いでいたアデル。

それを黙って二十分ほど聞いていたら、さすがに怒りすぎて疲れたのか、突然ぴたりと口を閉じた。


(どうしたのかな?)


エリーナが不思議に思ってアデルの顔を見ると、彼女は腕を組んだまま、じっと考え込んでいた。

そして突然、薄く唇をつり上げて笑った。


その笑顔に、エリーナは出た!と思った。


「・・・お義母様に言いつけてくるわ」


「えっ?」


「だってそうでしょ?あんた、私の恋をぶち壊したのよ?家の名誉まで汚してくれちゃって。このまま黙ってるなんて、ありえないでしょ」


(また始まった・・・まあ、そう来るわよね?だって、アデルだもの)


アデルはくるりと踵を返して部屋を出て行った。

その早足の音を聞きながら、エリーナは息をついた。


そして、数時間後、無言のまま使用人がやってきて、エリーナの腕をぐいと引っ張り、離れの小屋へと連れていった。

事情の説明など一切ないまま、何かの箱と一緒に部屋の中へ放り込まれ、扉が勢いよく閉められ、ガチャン、と鍵のかかる音が響く。


「え・・・ちょっと、外から鍵までかけられた!!」


すぐに扉の向こうから、侍女の声が響いた。


「奥様からの伝言よ!一週間、食事抜き。家の仕事は免除。その代わり、その箱の中に入ってる寄付用ハンカチ五百枚に刺繍しておくこと。一週間、この部屋からは一歩も出ちゃダメですって!」


言い終えると、足音はさっさと遠ざかっていく。


「・・・え?ほんとに?仕事しないでいいの?やった!なんてラッキーなの!?これでマルス王女の依頼も早く終わるかも!!ああ、アデル!神!!」


エリーナは思わずガッツポーズしながら、鼻歌まじりに部屋の中でくるくると回った。


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