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二章がはじまります。
今回のキーマンは「Mars -マルス-」です。
エリーナにどんな依頼が舞い込んでくるのか・・・
二章も楽しんでいただけると嬉しいです。
「ねぇ、アデル、これどうかしら?」
「その色はお姉様には似合わないんじゃなくて?」
「それよりも、お姉様、このネックレス、素敵じゃない?」
「あら、あなたは体が大きいんだから、もっと大粒じゃないと宝石に見えないんじゃなくて?」
二人とも、楽しげにドレス選びをしているが、話している内容はお互いの悪口の応戦。
えげつない・・・
「ちょっと!エリーナ片付けが遅いわ!どんどん散らかって行くじゃない!!早くしなさいよ!」
(散らかって行くのはあなた達に問題があるのでは?)
そう思いながらも、顔には出さない。
私はプロだ。
ただ「はい」とだけ答え、淡々と片付けを続ける。
今日は、今話題のドレスショップのデザイナーが伯爵家を訪れている。次の夜会に向けて、姉妹のドレスを仕立てるためだ。
二人は次々と見本のドレスや生地を広げていくので、こちらがいくら片付けても追いつかない。
「どうしようかしら。今回の夜会にはエリアス様がいらっしゃるって噂よ。だから紫のドレスが多いらしいけれど・・・」
ちょうどそのとき、デザイナーがようやく口を挟んだ。
「確かに、今回は紫系のご注文が多いですわね。紫にもさまざまございますが・・・こちらなど、いかがでしょう? お嬢様によくお似合いです」
赤を溶かしたような紫の生地をマルグリットに差し出す。
一瞬、興味が引かれた顔をするマルグリットはそろりとその生地に触れようとする。
(ない、ない、あの色はない。紫と言っても赤紫で、あの色はお祖母様と呼ばれる年齢の貴婦人が好んで着る色だ。なんて適当なことを言うんだ・・・)
エリーナは、そのドレスを横目で見て髪に隠れた口元を歪めた。
「お姉様、まさか、その色を?・・・ふふふ」
アデルが嘲るように笑う。
アデルは太っちょさんだが、マルグリットよりセンスがある。センスはあるが身体的に着こなせないだけだ。
「!!・・・え、選ぶわけないでしょ!ただ紫色の話をしていただけよ!」
顔を赤くしてマルグリットは怒っている。
(よかった・・・あの生地は、染め直しがきかないし、使いようがない。あんなドレスを捨てられても困るもの)
エリーナは、姉妹が放棄したドレスや布地を再利用して、自分のドレスを作っている。器用だからお直しは得意だ。
エリーナは、二人が捨てる物を再び着れるように手を加えて、自分のドレスを作る。
手先も器用なので、お直しは得意だ。
「そういえばエリアス様だけじゃなくて、第二王子カミーユ殿下のお相手がそろそろ決まるって噂よ」
「カミーユ殿下って確かにお顔はいいけど、周りにはいつも女性がいるんですって。平民の町娘とか、妖艶な美女とか、毎回相手が違うとか・・・遊び人らしいから、みんな敬遠してるわ」
マルグリットが、そんなことを言う。
(・・それ、たぶん私かも・・・)
エリーナは「ん?」と考えるが、まあいいか、と、すぐに忘れることにする。
「あら、お姉様、知らなかったの? カミーユ殿下、隣国のマルス王女と縁談が進んでるそうよ。リオン国には後継の男性がいないから、殿下を王配として迎えたいんですって」
(へえ〜、殿下もついにご結婚? マルス王女って、どんな方かしら)
エリーナはドレスを片付けながら、義姉の噂話を記憶の隅に残していく。
「マルス王女はどんな方なのかしらね?」
ちょうどいいタイミングで、マルグリットが訊ねる。
(そう、そう、それが聞きたかったのよ。ナイス!マルグリット)
「わがままだけど、見目は美しいそうよ。殿下を一目見て気に入って追いかけてるとか」
「カミーユ殿下が、追いかけ回されるなんて珍しいわね?」
(うん、それは、そう。同感だわ)
「アデル、もうドレスは決まった?そろそろお母様が来る時間よ。急がないと!」
「私はもう決まってるわ。最初にみた黄色いドレスにするわ。お姉様はまだ決まってないの?」
「・・・・この、紫っぽいピンクにするわ」
「まあ、いいんじゃない?」
紫っぽいピンクを選んだマルグリットと、黄色を選んだアデル。
(アデルの体型だと、また破けるかも……染め直し用の黄色系の染粉を用意しておいた方がいいかも)
そう思いながら、エリーナは『やれやれ、やっと終わった』と、最後に残ったドレスを片付ける。
そのとき、部屋の扉が開いた。
「二人とも、ドレスは決まったの?」
義母のメルバが部屋に入ってくる。
「「ええ、お母様決まりましたわ」」
さすが姉妹、二人で揃って返事をする。
「そろそろ出かけるわ、二人とも準備しなさい。エリーナ、片付けを手伝って、ドレスショップの方をお見送りしてちょうだい」
「はい、かしこまりました」
エリーナは丁寧にお辞儀し、義母たちが部屋を出ていくのを見送る。そして、ドレスショップのデザイナーに視線を送った。




