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エリアスはクラブを出ると、肺の中の濁った空気を一気に吐き出すように深呼吸をした。

ゆっくり歩いていると、偶然、またカミーユに出くわす。


「エリアス、どうだった?」


「・・・殿下、なんでまた、ここにいるんです?」


「たまたま街を巡回しててな」


「騎士団長自ら?」


「ああ、俺は“役職だからやらない”って考えは、古くて嫌いなんだよ」


立派なこと言ってるけど、絶対テキトーだ。


「ちょうどいい。殿下、お願いがあります」


「・・・珍しいな、なんだ?」


「もう少ししたら、ラグザ様が来ますよね?」


「・・・来ない来ない。今日は完璧に逃げ・・・・」


「やっぱり逃げてたんですね」


「いや、巡回だ」


「巡回ねえ・・・・あ、ほら。あれ、ラグザ様です」


遠くに見えるラグザの姿をエリアスが指差す。


「・・・・じゃ、またな!」


逃げようとするカミーユの腕を、珍しくエリアスががっちり掴む。


「カミーユ、その前に。百メートル後ろに隠れてる男、捕まえて、こいっ!」


そう言って、エリアスはカミーユを勢いよく突き飛ばした。


カミーユはそのまま駆け出し、ぎょっとした顔の男の首に一撃。

男は声も上げずに崩れ落ちた。


「誰?こいつ?」


さすが騎士団長、腐っても腕は確かだった。

訳も分からず男を引きずって戻ってくるカミーユ。その一連の動きは、ほんの一瞬の出来事だった。


男を引きずって戻ってきたカミーユは、今にも自分に殴りかかりそうなラグザに身構えていた。だが、エリアスが一歩前に出た。


「殿下、ラグザ様。お話があります。それも至急で」


と静かに告げた。


カミーユとラグザは少し驚いた顔で顔を見合わせている。


「どうした、エリアス?」


「二人とも、こちらについてきてください」


真剣な表情のエリアス。その背中を、何も分からぬまま二人が追いかける。


人気のない細道に入るなり、エリアスは口を開いた。


さっき潜入した紳士クラブでは、奴隷を賭けにした違法賭博が行われていたこと。

その実態。そして何よりも、イアンを今すぐ捕らえてほしいという要請だった。


今、イアンを捕えても、侯爵家の力で大した罪もなく、すぐに釈放となるだろう。

でも、逮捕された事実さえあれば、あとはエルビナの出番だ。


カミーユとラグザは、堂々とエリアスの案内で紳士クラブに向かって歩を進めた。もちろん、何も恐れることはない。

この国の剣聖と騎士団長だ。こんな小規模な組織の制圧なんて、朝飯前もいいところだ。


二人は、外に立っていた男を目にした瞬間、言葉一つ発させることなく、あっという間に意識を奪った。


「・・・やれやれ。こういう裏稼業は、一向に減らないな」


ラグザは苦々しい顔をして、剣の柄に手をかけながら小さく吐き捨てる。


「派手にいきますか、ラグザ様?」


「当然だ。カミーユ、罪は静かに暴くより、派手に潰した方が見せしめになる」


ラグザとカミーユの目が、鋭く光った。


店の扉が開かれると、二人は堂々と中に踏み込んだ。カミーユは店の中央に立ち、低く、よく通る声で宣言する。


「騎士団長の名において、この場の全員に告げる。この場所は違法賭博および人身売買の容疑で摘発される!」


ラグザは剣聖としての名が広く知られており、貴族たちは一瞬で彼の存在に気づき、身動きも取れずに静まり返った。


支配人と客が動揺する中、カミーユはまっすぐイアンの元へと歩み寄った。


「お前は、今から拘束される。後で言い訳する機会をやろう」


ラグザは冷徹に告げる。

その瞬間、店内にいた全員が静まり返る。店の支配人は震えるような声で、必死に弁解しようとするが、カミーユはそれを無視して言い放った。


「今、ここにいる全員を拘束する。貴様らの違法行為も、これで終わりだ」


ラグザとカミーユが互いに一歩踏み出すと、すぐに彼らの周囲にいた数人の客が震えあがる。

店内の空気が一気に重くなり、客たちの顔には驚きと恐怖が色濃く浮かんだ。


「何をしているんだ!我々は関係ない!」


一人の貴族が声を荒げたが、すぐにラグザがその男の胸倉を掴んで、無言で引き寄せた。


「お前も、関係ない者もこの場にはいない。違法賭博に手を染めた以上、全員が共犯だ」


その言葉に、店内はさらに緊張感を増した。客たちは次々と拘束されていく。誰一人として逃れることはできない。


「お前らも、次だ」カミーユは静かに言い、残る客たちを一人ひとり厳しく取り押さえさせる。


店の隅にいたイアンは必死に顔を隠しながら震えていた。

それを見逃さなかったカミーユは、即座にイアンも捕まえた。


「待たせたな。いくぞ」


すべての客が手錠をかけられ、店内は完全に制圧された。


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