第9話 散財と満喫
鎌倉は雑貨商の前で足を止めた。
地面に敷かれた布の上には、ペットボトルのジュースや水、クッキータイプの栄養食、缶詰、スナック菓子、飴やグミ等、多種多様な飲食物が並ぶ。
それらを一通り見た鎌倉は呆れ顔になる。
「まるでコンビニだな。世界観を守らねえのか」
『一週間で劣化しない飲食物を選定した結果、このようなラインナップになっています。世界観を損なっている点は今後の課題とさせていただきます』
「俺はこの感じで大歓迎だがな。便利で美味いもんが一番だろ」
鎌倉は片っ端から商品を掴み取り、コートのポケットに押し込んでいく。
彼は飲食物の他にも酒と煙草も掴み取っていた。
はち切れそうなポケットを一瞥し、鎌倉は舌打ちする。
「持ち切れねえな。なあ、親父。鞄とかも売ってるか」
「中古の革製ならあるよ」
「良いな、それもくれ」
鎌倉は残りの商品を手当たり次第に鞄へと放り込む。
ゴーグルを介した自動決済により、彼のゲーム内の所持金が一気に減っていく。
数値の変動に気付きながらも、鎌倉は一向に気にしない。
使った分はまた盗めばいいと考えていた。
そうしてすべての飲食物を買い占めた鎌倉は、端に置かれた曲刀に注目する。
すぐさまゲームデータがウィンドウで表示された。
【サーベル】
攻撃力6。
刃が緩やかに曲がった剣。
斬撃に特化した武器。
鎌倉はサーベルを握る。
軽く傾けて確認した後、彼は満足そうに微笑む。
「へえ、オモチャだが造形は悪くねえな」
「お目が高いな。そいつも買ってくかい?」
「ああ、貰おう」
「まいどありっ! 今日はもう店じまいだな」
上機嫌な雑貨商に見送られて、鎌倉は再び歩き出した。
買ったばかりのスナック菓子を頬張りつつ、サーベルを腰のベルトに吊るす。
いつでも引き抜けることを確かめて彼は頷いた。
そんな鎌倉にアテナが尋ねる。
『武器を購入したということは、やはり他プレーヤーを殺害するのですか?』
「違えよ。こいつは護身用だ。火の粉を払う備えはいるだろうが」
鎌倉は眉間に皺を寄せる。
スナック菓子を楽しみつつも、彼の意識は警戒を怠っていない。
視線は常に周囲に向けられており、第三者に襲われても対応できるよう注意していた。
「なあ、この街に何か娯楽はねえのかよ」
『闘技場で賭け試合があります』
「賭け試合で儲けることも可能か?」
『はい、可能です』
「良いねえ、最高じゃねえか」
スナック菓子の袋を投げ捨てた鎌倉は、アテナの道案内で闘技場に向かう。