第79話 巡り絡む感情
壁際に走り寄った鎌倉が外を覗き込む。
階下の崩れた床の一部がはみ出しており、そこに鱧が立っていた。
鱧はウインクをして笑う。
「ほな、また後でー」
返事を待たず、鱧は颯爽と城内へと消えた。
見送った鎌倉は神妙な顔で考える。
(あいつ……最初から皆殺しにするつもりだったな)
トゥルー・ライフ・クエストのルールでは、他プレーヤーを倒すと最終獲得金が二倍になる。
殺害時に賞金を奪うナイトメアモードの特殊ボーナスが無くとも、PK行為に手を染めるメリットは大きかった。
鱧の魂胆を察した鎌倉は振り返って尋ねる。
「関西弁は逃げたぜ。追いかけるかい?」
「いえ、彼はゲームの経験者です。下手な行動は命取りになるでしょう」
答えたのは西園寺だった。
彼女は落ち着いた様子で杖を握っており、不意の攻撃に備えている。
一方、白石は藤堂のそばにいた。
首を切られた藤堂は既に息をしておらず、鶏頭の幻術が解けて素顔が見えている。
白石は髪を掻き毟って唸る。
「くそが……滅茶苦茶だろ」
三好は呆然としていた。
急転した事態に思考がついていけず、直前の出来事を思い返している。
(鱧が裏切った……いや、最初からこうするつもりだったのか? まさか前回のゲームでも同じようなことを)
三好を我に返らせたのは、西園寺の差し出した手だった。
西園寺は冷静に問いかける。
「三好さん。立てますか」
「あっ、なんとか……」
「話し合いを始めます。よろしいですか」
「な、何を話すんですか」
「今からの方針に関してです」
西園寺が残った者達を見回し、澄んだ声を発した。
「単刀直入に訊きます。この中で殺し合いを望む方はいますか」
真っ先に反応したのは三好だった。
彼は暗い顔で意見を述べる。
「……絶対に嫌だ。正当防衛は仕方ないけど」
「俺だってもう懲り懲りだ」
白石が憔悴した様子で呟く。
彼は藤堂の死体を一瞥した後、再び小さく唸った。
意見を聞いた西園寺は予想通りとばかりに頷く。
「私もお二人と同じ意見です。あなたはいかがでしょう?」
西園寺が問うたのは鎌倉だった。
鎌倉は苛立たしげに答える。
「あんたらはどうでもいいが、さっきの関西弁は別だ。あいつは皆殺しを宣言した。当然そこには俺も含まれている。つまり敵だってことさ」
鎌倉は出入り口の扉に歩いていく。
その進路に西園寺が立ちはだかった。
鎌倉の目に好戦的な光が灯る。
「止めるかい? 別に構わんよ。邪魔するなら誰だろうと殺すだけだ」
「勘違いしないでください。餞別があるだけです」
西園寺が手をかざして魔法を使う。
鎌倉は一瞬だけ警戒するも、その効果を感じ取って構えを解いた。
西園寺は流暢に説明する。
「筋力と動体視力を上昇させる強化魔法を使いました。効果は一時間ほどで、その後は筋肉疲労になります」
「ようするにドーピングだな。ククッ、悪くねえ贈り物だ」
「相手は狡猾です。どうかお気を付けて」
「任せとけ。八つ裂きにしてやるよ」
走り出した鎌倉が広間を退室した。
彼がいなくなった直後、西園寺はやはり冷静に語る。
「これで鱧さんもただでは済まないでしょう。どちらが生き残るにしても我々に損はありません」
「はは……すげえ冷静だな。あんた何者だよ」
白石が投げやりに尋ねると、西園寺は意味深に微笑した。
「ただの実業家です」




