第77話 ゲームクリア
大地に激突した魔王が断末魔を轟かせる。
それと同時に、街中を蹂躙していた眷属達が蒸発し始めた。
生き延びたNPC達は喝采を上げる。
三好達のゴーグルは華やかなファンファーレをしつこいくらいに鳴らしていた。
その音に紛れてアテナが通知する。
『魔王討伐によってレベルアップしました。さらに特別ボーナスで賞金に一億円が加算されます』
「い、一億っ!?」
これには三好も驚愕した。
他の者達も驚き、そして喜んでいる。
鱧は崩れた壁の外を確認する。
魔王の死骸を見下ろした彼は安堵した。
「第二形態になる前に倒せてよかったわ。なんだかんだで不意打ちが最強やね」
「あそこからまだ強くなる予定だったのか?」
白石がうんざりした顔で言う。
彼は無茶な動きをした反動で腰痛になり、その場に座り込んでいた。
鱧は壁際から離れると、自身の体験を苦々しく説明する。
「前回はHPをゼロにしたらパワーアップして復活したんよ。とどめを刺すのに聖なる武器を使ったけど、ほんま大変やったで。今回は最初から聖なる武器やったから、復活イベントをスキップできたんかもね」
「これが狙いだったのか?」
「うん。上手くいきすぎて怖いくらいやわ。そっちのお兄さんのおかげやね」
鱧が視線を向けたのは、薙刀を担ぐ鎌倉だった。
愛想笑いを浮かべた鱧は彼を賞賛する。
「魔王とタイマンとかすごすぎるわ」
「金のためなら命だって張るさ。こっちこそ感謝している。決め手に欠けていたんだ」
鎌倉は瓦礫に座って笑う。
彼は全身から滝のような汗を流していた。
魔王との戦闘はごく短時間だったが、僅かな判断ミスで死ぬという事実が心身を過剰に疲弊させていた。
プレーヤー達が休む中、姫が深々と頭を下げる。
「この度は魔王を倒してくださりありがとうございます。皆様はこの国の英雄です! 父も冥府にて感謝しているでしょう」
姫は駆け付けた兵士と共に立ち去った。
鱧は「あっさりしすぎやろ。運営の手抜きかいな」と呟く。
それに反応する者はいなかった。
間もなく全員のゴーグルからアテナの声が発せられる。
『おめでとうございます。すべてのメインクエストをクリアしました。エンディングランクはBです。お疲れ様でした』
「前回のランクはFやったなあ。結局、戦闘の余波で国は滅んだし、それに比べれば十分にハッピーエンドやね」
肩をすくめる鱧に対し、三好が質問を投げかけた。
「この後はどうするんだ。すぐにゲームを抜けられるのか?」
「時間切れまで待機ちゃうかな。魔王戦で疲れたし、皆でのんびり過ごそか」
『本当にそれでよろしいのでしょうか』
アテナが二人の会話を遮る。
怪訝に思った鱧が少し眉を曲げた。
「何言ってるん?」
『メインクエストをクリアした時点で残り時間が半日以上の場合、トゥルー・ライフ・クエストはナイトメアモードに突入します』
「は? 何やそれ。知らんねんけど」
『鱧様が最初に参加した回では、残り時間が四時間ほどでしたのでご存じないのも当然です。ナイトメアモードは早期クリアを達成した優秀なプレーヤーの皆様へのボーナスなのですから』
アテナは噛み締めるように告げる。
彼女の声音には人間的な感情が込められていた。
そこに悪意を感じ取った三好は、背筋が寒くなるのを知覚した。




