第69話 亡者の群れ
必死に逃げる物部は、付近に残るゾンビを次々と投入した。
肉の壁となって進路を阻むゾンビに対し、志村は光の斬撃を飛ばして強引に突破する。
狂ったような雄叫びが絶えず森に響き渡っていた。
物部は何度も背後を確かめる。
志村がどんどん距離を詰めてくる。
ゾンビをぶつけても焼け石に水だった。
システム上のダメージなど構うことなく、志村は全身全霊で物部だけを狙う。
ぎらついた殺意は物部の恐怖心を際限なく引き出していた。
物部は思わず悲鳴を漏らし、躓いて転びそうになった。
「ひいいいいっ」
後ろに手をかざした物部は、煙幕の魔法を発動する。
VRの煙が噴き出して一帯を速やかに覆い尽くしていく。
ゴーグルを着けたプレーヤーは例外なく視界不良に陥る代物だが、志村の動きに躊躇はなかった。
彼は素早い跳躍で煙を掻い潜ると、振り上げた拳で物部に襲いかかる。
「オオオオオオオオオォォォォッ!」
拳が物部の肩を掠める。
凄まじい衝撃に骨が軋み、砕けた。
物部は体勢を崩し、つんざくような激痛に歯を食い縛る。
「――ッ!?」
追撃を恐れた物部は走ることをやめなかった。
彼女はただ絶叫し、迫る志村へと魔法を乱射する。
連続で魔法が被弾した志村は、白目を剥いて倒れた。
複数の状態異常を一気に受けたためだ。
過剰な投薬で痙攣する志村に、残るゾンビが群がって喰らいつく。
それを目にした物部は口汚く罵った。
「馬鹿がっ! くたばれ!」
物部はすぐさま逃げ出す。
発した言葉とは裏腹に、この程度で志村が死ぬとは考えていなかったのだ。
下手にとどめを刺そうとすれば、反撃で殺されることを直感的に理解していた。
「失敗、したっ! あんなやつが、いるなんて……ッ!?」
物部は肩を庇いながら森を走る。
滲む涙で視界がぼやけるも、彼女は懸命に走り続けた。
間もなくその姿は木々に紛れて見えなくなる。
およそ三分後、志村が起き上がった。
虚ろな顔で巨躯を揺らす彼は、未だに蓮巳を担いでいる。
夢中で噛み付いていたゾンビ達が志村から離れていく。
彼らは同類を襲わないように設定されていた。
呻く志村が聖剣を拾い、竜が飛び去った方角を見つめる。
「おれ……が、せかい、を……すくう……」
薄らいだ意識の中でも、志村は使命を忘れていなかった。
志村は亡者のような足取りで移動を始める。
そこにゾンビ達が追従した。
不気味な集団は大陸中央部の街に向かっていた。




