第68話 勇者の底力
ゾンビを斬り伏せた志村は、接近してくる藪蛇を睨む。
一瞬で間合いを詰めた藪蛇は木の槍で刺突を繰り出した。
志村は聖剣で防ぐも、刃の側面が僅かに裂ける。
ゲーム用の武器である聖剣は、耐久面において玩具同然に脆かった。
大切な武器の破損を見た志村は、激昂して鋭い蹴りを放つ。
それを藪蛇は左手で受け、前腕の骨を砕かれながらも無理やり受け流した。
彼は即座にカウンターの刺突で志村の脇腹を捉える。
「くっ」
志村は腹筋で槍を食い止め、内臓の損傷を避けた。
槍を引き抜いた藪蛇は、目にも留まらぬスピードで突きを連発する。
志村は全身各所を刺されて顔を顰める。
防戦一方でなんとか堪えているものの、攻撃スピードについていけず、反撃に移る余裕を完全に逸していた。
ゾンビ化の投薬はプレーヤーの理性を消し去り、代わりに身体能力を劇的に向上させる。
肉体が自壊するほどの膂力に加え、藪蛇の場合はこれまでの人生で培った戦闘技術を無意識に使用していた。
藪蛇は四肢の筋肉を断裂させて、折れた骨を露出しながらも、虚ろな顔で機械的に攻撃し続ける。
懸命に防御する志村は、不意に右脚に激痛を覚える。
見ると蓮巳が手斧を振り下ろしたところだった。
分厚い刃が皮膚と筋肉を破って骨に達している。
志村は顔を真っ赤にし、蓮巳を引き剥がそうとした。
その隙にVR上のゾンビ達が群がり、あっという間に彼を囲んで噛み付く。
刹那、志村が獣の如き咆哮を上げた。
聖剣を持って勢いよく回転し、密着していたゾンビをまとめて切り裂くと、剣を握った拳で蓮巳を殴り飛ばす。
そのまま槍を突き立ててくる藪蛇の首を掴み、地面に叩きつけた。
藪蛇は立ち上がろうとするも、そこに志村の踏み付けが容赦なく降り注いだ。
執拗な追撃を浴びた藪蛇は地面に埋まって痙攣している。
ゴーグルは変形して煙を上げていた。
藪蛇に反撃の力がないことを確かめた志村は、仰向けに倒れた蓮巳のもとへ向かう。
蓮巳は涙を流して「たすけて」と呟いてから気絶した。
志村は無言で蓮巳を担いで歩き出す。
全身から怒気を放出する志村は、岩場に隣接する森へと踏み込んだ。
彼は何事かを喚き散らし、近くの茂みを蹴り、樹木を殴る。
そばに隠れているであろう物部を抹殺するための行動だった。
物部は少し遠くから一部始終を見ていた。
口に手を当てた彼女は、音を立てないように中腰で逃げ始める。
(冗談じゃないわ! あんな奴に勝てるわけ――)
ひときわ大きな咆哮が轟く。
血みどろの志村が猛然と物部に迫る。
物部は悲鳴を上げて走り出した。




