第67話 死霊術師
漆黒のローブを着た女、物部は志村を観察していた。
志村はゾンビを蹴散らして猛然と接近してくる。
物部は煙幕の魔法を発動し、素早く移動して身を隠した。
追加のゾンビをけしかけて時間を稼ぎつつ、岩場から距離を取る。
木陰に滑り込んだ物部は、苛立ちのあまり歯噛みする。
(どうして死なないの! しつこすぎるでしょ!)
ゲームを裏から掻き回してきた物部にとって、此度の戦闘は初めての失態であった。
死霊術師の職業を持つ彼女は、他プレーヤーが殺害した村人やモンスターをゾンビに変え、遠隔操作で他プレーヤーを襲わせる戦法を多用してきた。
そうして安全に経験値と賞金を稼いでいたところ、彼女は魔王軍と戦う志村を発見した。
戦闘後の隙を狙ったはずが、凄まじい反撃を受けて現在に至る。
結果として何の成果もないまま、ゾンビ達をいたずらに消費していた。
(……ここは撤退すべきかしら)
物部は爪を噛みながら思案する。
過去、彼女は三好の聖杯によって手駒のゾンビを大幅に損耗していた。
そこから慎重になり、無茶な戦いをしないよう意識している。
聖剣を振り回す志村は「どこにいるっ」と叫びつつゾンビを浄化していた。
無尽蔵の体力に物を言わせた猛攻により、ゾンビはほとんど有効打を与えられずに倒されていく。
物部は髪をぐしゃぐしゃに掻き、背後に控えさせていたゾンビを見る。
虚ろな表情で佇むのは、プレーヤーの藪蛇と蓮巳だった。
半開きの口から涎を垂らし、呻き声を発している。
二人はゾンビ化の状態異常に苛まれていた。
ゾンビに噛まれた後、HPを残したまま一定時間が経過したことで、ゴーグルから特殊な薬を打ち込まれたのである。
実際はゾンビ化を擬似的に再現しているだけだが、傍目には本物と見紛うほどの様子だった。
藪蛇は崖からの落下で瀕死の重傷を負っていたが、意識と痛覚が鈍ったことで問題なく行動している。
傷は医師免許を持つ物部が処置を施していた。
物部は二人の頬を撫でて嗤う。
「殺さないと賞金が増えないのが悩みものね。でもここが使い時ね」
物部は志村を指差すと、囁くように命じる。
「――あいつを殺して。どんな手を使ってもいいから」
藪蛇と蓮巳が同時に動き出した。
二人の目は志村だけを見つめている。
手にはそれぞれ、木の槍と手斧が握られていた。




