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トゥルー・ライフ・クエスト ~超高額バイトに応募したら絶海の孤島でデスゲームに参加することになりました~  作者: 結城 からく


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第58話 不条理

 轟く炸裂音。

 笹川による渾身の正拳突きは、丸太に遮られた。

 丸太の表面は砕け、大きく陥没しているが、志村自身は無傷だった。


 鬼の形相の志村は、丸太を横薙ぎにフルスイングする。

 笹川は紙一重で跳んで逃れると、空中で姿勢を変えて蹴りを繰り出した。

 遠心力を乗せた一撃が志村の首筋に命中する。


 笹川は致命打を食らわせたことを確信した。

 ところが志村は顔色一つ変えずに丸太を掲げ、笹川に叩きつける。


「ぬぅっ」


 笹川は地面に打ち落とされた。

 丸太と地面に挟まれかけるも、驚異的な反射神経で転がり、そのまま潰されることを回避した。


 地面に手をついた笹川は、強烈な後ろ回し蹴りを放つ。

 蹴りは志村の膝を捉えるが、志村はやはり無反応だった。

 彼は蹴られた膝に体重を乗せて丸太を振りかぶり、猛然と反撃に移る。


 笹川は飛び退いて躱そうとした。

 しかし、丸太は鼻先を掠める。

 鈍い音が鳴り、鼻の肉と骨が弾け飛んだ。


「…………」


 笹川は己の顔に触れる。

 鼻のあった場所が削れ、夥しい量の血液が噴き出していた。

 眉間に皺を寄せた笹川はすぐさま踏み込み、棒立ちの志村に連撃を開始する。


「オオオオオオオオォォォォォッ!」


 笹川は吼える。

 様々な格闘技を織り交ぜた猛打が人体の急所を的確に打ち抜く。

 攻撃はおよそ十秒間続いた。

 血みどろの両拳を下ろした時、笹川は激しく消耗していた。

 滝のような汗を流し、酸欠と疲労で呼吸が乱れる。

 意識は朦朧としていたが、辛うじて倒れずに眼前の敵を睨む。


 命を賭した連撃を受け切った志村は、軽く出血していた。

 ほんの僅かな負傷はあったものの、十分な余力を残している。

 志村は言った。


「その程度か」


 笹川が獣の如き咆哮を上げる。

 彼の攻撃は再開された。

 動きはさらに加速し、常人の目には捉えられないスピードに達する。

 その根源は不条理に対する底無しの怒りと、己の培った力が通用しない恐怖であった。


 執拗な猛攻を止めたのは、無造作な丸太の一振りだった。

 軽々と吹っ飛ばされた笹川は樹木に激突する。

 彼は吐血し、樹木に背を預けて唸る。

 左腕は青黒く腫れ、不自然に曲がっていた。

 咄嗟に身体の間に割り込ませて防御したのだ。

 その代償に骨が折れていた。


「こんな、ことが……」


 笹川は痛みを忘れて愕然としていた。

 埋め難い実力差を認識し、同時に自らの死を予感したのである。

 このまま戦い続けても決して敵わないと本能で察していた。


 形容し難い屈辱に襲われた笹川は、喚きながら自身の頭を叩く。

 そして右手にゲーム用のグローブをはめた。

 彼は小声で要求する。


「……アテナ。すべてのスキルを発動してくれ」


『よろしいのですか。笹川様はゲームシステムに頼らないスタンスのはずですが』


「いいから早くしろ! 最大威力であいつを殺すッ!」


 宣言した笹川は走る。

 残る力を振り絞り、無防備な志村の腹に正拳を見舞った。


 轟音に赤い衝撃波が伴う。

 志村は丸太を高々と掲げていた。

 渾身の一撃を受けた事実など忘れ、狂気に染まった目で笹川を無慈悲に見下ろす。


 笹川は慟哭した。

 二撃目を見舞おうとした彼の額に丸太が迫る。

 頭蓋が木っ端微塵に、脳が爆発する感覚を味わいながら、笹川の意識は消滅した。

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