第57話 強者の悦び
白石が雄叫びを上げて殴りかかる。
笹川は迫る拳を難なく受け流すと、即座に肘打ちを叩き込む。
肋骨に響く重い衝撃に、白石は膝をついた。
「……ッ!?」
呼吸が上手くできず、白石は口をぱくぱくと開閉する。
笹川は憮然とした表情で腕を伸ばす。
そこに助走をつけた藤堂が飛び蹴りをした。
「とぉーっ!」
「舐めているのか」
蹴りを躱した笹川は、藤堂の脚に手を添えて一気に持ち上げる。
藤堂はひっくり返って地面に頭をぶつけた。
痛がる彼の腹に笹川の踏みつけが容赦なくめり込む。
藤堂は嘔吐し、のたうち回る羽目となった。
笹川は冷徹な目でその様を眺める。
咳き込む白石がどうにか立ち上がった。
彼は近くに落ちていた太い枝を手に取ると、背後から笹川を殴った。
ところが枝はあっけなくへし折れる。
笹川は平然と振り返り、折れた枝を拾って白石の腹に刺した。
「ぐおっ……」
手目を見開いた白石は、笹川の手を掴んで必死に止めようとする。
彼の抵抗も意に介さず、枝の先端は腹部に刺さって沈んでいく。
傷口から溢れた血が服を染め、ぽたぽたと地面に垂れ落ちる。
「つまらん。興醒めだ」
そう吐き捨てた笹川は白石を蹴り倒す。
刺さった枝を中心に血溜まりが広がっていく。
白石はぐったりと倒れていた。
震える手は抉れた傷口を懸命に押さえようとしている。
次に笹川は藤堂を見る。
吐瀉物に塗れた藤堂は気を失っていた。
口から血を吐き、手足を投げ出して動かない。
笹川は二人に命じる。
「立て。まだ勝負は始まったばかりだ。俺を待たせるな」
暫し待つも、二人は立ち上がる素振りも見せない。
笹川の目の中で失望が強まる。
彼は大きく息を吐くと、拳を握り締めて告げた。
「やはり駄目か……期待に応えられないのならば死ね」
二人にとどめを刺す寸前、笹川は動きを止めた。
強烈な殺気を浴びたことに気付き、彼は反射的に前方を睨みつける。
丸太を担いで現れたのは勇者の志村だった。
「お前も盗賊か」
志村は血走った目で笹川を凝視する。
聖剣は腰に吊るしたまま、丸太を大上段に掲げて保つ。
噴出する殺意が空気を歪ませるほどの威圧感を伴って放射されていた。
刹那、笹川は歯を剥き出しにして笑う。
彼は衝動的な歓喜に身を任せて疾走した。
全身全霊の力を乗せ、志村に向けて拳を振るう。




