第56話 無理難題
笹川が白石を引きずって森を歩く。
無抵抗の白石は、土に汚れながらもやんわりと命乞いをする。
「おーい、誰だか知らんが見逃してくれよ。金ならいくらでも……いや、限度はあるが頑張って払う。だから殺さないでくれ」
「金など必要ない。俺が求めるのは命を懸けた殺し合いだ」
笹川は断固として譲らない。
彼は白石の顔すら見ずに黙々と語る。
「あの銀髪の男……藪蛇は良かった。常日頃から死線に身を投じねば達しない域にいた。あれほどの実力を持つ者に会うのは生涯で初めてだった」
「なあ、俺がその話に関係あるとは思えないんだが」
「黙って聞け」
笹川の背中から殺気が迸る。
ぎょっとした白石は目を閉じて全身の力を抜いた。
舌打ちした後、笹川は再び話し始める。
「俺は邪魔が入らない環境で藪蛇と戦いたい。そのために他の人間やゲームのモンスターを排除している」
「邪魔なんてしねえよ。俺のいない場所で勝手に殺し合ってくれ」
白石がぼやいた瞬間、彼の身体が宙を舞う。
勢いよく投げ飛ばされた白石は、地面を激しく転がった。
頭や肩を強打したのか、手で押さえて悶絶している。
笹川は鬼のような形相で白石に詰め寄る。
「真剣勝負を妨げる要素は、僅かな可能性でも見逃せない。このゲームは俺の悲願だ。最高の戦いのために準備は徹底しなければならない」
「狂ってやがる……」
「俺から見れば、闘争本能を捨てたお前達こそ異常だ」
笹川が白石の手を掴み、今度は力強く走り出した。
乱暴な動きのせいで、白石は地面をバウンドしている。
「邪魔者を排除する過程で、藪蛇を超える強者が現れるかもしれない。それを俺は期待している」
「じゃあ俺は違うな。悪いが他を当たってくれ」
「試してみないと分からない。極限状態を経た人間はどこまでも成長するからだ」
笹川が唐突に立ち止まり、白石をまた投げる。
そこには縄で縛られた藤堂が横たわっていた。
知り合いを発見した藤堂は情けない声を上げる。
「白石さーん」
「藤堂! お前生きてたのか」
「勝手に殺さないでほしいっす」
白石が藤堂に駆け寄って縄を解く。
手足が自由になった藤堂は笹川を指差した。
「この人、総合格闘家の笹川さんっすよ」
「強いのか」
「そりゃもう。無敗の王者でしたが、対戦相手を殺して謹慎中っす」
「最悪の情報だな、クソッタレ」
白石は渋い顔で悪態をつく。
一方、藤堂は気さくな態度で笹川に懇願した。
「あのー、ファンなんで殺さないでほしいっす」
「断る。死にたくなければ俺に勝ってみろ」
「笹川さんとタイマンっすか?」
「二人がかりでいい。ただしゲームの能力は使うな。あれはつまらん」
笹川は拳をパキパキと鳴らしながら構える。
内に秘めた凶暴性が発露し、凄まじい威圧感となって二人を襲った。
白石と藤堂は小声で話し合う。
「どうしますか?」
「戦うしかねえだろ」
「無理ゲーっすよ」
「分かってる。それでも選択肢はないんだ。覚悟を決めろ」
白石に諭された藤堂は、深々とため息を吐く。
顔を見合わせた後、二人は笹川に挑んだ。




