第55話 絶対的な暴力
透明化を解除した薮蛇が堂々と歩く。
彼は両手に木の槍を携えていた。
「さて、ちょっとだけ本気を見せようかな」
「かかってこい!」
黒田が威勢よく応じる。
その声を受けて、薮蛇が高らかに笑いながら走り出した。
動きを捉えた黒田が瞬時に矢を放つ。
眉間に吸い込まれるように進む矢はしかし、寸前のところで槍に弾かれた。
射撃を凌いだ薮蛇は一気に距離を詰める。
「はい、一人目っと」
木の槍が黒田の首に突き刺さった。
黒田は血を吐いて崩れ落ちる。
薮蛇は彼の首を念入りに滅多刺しにした。
黒田の痙攣が止まったことを確認すると、薮蛇は返り血だらけの顔で笑う。
「残り二人だね」
「うわあああああああああああああっ!」
絶叫する蓮巳が魔法を使用した。
ガラス状の円盤が薮蛇に向かって飛ぶも、彼は黒田の死体を盾にして防ぐ。
その瞬間、三好は蓮巳の手を取って反対方向へ駆け出した。
蓮巳は涙を流して抵抗する。
「離して! おじさんの仇を取るのっ!」
「見て分からなかったのか! あのまま戦っても絶対に敵わない!」
「やってみなきゃわからないよ!」
「無理だ! あいつは強すぎるッ!」
言い合いながら逃げる二人だったが、一分もしないうちに立ち止まる。
彼らの進んだ先は崖になっていた。
見下ろすと急勾配の岩壁が何十メートルも続いている。
とても飛び降りられるような高さではなかった。
焦る三好は顔を顰める。
「しまったな……少し戻って別の道を探そう」
「いいね、僕も混ぜてよ」
戻ろうとした二人の前に藪蛇が現れる。
薮蛇はまったく息を切らしておらず、意気揚々と槍を構えていた。
「もう逃げられないよ。どうする?」
「……殺してやる」
「それは楽しみだねー。有言実行できるかなー?」
藪蛇が嬉しそうに突進する。
繰り出された刺突を三好を狙っていた。
三好は体を大きく動かして避けるも、直後に顔面を殴られて怯む。
「がっ……!?」
ふらついた三好の首を薮蛇が掴む。
彼はそのまま力を込めていく。
呼吸を封じられた三好は慌てて雷撃を連発するが、薮蛇は平然と笑っていた。
「前の戦いはHPのせいで不利になったからね。しっかりレベルアップしたから、静電気くらいじゃ死なないよ」
そばに立つ蓮巳が魔法を使おうとする。
しかし、薮蛇の投げた槍が首を掠めたことで中断した。
流れ出す血を感じて、蓮巳の顔が恐怖に染まる。
「うあ……」
「やめときな。次は顔を狙うから」
蓮巳に忠告しつつ、薮蛇は躊躇なく前進する。
崖際に追いやられた三好は、爪先立ちで辛うじて耐えていた。
そのような状態の三好に薮蛇は問う。
「さて。喉に穴が開いて死ぬか、地面に叩きつけられて死ぬか、どっちがいい?」
「どちらも、違う」
三好が薮蛇の腕にしがみ付き、そのまま体重を後ろにかけた。
足腰の力を抜いて重力に身を任せる。
その意図を察した薮蛇は、呆れと驚きを見せた。
「あはっ、マジで?」
「正解は道連れだ」
三好と薮蛇は崖から落下した。




