第53話 挟み撃ち
黒田は激痛に呻く。
「ぐうっ!?」
突然の攻撃に周囲は驚愕する。
蓮巳は泣きそうな顔で黒田に縋り付こうとした。
「おじさんっ」
「近くに隠れろ! 敵襲だ!」
怒鳴る黒田は槍を抜こうとするが、傷が深すぎて難儀している。
一方、三好は黒田を傷つけた槍に注目した。
彼の脳裏には、自身を半殺しにした薮蛇の姿があった。
(——あいつだ)
その直後、槍の飛来した方角から笑い声がした。
三好達は動きを止めて注視する。
何もないはずの空間が歪み、人影が歩いてくるのが見えた。
「へへっ、いいねえ。大漁じゃん」
人影が輪郭と色を伴い、やがてはっきりとした人間の姿になる。
それは楽しそうにスキップをする薮蛇だった。
薮蛇は複数の木の槍を小脇に抱えて笑っている。
いきなり現れた薮蛇に、白石が怪訝な顔でぼやく。
「……藤堂の幻術か?」
「あー、違う違う。ニワトリ君のスキルじゃないよ。この指輪の効果なんだ」
薮蛇が右手の指輪を見せる。
すると、彼の姿が透明になって周囲の風景に溶け込んだ。
透明のまま薮蛇は話し続ける。
「疑心暗鬼で楽しそうだったのにごめんね。待ち切れなくて手を出しちゃったよ」
「分かったぞ。その透明になる能力で真島君と藤堂君と暗殺したのかッ!」
激昂する黒田が素早く矢を放つ。
矢は正確な軌道で飛ぶも、薮蛇のいた辺りを素通りしていった。
続けて聞こえた薮蛇の声は、矢から少しずれた場所にいた。
「殺したのはヒョロガリの方だけさ。ニワトリ君は便利そうだから生け捕りにしたよ。返してほしい?」
黒田は返事代わりに矢を放つが、やはり当たらない。
薮蛇は射撃のタイミングを見極めて、上手く回避しているようだった。
透明化を解除した薮蛇は、十メートルほどの距離で立ち止まって拍手をする。
「いやー、君達が見つかってよかったよ。実体のないモンスターばかりで飽きてたんだよねえ。ずっと追いかけてたプレーヤーは誰かに殺されてるし」
薮蛇は次々と飛んでくる矢を回避しつつ、マイペースに愚痴る。
彼は予測できない動きで黒田を翻弄していた。
「まあ、君達の皆殺しは決定してるから。絶望しないでほどほどに抵抗してくれると嬉しいかな」
「クソッタレ! こんな所にいられるかっ」
状況の不味さを感じ取った白石が踵を返し、全力疾走で逃げ出した。
薮蛇は追いかけず、ニヤニヤと笑うばかりだった。
「あーあ、知らないよ」
次の瞬間、白石が真横に吹っ飛ぶ。
彼に炸裂したのは、草むらから伸びた笹川の拳だった。
草むらから出てきた笹川は、憮然とした表情で白石の足首を掴む。
そして彼は薮蛇に告げた。
「こいつらを殺した後はお前の番だ」
「いいねえ、名案じゃん」
結託する二人の殺人者は、互いを獲物として認識していた。




