第52話 疑心暗鬼
翌朝、黒田の叫び声が三好を目を覚ました。
「起きろ、三好君っ!」
激しく揺さぶられた三好は、凝り固まった身体を伸ばして起き上がる。
彼が真っ先に感じたのは、濃密な血の臭いだった。
困惑しながら見回すと、小屋の入口で真島が倒れている。
彼は首を切り裂かれて死んでいた。
傷口から流れ出した大量の血が床を汚している。
死体を目にした三好は、驚きのあまり呆然とする。
「えっ、なんで……」
「藤堂君がいない。あまり考えたくないが、彼の犯行と考えるのが妥当だろう」
黒田は険しい顔で述べる。
その黒田の襟首を白石が乱暴に掴んだ。
白石は怒気を滲ませて凄む。
「あんたがスカウトした人間は安全じゃなかったのか? 大した目利きだな」
「すまない……」
「まあいいさ。それより問題は透明化が解除されてることだ。いずれ他プレーヤーに見つかるぞ」
黒田を突き飛ばした白石は、手早く荷物をまとめ始める。
部屋の端では蓮巳がしゃがみ込んで泣いていた。
「うう、真島さん……」
「泣いている場合ではない。すぐに移動しよう」
数分後、三好達は小屋を出て歩き出した。
早朝の森は涼やかな空気だったが、彼らの間には重苦しい雰囲気が漂っている。
先頭を進む白石は、苦々しい表情で沈黙を破る。
「あんまり考えたくないけどよ……この中の誰かが真島を殺したってことはないか」
「妙なことを言うんじゃない。状況的に藤堂君だろう」
「藤堂の死体は別の場所に隠して、そのまま罪を被せたって可能性はある。俺達にはそれを否定する術がない」
白石が立ち止まって残りの面々を睨む。
飄々とした態度は消え去り、疑念を込めた目つきをしていた。
他の三人を睨んだまま、白石は虚空に告げる。
「アテナ、プレーヤーの賞金額とか殺人数を公開できるか」
『申し訳ありませんが、どちらも秘匿情報です。すべて正確に記録していますが、皆様に明かすことはできません』
「だろうな。そうだと思ったよ」
鼻を鳴らした白石は小さなナイフを構える。
それはゲーム用とは異なる本物の凶器だった。
「知ってるか。殺人ボーナスは賞金が二倍になる。つまり他人を殺すメリットは大きいってわけだ。金で目が眩んでも何らおかしくない」
「じゃあ白石さんも容疑者だね」
指摘したのは蓮巳だった。
彼女は赤くなった目で白石をまっすぐに見つめ返す。
白石は動じることなく応じる。
「俺は俺が殺人者じゃないと分かっている」
「皆そう思ってるよ」
「だといいがな」
白石と蓮巳の間で緊張感が高まる。
白石はナイフを黒田に向けた。
「なあ、黒田さん。何か言うことはねえのか」
「……疑心暗鬼は駄目だ。真島君を殺した者の思う壺だ。今こそ協力しなくてはならない」
「まずはあんたが潔白の証拠を見せてくれ」
「…………」
黒田は唇を噛んで黙り込む。
その時、遠くから「よいしょっ」と気楽な掛け声がした。
飛来した木の槍が、黒田の右太腿を貫いた。




