第48話 覚悟の時
小屋を出た三好と黒田は獣道を進む。
さりげなく弓矢を構えつつ、黒田は説明を始めた。
「森の中にはマップに映らない建物が点在している。我々はその一部を拠点にしているんだ」
「我々……って、他に誰かいるんですか」
「私がスカウトした仲間だ。安全な者ばかりだから心配しなくてもいい」
その言葉に三好は疑念を抱く。
ゲーム開始から味わってきた出来事の数々が彼の脳裏を巡っていた。
(この環境で信じ切るのは難しいだろ……)
三好は本音を飲み込む。
なんとなく気まずくなり、彼は別の話題を振った。
「ところで俺を眠らせた時、黒いローブの女を見ませんでしたか。たぶんゾンビの親玉なんです」
「見たよ。明確な殺意を感じたから攻撃したが、逃げられてしまった」
「そうでしたか……」
「だが収穫もあった」
黒田がいきなり矢を放つ。
矢は数メートル先の地面にいた蛇を射抜いていた。
色味が地面と同化しており、よほど注意しなければ認識できない状態だった。
黒田は蛇の死骸を回収してから続きを話す。
「黒ローブの女には、ゲーム用ではないこの弓矢が命中した。つまりNPCではなくプレーヤーということだ。ゾンビを操るスキルは厄介だが、物理攻撃が有効ならやれないこともない」
「……殺すということですか」
「正当防衛だ。今の状況では綺麗事など何の価値もない」
黒田は淡々と述べる。
それは虚勢ではなく、己の主義に揺るぎない自信を持っているが故の態度であった。
黒田は三好の身体を一瞥して言う。
「その怪我を見るに、君も殺し合いを経験したはずだ」
「…………」
「率先して人を殺せとは言わないが、ある程度の覚悟は固めるべきだろうね。まあ、この話は後ほど改めてしようか」
三好と黒田が辿り着いたのは、草木に埋没した廃屋の前だった。
割れた扉が開くと、中から茶髪の少女が飛び出した。
少女は勢いよく黒田に抱きつく。
「おじさーん!」
「大声を出すな。他プレーヤーに見つかったらどうする」
「おじさんなら楽勝でしょ」
「まったく……」
黒田は頭を掻いて唸る。
そして思い出したように三好に告げた。
「姪の蓮巳だ」
「よろしくお願いしまーす!」
蓮巳は元気に挨拶をする。
活気溢れるその姿に、三好は困惑気味に応じた。
「み、三好です。よろしく……」
抱きつく蓮巳を引き剥がした黒田は、悩ましそうな顔で補足する。
「蓮巳がこのバイトに応募したと聞いてな。急遽、私も参加することになったんだ」
「おじさんって過保護だよね」
「バイトの正体は人殺しのゲームだったんだ。過保護どころか最善の判断だろう」
「ぶう……」
蓮巳は口を尖らせて拗ねた。
対する黒田は深々とため息を漏らす。
ほのぼのとした雰囲気に、三好は不覚にも微笑んでしまった。




