第42話 乱入する影
三好がサッカーボールキックが丸岡の顔面を捉える。
強烈な衝撃に前歯が欠け、丸岡は悶絶する。
三好は素早く馬乗りになって容赦なく殴り始めた。
「おいッ! お前が! 勝手なことをしてっ! 俺が迷惑してんだよ!」
三好は激昂していた。
ゲーム開始からこれまで抱えてきた緊張や恐怖、ストレスがついに爆発したのである。
限界寸前だったところに丸岡の言動が引き金となり、すべての感情が怒りに注がれた結果、本人すら知らない攻撃性が発露していた。
三好は半ば理性を失った状態で執拗に殴り続ける。
拳の皮が切れて出血するも、それすら気付かず丸岡への攻撃を繰り返した。
苦痛を与えるたびに、彼を苛む不安が薄れていった。
三好が手を止めたのは、殴り始めてから五分が経過した頃だった。
疲労で呼吸を乱しながら、彼は呆然とした表情で眼下の光景を見る。
丸岡は大の字になって死にかけていた。
顔全体が青紫色に腫れて、元の人相が分からなくなっている。
血だらけの唇からは微かに呼気が漏れ、意識が残っているかも曖昧だった。
目からは涙を流している。
三好は尻餅をついた。
痛む手で地面を掻いて後ろに下がる。
その顔は引き攣った笑みを貼り付けていた。
「ははっ……自業自得だ。そうだろ、俺のせいじゃない。だってこいつが殺そうとしてきたから……」
背後から呻き声が聞こえ、三好はぎょっとして口を噤む。
三好はすぐさま振り返る。
木々の合間から歩いてくるのは、腐敗した人間だった。
血塗れの衣服を着てゆっくりと接近してくる。
半開きの口が不気味な声を発していた。
三好は驚いた顔で立ち上がる。
「ゾンビ……?」
三好は慎重に動いて距離を取る。
ゾンビの進む先は、三好ではなく瀕死の丸岡だった。
ふらついた足取りで徐々に迫っていく。
丸岡が目覚めた時、ゾンビは既に目の前にいた。
彼は「うわぁっ」と声を上げて押し退けようとするが、仮想のモンスターには通用しない。
ゾンビは己を素通りした腕に噛み付いた。
丸岡の腕にゾンビの歯が食い込む。
物理的な痛みは皆無だが、ゴーグルの振動がシステム上のダメージを知らせた。
丸岡は匍匐前進で必死に逃げようとする。
しかしゾンビは離れず、連続で噛み付いてHPを削る。
ほどなくして丸岡のHPが尽きた。
ゴーグルからの投薬により、彼は泡を噴きながら痙攣する。
目や口から血を流しながら丸岡は絶命した。
獲物を仕留めたゾンビの視線は三好へと移る。
三好は引き攣った笑顔で自身を指差した。
「えっ、俺……? やめた方がいいって……」
刹那、ゾンビが小走りで襲いかかった。
三好は慌てて逃げ出した。
ショートソードを回収し損ねたことを後悔しつつ、彼は森の中を全力疾走で駆け抜けた。




