第40話 失態
二日目の午後。
島全体に雨が降り始めた。
森を歩いていた鱧は、頭上を見上げて笑う。
「街の火事も治まりそうやね。ラッキーやわ」
「被害が小さいといいのですが……」
「せめて城が残ってないと厳しいなぁ。メインクエストが破綻するかもしれへん」
心配する鱧に志村がのっそりと歩み寄る。
彼は仏頂面で確認した。
「南の村まであとどれくらいだ?」
「何もなければ一時間で着くんちゃうんかな。途中でモンスターが出たら時間がかかるかもやけど」
「大丈夫だ。どんな強敵でも俺が瞬殺する」
志村は自信満々に聖剣と丸太を掲げてみせる。
それを目の当たりにした鱧は「ははは、ほんま頼もしいわ」と返しつつ、小声で三好に言った。
「誰が一番の敵やって話やで」
「ま、まあ確かに……」
三好が苦笑いしたその時、近くの茂みから物音がした。
彼は足を止めて注目する。
(ん? 何だ)
茂みは一切動かない。
三好はショートソードを握ると、ゆっくりと距離を詰めていく。
ショートソードは市場で買った他の武器のチップで改造しており、元の数倍の攻撃力を有していた。
(モンスターでもプレーヤーでも迷わず攻撃するんだ)
三好が攻撃しようとした瞬間、茂みから人影が飛び出してくる。
現れたのは泥と汗に塗れた調教師、丸岡だった。
凄まじい形相の丸岡は、三好の顔面に頭突きを食らわせる。
三好は短い悲鳴を上げてひっくり返った。
「うぎゃっ!?」
後頭部を打った三好は倒れ込む。
視界が揺れる中、彼の耳は丸岡の叫びを聞き取っていた。
「ひいいいいいいいぃぃっ」
叫び声が遠ざかっていく。
三好がなんとか上体を起こした時、丸岡は踵を返して逃げ去っていた。
その手には三好のショートソードが握られている。
「あ、盗まれた……」
三好は鼻血を垂らしながら呟く。
そんな彼を志村がいきなり蹴飛ばした。
派手に転がった三好は、白目を剥いて嘔吐する。
追撃を加えようとする志村の前に、杖を構えた西園寺が立ちはだかった。
「どういうつもりですか」
「こいつは盗賊に武器を奪われた。失態に見合う罰を与えただけだ」
「三好さんに暴力を振るっても武器は返ってきません」
毅然とした態度の西園寺に、志村は何も言い返さなかった。
彼は暴力を中断して三好に告げる。
「立て。お前には挽回する義務がある。あの盗賊から武器を奪い返せ」
「えっ……」
「当然だろう。早く行け」
志村に重ねて命じられた三好は狼狽える。
反射的に鱧を見るも、返ってきたのは無情な返答だった。
「ごめんなぁ。僕はシム兄さんに賛成やねん。改造武器を奪られたのは痛手なんよ」
非難を込めた言葉選びに三好は歯噛みする。
苛立ちはあれど、自身の失態を否定できなかったからだ。
そこに西園寺が助け舟を出した。
「私が同行しましょうか」
「いや、大丈夫……自分で責任を取るから……」
三好は下を向きながら歩き、丸岡が消えた茂みに踏み込む。
志村がその背中に声をかけた。
「俺達は南の村で待っている。武器を取り返したら合流してくれ」
三好は返事をせずに走り出した。
頭突きを受けた顔、蹴り飛ばされた腹が猛烈に痛むも、彼は構わず急ぐ。
「俺だってやれるんだ」
三好は取り憑かれたような顔で丸岡の影を追った。




