第38話 報復の灯火
燃え盛る武器屋から、根岸が外に飛び出した。
焦げた服を着る彼は涙を流し、激しく咳き込みながら倒れ込む。
背中に大きな火傷ができていた。
アテナが無感情な声で尋ねる。
『大丈夫ですか?』
「……こ、れが……大丈夫そうに、見え……るのか……」
『私は人工知能ですのであなたの苦痛を理解できませんが、今にも死にそうだと思います』
「……大正解だ」
根岸はふらつきつつも立ち上がる。
彼の武器屋は赤々とした炎を巻き上げて盛大に燃えていた。
火が鎮まる気配はない。
根岸の脳裏に浮かぶのは、ニヒルな笑みを浮かべる鎌倉の姿だった。
「あいつ、店に放火しやがった。ふざけんなよ、反則だろうがッ!」
『いいえ、反則ではありません。フィールドの建造物への破壊行為は禁じられていません。放火もルールの範囲内です』
「狂ってるだろうが」
『感想はご自由にどうぞ』
律儀に答えるアテナに舌打ちし、根岸は周囲を見回す。
NPCの住民が火災を前に騒いでいた。
ただし物理的な影響力を持たない彼らは逃げ惑うだけで、消化することはできない。
火はどんどん広がり、既に両隣の建物に移り始めていた。
根岸は悔しげに唸り、がしがしと髪を掻き毟る。
「店の商品は……くそ、もう手遅れだ。回収できないよなぁ……」
『この場に留まると一酸化炭素中毒で死亡します。速やかに離れることを推奨します』
「……黙ってろよ」
『申し訳ありません。出過ぎた真似でしたね』
根岸の手には杖が握られていた。
彼は陰湿な悪意を隠さず、吐き捨てるように呟く。
「――ヤケクソだ。こうなったら滅茶苦茶にしてやる」
根岸は火の回っていない店に駆け寄ると、そこにある商品を片っ端から掴み取った。
すぐさま店主のNPCが止めようとする。
「おいあんた! 何盗んでやがる!」
「どけよ」
根岸が店主に杖を向ける。
放たれた緑色の閃光が店主を貫き、その肉体に穴を開けた。
さらに根岸は、視界内のNPCを次々と閃光で抹殺する。
誰もいなくなった通りで、根岸は堂々と商品を盗んでいく。
『おめでとうございます。レベルアップしました』
アテナの通達にも根岸は反応しない。
ぎらついた復讐心が彼の思考を支配していた。
「あの放火野郎を見つけて殺すまで、俺は死なないぞ……!」
血走った目で根岸は決意を固めるのであった。




