第36話 妄想の渦中
志村の発言で場が凍りつく。
そんな中、鱧がわざとらしく笑って反応した。
「あはは、異世界召喚なー。シム兄さんは冗談が上手いんやね。まあ、ゲームって没入感が大事やし、キャラ設定を固めるのはアリ……」
志村の手が伸び、喋る鱧の首を鷲掴みにした。
鱧は咄嗟に抵抗するがびくともしない。
全身から殺気を迸らせながら、志村は地鳴りのような声で言う。
「俺が冗談を言っていると?」
「ちょ、待ってや。そんな怒ることちゃうやん」
「ふざけるな。そうか、お前も同じなんだな」
首を掴む手の力が増し、鱧が目を見開いた。
顔がみるみる紫色に変色していく。
「どいつもこいつも俺が狂っていると言う……ヤク中のクズだと罵ってくるんだッ」
「なあ、一旦落ち着こ。ヤバい顔してるで」
「俺は憧れの異世界に召喚された! これは真実だ! 否定するな! 俺から奪うなァッ!」
志村が叫んだその時、三好が割り込むように発言した。
「ゆ、勇者様! この者の無礼をお許しください!
謝罪する三好を志村が見下ろす。
その眼力に怯みつつ、三好はなんとか言葉を続けた。
「我々は転生者です。前世は日本人ですが、現在の記憶と混ざり合って混乱することがあります。そのせいで妙なことを口走ってしまうのです」
「なるほど……さっきの言動はそういうわけか」
「はい。なので今後はお気になさらず対応していただけると助かります……」
三好は深々と頭を下げて告げる。
すると志村は鱧を解放した。
鱧は首を撫でながら激しく咳き込む。
それを横目に志村は三好に謝った。
「分かった。怒鳴ってすまない」
「いえいえ! ご理解に感謝します」
「旅の準備をしてくる。少し待っていてくれ」
志村は三人に背を向けてどこかへと歩き去る。
鱧はその場に座り込むと、ぐったりとした様子で呻いた。
「はあ、死ぬかと思ったわ。ミヨシン、ありがとうな」
「いや……上手くいってよかったよ」
三好は自分の胸を撫でながら言う。
心臓は凄まじい速度で鼓動を鳴らしていた。
三好は志村の消えた方角を見て述べる。
「あいつは自分が異世界に転生したと思い込んでいる。俺は妄想に合わせて応えただけなんだ」
「なんか転生者とか言ってたな」
「Web小説でよくある設定なんだ。とりあえず勢いで喋ってみたけど、ちゃんと本人には通じたらしい」
説明を聞いた西園寺は、三好の手を取った。
そして輝くような微笑で賞賛する。
「私はそういった分野に疎いものでよく分かりませんが、平和的に治まったのは三好さんのおかげですね。ありがとうございました」
「ほんまな。危うく殺し合いになるところやったわ」
「い、いや……それほどでも……」
二人に褒められた三好は照れる。
明確に役立てたことで、彼は少し自信をつけることができた。




