第34話 宣教師
十五分後、三好達は謁見の間から退室する。
扉が閉まった瞬間、鱧はこれ見よがしに悪態をついた。
「あのおっさん、話長すぎるやろ。ダルくなって途中で出ようと思ったわ」
三人は歩いて城内を移動する。
しばらく鱧の愚痴が続いた後、彼は思い出したように言った。
「それで何するんやっけ」
「私達より先に魔王討伐を引き受けた勇者と合流します」
「勇者かー、物語的には主人公っぽいんよな。重要なNPCか、或いはプレーヤーか……今のところ微妙やね」
「実際に会って確認すれば分かります。すぐに向かいましょう」
「まあそうやね」
不意に鱧が立ち止まった。
彼は三好に訊く。
「勇者はどこにおるの?」
「城の中庭にいるそうだが……本当に話を聞いてたなかったんだな」
呆れる三好に対し、鱧はわざとらしく笑って応じる。
「二人に任せとけば問題ないやろ」
「このゲームで他人を信じすぎるのはどうかと思いますよ」
「じゃあサイちゃんは僕らを殺すつもりなん?」
鱧が探るように尋ねる。
数秒の沈黙を経て、西園寺は涼しい表情で述べた。
「——どうでしょうね。正当防衛なら躊躇いませんよ」
「ちょうどええ答えやな。うんうん、よかったわ」
張り詰めた空気が霧散し、三好はほっと胸を撫で下ろす。
中庭を目指す三人は、途中で広間に通りかかった。
広間では黒いドレスに身を包む若い女が演説を行っている。
演説を聞くのは使用人や騎士、貴族達だった。
彼らは一様に驚きや感動を示している。
その光景に興味を抱いた鱧は、近くにいた使用人を呼び止めて尋ねた。
「なあ、あれって誰なん?」
「宣教師様です。優れた才覚を持つお方で、ああやって王国を賛美する教えを説いているのですよ」
「その宣教師様はいつから城におるの?」
「昨日からですね! 大臣が特別に雇い入れたと聞きました」
使用人から情報を得た鱧は、意味深な表情になる。
彼は質問した使用人に礼を言った後、小声で西園寺と三好に言う。
「昨日ってゲーム開始のタイミングやん」
「プレーヤーでしょうか」
「可能性は高いな。ちょっと注意しとこか」
短い会話を終えた鱧はさっさと広間から立ち去ろうとする。
三好がすぐに訊いた。
「放っておいていいのか」
「下手に関わって殺し合いになるよりマシやろ。まあ、何するか分からへんし、警戒した方がええのは確かやね」
鱧は一度だけ振り返って宣教師の女を見やる。
女の演説により、広間では割れんばかりの拍手が巻き起こっていた。




