第29話 擬態
三好達が立ち去ったのを見て、武器屋の店主——根岸は大きく息を吐き出した。
根岸は悔しげに顔を歪める。
(関西弁の奴には気付かれたな……)
根岸は武器商人のプレーヤーである。
この店舗で目覚めた彼は、豊富な資金と店に陳列された魔法武器を所有していた。
初期スキルも所持金に関するもので、他のプレーヤーに比べるとかなり恵まれている。
一方で戦闘向けの能力を持たず、何より根岸自身が運動を苦手としていた。
普段からゲーム実況で生計を立てる彼は外出も滅多にしない。
そんな根岸にとって、現実とVRを融合させたトゥルー・ライフ・クエストは過酷なルールだった。
余計な疲労を避けるため、根岸は移動範囲を街中に絞っている。
なるべく戦闘のリスクを避けて武器屋に引きこもっていた。
経験値はあまり稼げていないものの、不特定のタイミングでGが支給されるスキル【豪商】によって地道に所持金を増やしている。
(だが、このままでは駄目だ。いずれ殺されてしまう。どこで動き出すかがポイントだ)
アテナからの情報提供で、根岸はトゥル・ライフ・クエストがデスゲームであることを知っていた。
故に焦っている。
潤沢な資金だけでは殺し合いに勝てないと理解しているのだ。
そして、自分の身体能力では真っ向勝負でも話にならないと分かり切っていた。
(搦め手しかない。資金力を活かせる作戦を考えないと……)
根岸が今後の方針に悩んでいると、武器屋に新たな客が入ってくる。
それは盗賊のプレーヤー鎌倉だった。
鎌倉は無言で店内を巡って商品の物色をする。
その間、根岸は下を向いて固まっていた。
(くそ、またプレーヤーっぽいな。早くどっかに行け!)
根岸の祈りとは裏腹に、鎌倉は一向に立ち去らない。
勿体ぶるような動きで悠長に商品を眺めている。
不気味な沈黙の中、根岸が痺れを切らしかけたその時、鎌倉が不意に早足になった。
彼は根岸の前までやってくると、不敵な笑みと共に言う。
「表情でバレバレだ。お前、プレーヤーだろ」
「……ッ」
根岸は息を呑む。
そして、自分の反応が答えになってしまったことに気付いた。
鎌倉は声を発して笑うと、ゲーム用武器のサーベルを彼に突きつけた。
刃先を軽く揺らしながら鎌倉は告げる。
「すまんが、ちょっと金を恵んでくれねえか。色々と必要そうで困ってるんだ」




