第23話 拮抗した実力
薮蛇が掴んだ砂を投げた。
笹川が目を閉じた瞬間、彼は槍を振りかぶる。
ところが笹川は目を閉じたまま裏拳を繰り出す。
気配を読んだその一撃は、薮蛇の脇腹に炸裂した。
薮蛇は車に撥ねられたような挙動で宙を舞う。
そして地面に倒れて動かなくなる。
笹川は大股で歩み寄り、追撃で踏みつけようとする。
紙一重のところで薮蛇は起き上がり、片手をすくうように突き出した。
その指先は釘をつまんでいた。
先端が笹川の目を狙う。
笹川は突き刺さる前に身を翻し、そこから強烈な回し蹴りへと繋げた。
足は空を切ったが、薮蛇の目潰しを防ぐことには成功した。
釘と砂を握る薮蛇は楽しそうに言う。
「すごいねー。格ゲーみたいな動きするじゃん。どっかで習ったの?」
「色々な格闘技を習得している。今は我流だ」
「へえ、努力家だね」
数分間の戦闘を経て、二人はそれなりに負傷していた。
まだ大きな傷はないものの、動き続ければ出血多量に陥りかねない。
二人の実力は拮抗しており、互いに致命打を与える隙を探り合っていた。
薮蛇は周囲の景色に注目する。
日没を迎えた草原は闇に包まれている。
しかし、薮蛇の視界はまるで昼間のように良好だった。
暗殺者の初期スキル【暗視】により、ゴーグルが明るさを自動調整しているのだ。
スキルを持たない笹川の視界は裸眼と同じ状態で、戦いやすさは薮蛇に軍配が上がる。
殺し屋として培った戦闘技能も一役買っていた。
一方で純粋な身体能力は笹川が上である。
さらに真っ向勝負になった場合、彼の格闘技脳は薮蛇を凌駕する。
研ぎ澄まされた打撃は、掠めるだけでも無視できない損傷を与える。
笹川にとって、ここまで長時間の戦いはほとんど初めての経験だった。
彼は薮蛇の強さに感心し、そして歓喜している。
薮蛇と笹川はじりじりと距離を詰めていく。
膨れ上がった二種の殺意が爆発寸前にまで張り詰めていた。
己の衝動のままに相手の命を奪おうと喘いでいる。
互いを攻撃の間合いに捉えるその時、離れた場所から無数の咆哮が発生した。
二人は無言で同じ方角を見る。
猛然と突き進んでくるのは数十体の魔物の大群だった。
種族も大きさもバラバラな大群が薮蛇と笹川を目がけて走ってくる。
ため息を吐いた薮蛇は笹川に尋ねた。
「またゲームの妨害かー……どうする?」
「戦いの邪魔だ。先に殲滅するぞ」
「つまり結託するってこと?」
「そうだ。早くゲーム用の武器を装備しろ」
二人はそれぞれ武装を切り替えると、魔物の大群と対峙する。
彼らは軽く目配せすると、笑いながら疾走を始めた。




