第19話 一触即発
藪蛇が一定のテンポで槍を振るう。
痛め付けることが目的のため、穂先以外を使って三好が死なないように手加減している。
「ほらほら、もっと抵抗してよー。ガッツを見せてよー」
三好は何もできずに攻撃を受け続ける。
既に全身が痣だらけで、あちこちから血を流していた。
意識も曖昧でぐったりとしており、槍で小突かれても反応しない。
それが気に障ったのか、藪蛇は冷めた目で見下ろす。
「ねえ、もう殺していい? さすがに飽きたんだけど」
藪蛇のゴーグルが振動した。
彼は目を細めて足元を確認する。
三好の握るショートソードが爪先に触れていた。
執拗に殴られながらも、執念で反撃を行ったのだ。
うっすらと目を開けた三好は、鼻血を垂らして言う。
「い……や、だ……おれ、は……い、きるん……だ……」
三好は必死にショートソードを動かす。
そのたびに薮蛇のゴーグルが揺れてHPが削られていく。
反撃を受ける薮蛇は嘲笑し、ショートソードを踏み付けて止めた。
「あはは、無駄な努力だねー。惨めすぎて泣けてくるよ」
槍の穂先が三好の喉に突き付けられる。
藪蛇は笑顔で手を振って告げた。
「じゃあ、バイバイ」
槍が押し込まれる寸前、薮蛇が飛び退く。
彼のいた場所を火球が通り過ぎた。
回避が一瞬でも遅れていれば命中する軌道だったろう。
薮蛇は大げさに肩をすくめて苦笑する。
「あのさー、空気読んでよー。せっかく殺すとこだったのに」
彼の見つめる先には、杖を構えたローブ姿の美女が立っていた。
女優のように端正な顔立ちで、強い意志を持つ双眸が藪蛇を捉えている。
美女は毅然とした口調で述べる。
「戦いをやめて立ち去りなさい」
「え? 従うわけないでしょ」
「私の魔法は高威力です。あなたを一撃で葬ることができます」
「悪いけどHPにはまだ余裕があるよ」
「残り8」
美女の発言に藪蛇が眉を曲げる。
それは彼の現在のHPと同じ値であった。
美女は杖を構えたまま説明する。
「私は【観察眼】で他者のHPが分かります。あなたは軽視していましたが、その男性の攻撃は無駄ではなかったようですね」
「…………」
薮蛇はため息を洩らす。
僅かな苛立ちを含むため息だった。
彼は槍で肩を叩いて愚痴る。
「ゲームって面倒だね。ただの殺し合いなら何も問題なかったのに」
「あなたは追い詰められています。認めてください」
「感じ悪いね。殺されたいの?」
藪蛇と美女は睨み合う。
その膠着状態を破ったのは三好だった。
三好はショートソードで攻撃を図るも、蹴り飛ばされて昏倒する。
薮蛇は木の槍を投擲した。
西園寺は回避しながら火球を放つ。
高笑いする藪蛇は転がって躱すと、素早い動きで走り出す。
彼の向かう方向には誰もいなかった。
「二人とも顔は憶えたよ。また殺し合おうねー」
それだけを言い残し、藪蛇はその場から消えた。




