第17話 PK
鱧が思い出した様子で三好に尋ねる。
「ドロップアイテムはどれくらい集まったん?」
「えっと……だいたい三十個くらいかな」
「ぼちぼちやね。とりあえずストックしといてな」
鱧に言われた三好は、メニュー画面の持ち物欄を確認する。
そこには今まで倒したモンスターの部位が並んでいた。
冒険者の初期スキル【狩猟】は、倒したモンスターから一定確率でアイテムを取得する。
アイテムは実体ではなくデータ上の存在だが、売却して所持金を増やしたり、使用することでHPやMPの回復したり、NPCとの交渉に使えたりと様々な用途がある。
三好は必要な時のために可能な限り温存するつもりだった。
ぐっと伸びをした鱧は辺りを見渡す。
日没間際の草原は影が伸びて不気味な様相を呈していた。
点在する樹木が風に吹かれて揺れている。
鱧は気さくな調子で歩き出した。
「時間が時間やし、一旦戻ろっか。ミヨシンも疲れてるやろ?」
「まあそこそこ……」
「じゃあ、さっさと街に戻るで」
二人は遠くに見える街を目指して進む。
街の外壁には近代的なライトが設置されており、夜間でも見失わないようになっていた。
「酒場でクエストの報酬を貰えるから、その金でどっかに泊まれるやろ。RPGっぽさを考えたら宿屋とかあるんとちゃう?」
「確かに。野宿は嫌だな」
「ほんまね。腹も減ったし何か買わんと」
会話の途中、三好がふと険しい顔をする。
彼は何度か躊躇した後、意を決して発言した。
「なあ、鱧さん」
「どしたん?」
「この調子でレベル上げしてたら生き残れるかな」
三好の疑問に対し、鱧は首を曲げて考え込む。
やがて鱧はあっさりと答えた。
「あー……厳しいね」
「えっ!?」
「そりゃそうやろ。ミヨシンはこのゲームの本質を理解してへんな」
鱧が軽く笑う。
そこには呆れや嘲りが含まれていたが、動揺する三好は気付いていなかった。
笑みを消した鱧は淡々と説明する。
「たった一度のミスが死に直結する。そんな環境が七日間も続くんや。難易度がシンプルに高いし、心身がゴリゴリ削られてまうわ」
「でも危険な状況になったら街に籠城すればいいし……」
「街は安全なん? 絶対にモンスターが出てこないって断言できる? これからゲームがどう展開するか分からへんのに不安はないの?」
「そ、それは……」
三好は下を向いて黙る。
反論するだけの言葉や根拠は何一つなく、言い返すことはできなかったのだ。
鱧はそのまま言葉を続ける。
「ついで説明しとくとな、この島にはPK……プレイヤーキラーが紛れとるかもしれへん。ようするに殺人者や」
「そんな馬鹿な」
「この状況で暴れ出す連中がいても不思議じゃないやろ。疑うんなら証拠を見せたるわ」
鱧が立ち止まった。
彼は虚空に向けて質問を投げかける。
「アテナ、プレーヤーを殺すのは反則なん?」
「反則ではありません。プレーヤーを殺害すると賞金の最終額が二倍になります。このボーナスはゲームシステムに因らない殺害にも適用されます」
「ほらな? トゥルー・ライフ・クエストはPK推奨やねん」
鱧は当然と言わんばかりに肩をすくめた。
対する三好は絶句する。
そのルールは薄々ながら予想できていたものの、いざ情報として突きつけられるとショックは大きかった。
鱧は三好の背中を乱暴に叩きながら言う。
「PKに狙われることを考えたら、悠長にレベルアップしとる場合ちゃうねん。明日からペース上げてくで」
「わ、分かった。一緒に頑張ろう」
「よしよし、その意気や」
、微笑む鱧の表情が固まった。
振り返った彼は目を見開いてしゃがみ込む。
次の瞬間、三好は後頭部に衝撃と痛みを感じた。
彼は姿勢を崩して転倒した。
視界がどろどろと赤く染まっていく。
(な、何が起こったんだ……?)
混乱する三好に近付く者がいた。
それは暗殺者のプレーヤー、薮蛇だった。
「こんばんはー、突然だけど死んでもらえる?」
穏やかな口調の薮蛇は、木の槍を掲げていた。




