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第1話 奇妙なバイト

 三好みよし秋彦あきひこは無気力な目で求人サイトを眺めている。

 スマートフォンをスクロールする指は半ば惰性で動いており、内容を精査していないのは明らかであった。

 公園のベンチに座る彼は嘆息する。


「……俺に合う仕事がない」


 三好は自堕落な男だった。

 生まれてから二十五年、物事に本気で挑んだ経験がない。

 それは単に怠惰なだけではなく、何より失敗を恐れているからだ。


 真剣勝負で負けたくない。

 挫折を味わいたくない。


 臆病な本音を誤魔化し続け、言い訳を繰り返してきた結果、三好は万年フリーターという状況に陥っていた。

 己を変えたいと望みながら何もできず、漠然とした焦りを抱えて現在に至る。


「はあ、楽して稼げないもんかな……」


 疲れた顔でぼやく三好は、とある求人情報を見て指を止める。

 それはゲームのテストプレイヤーのバイトだった。


 資格、年齢、性別、職歴いずれも問わず。

 期間は一週間の泊まり込み。

 毎日三食の食事付き(無料)

 給与は最低百万円から。

 その他働きに応じた手当あり。

 詳細は当日に説明。


「怪しすぎだろ」


 三好は呆れた様子で呟く。

 都合が良すぎる条件を鵜呑みにするほど彼は馬鹿ではなかった。

 応募してから条件を覆されるだけならまだいい。

 犯罪に加担する闇バイトの可能性もあった。


 常識的な判断力があれば、絶対に応募することはない。

 それが三好の導き出した結論だった。


「…………」


 三好はしばらく求人情報を見つめる。

 眉間に皺を寄せ、顎を撫でて熟考する。

 やがて彼は意を決してテストプレイヤーのバイトに応募した。

 スマートフォンを置いた三好は、どこか満足そうに笑う。


(どうせ価値のない人生だ。大儲けのチャンスがあるなら挑戦するしかないだろ。詐欺なら詐欺で諦めればいいし)


 彼にとって現在の生活は、決して守りたいものではなかった。

 目を背けているだけで、他人に誇れる状況でないのは自覚している。

 だからこそきっかけを求めていた。

 チャンスさえあれば変われると、彼は信じていた。


 軽い気持ちで決断した三好はベンチを立って公園を出る。

 彼は昼食を食べに行こうとして、その前に財布の残金を確かめる。

 財布に紙幣は一枚も入っていなかった。


「今月はバイトもサボってたからなぁ……」


 物悲しい気分になりつつ、三好は手のひらに小銭を出して数える。

 全部で四百二十円あった。

 三好はその足で最寄りの牛丼屋へと向かう。

 テストプレイヤーのバイトの採用が決まったのは、それから二日後のことであった。

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