任務その7 王国の影はつらいよ
──サフィア王国王城内──
「いいか、何が起きても対処できるように、万全の態勢で臨め。特に街中では注意しろ。何が起こるかわからないからな」
「はっ──心得ましてございます」
一見誰もいないように見える薄暗闇の中、どこか張り詰めたような厳しい声が聞こえる。王太子ケビンと彼の直属の影の者である。
ここは王太子の執務室。既に夕闇が迫る時刻であるが、王太子のケビンは険しい表情のまま机に向かっていた。
急遽持ち込まれた厄介な案件──それは対処を誤れば甚大な被害をもたらすだろう。差し迫った状況の中、ケビンはできうる限りの最善の手を打つことにした。そしてそれを実行させるため、影の者に命じたのだ。
影の者は、ケビンからの命を受けるとすぐさま任務に向かった。音もなく部屋を辞す影──王国でも屈指の実力を持つ者である。
残されたケビンは、立ち込める重々しい空気の中に一人深い溜息を吐く。気がかりなのはただ一つ。この任務が成功するかどうかだ──
「……頼むぞ………皆……」
その真摯な呟きは、夕暮れの茜色に溶けて行った。
──────────
王国の暗部を司る者として、王太子の命を受けたその影の男は、薄闇に色を変えていく街中を部下の者達と共に音もなく駆けていた。
目指すは王国最強を誇ると言われる騎士団長アルフレッドの向かう場所。確実にその任務を遂行する為に、影の者を総動員して行う作戦は万全だ。
だが相手はこの国一番の実力を持つ騎士。剣の腕前だけでなくその全身から放たれる蒼雷の魔法は、魔法師団の師団長さえも凌ぐほどの威力と言われている。
そんな化け物のような男が相手なのだ。例えこの身が蒼雷の返り討ちに遭おうとも、敵の思い通りにさせるつもりはないと、その影の男は誰よりも鬼気迫るものを滲ませていた。
その影の男にとって騎士団長のアルフレッドという男は、これまでも何度も対峙してきた相手──だが常に苦戦を強いられてきた宿敵ともいえる相手だ。
王国一の影としての自負を持つ男は、これまで何度も負けを喫してきたアルフレッドの姿を思い浮かべては、その憎しみにも似た感情を唇を強く噛みしめることでやり過ごす。
今日こそ──そう、今日こそだ。この積もり積もった雪辱を晴らす時。あの男よりも自分の方が優れているのだと、ここではっきりと証明しなければならない。それこそが王国一の影である己に課された使命だ。
そして男はついに、宿敵の姿を見つけ出した──
────────
「団長……本当にここですか……?その……私が思っていた店と違うようですが……」
「いや、ここで合っている(ぬーん)」
「えと……でもここ、武器とか防具を扱っているお店のようですが……よそ行き用の服とか置いてあるのでしょうか……?」
「大丈夫だ。ここなら王国一安全な装備を買えるだろう。間違いがあってはいけないからな(※ドヤ顔)」
騎士団長のアルフレッドと書記官のマーガレットがいるのは、王国一の呼び声高いとある武具店の前。
マーガレットのお見合い用の服を買いに来たというのに、何故かアルフレッドは、己の御用達である武具屋を案内していた。いつもながら女心の全くわかっていない非常に残念な男である。
流石のマーガレットも武具屋に来ると思っていなかったのか、店の前で立ち尽くして困惑気味だ。
そんなデートとは程遠い買い物をしようとしている二人を見守る者達がいた。王太子ケビンの命を受けた影達である。
『おい!なんで武具屋なんかに来てるんだよ!ちゃんとおススメのブティックに馬車を向かわせるように指示しただろ?!御者役の影はどうした?!』
しょっぱなから作戦失敗の予感に、まとめ役の影──ここからは影一号と呼ぼう──が、部下を叱り飛ばした。
恋愛へっぽこ騎士団長のアルフレッドが、愛しのマーガレット書記官と仕事終わりのデートをするとの情報を得た王太子直属の影達は、すぐさまケビンにこれを報告し、その対策を仰いでいた。
城内でなら何かあったとしても(※主に蒼雷)、被害は最小限で済むが(※被害者はおおむね騎士団員達)、市井ではそういう訳にもいかない。一般市民にアルフレッドの蒼雷が炸裂しようものなら、騎士団への不信感だけでなく王太子ケビンの立場も危うくなりかねない。それほどこの恋愛へっぽこ騎士団長は何をするかわからない危険人物なのである!
だからこそ万全の態勢を整えて、アルフレッドのデートコースをあらかじめ計画し、彼の家が持つ馬車の御者にも協力してもらい、影達の思惑通りの店へと連れて行こうとしたのだが──
『それがあの騎士団長……馬車の中で書記官殿と二人きりになるのが恥ずかしくてどうしても無理だって──それで自分で馬車を操縦するからと、御者役の影に交代しろと迫ったようで……何とか阻止しようとしたらしいのですが、チョークスリーパーからのジャイアントスイングの合わせ技で強引に走る馬車から降ろされたらしく……』
『だが他の影はどうした?!御者以外にも何人もつけていただろう?!』
『それなんですが……馬車を尾行していた者はことごとく盗賊か何かだと勘違いされた上、蒼雷の連続攻撃に見舞われ………くっ……影二班は……壊滅させられましたっ………!』
『んなっ……!?そんな馬鹿なことがあってたまるか!おのれ……○○騎士団長めっ……!どこまでも私の邪魔をしやがる……っ!』
影二号の報告に、激しい憎悪と共にこめかみに青筋をビキビキと立てる影一号。どうやらデートコースをうまいこと巡るように指示を出していたはずの影二班は、御者役を含めて既に全員が戦闘不能にさせられたようだ。
今日こそあの騎士団長を影の精鋭達の思うままに動かすはずが、あっという間にその戦力の三分の一を削られた形となってしまった。
だがこれしきの事で挫けるような影一号ではない。何故なら彼は王国一の実力を持つ影だからである。
『今から店の変更をするにも対応が難しい!それにあの馬鹿のことだ……何が何でも自分の薦めた店でしか買おうとはしないだろう!何せあの馬鹿のことだからなっ!』
最早、馬鹿という悪口を少しも隠しはしない影一号は、憤怒の表情のまま状況を分析した。
騎士団長のアルフレッドという存在は、王国の最強騎士である以前に、彼等影達の最大の敵である。これまでもケビンの指示で似たような対処を何度も求められてきた。その度に影の者達は幾度も辛酸を舐めさせられてきたのだ。
騎士と影という同じ国を守る立場の者とはいえ、彼等の間には決して相いれない深い溝がある。ひとえにそれは、あの恋愛へっぽこ騎士団長が、マーガレット書記官に関わることにおいては、とんでもないアホでバカな思考回路になり、そしてそのとんでもない考えを王国最強の戦闘力をもって実行に移すせいである。
だからこそ王太子直属の影を束ねる影一号は、アルフレッドのことを、王国に歯向かうどんな敵よりも危険で油断ならない相手と認識し、その行動や思考を分析することに努めていた。王国の──いや、彼自身の最大最悪の敵と認識するが故である。
『ブティックの方にやっていた影三班に指示を出せ!今からあの武具屋がブティックの代わりだ!何と言いくるめてもいいから、まともな服を買わせるように総員で対応しろ!』
『はっ!』
影一号の指示にすぐさま動き出す影二号。命令に忠実な影であるが、あれ?なんで俺、あんな○○のデートを成功させる為に、こんな必死になっているんだ?──と疑問に思わなくもない。
だが既に彼等の仲間である影二班が、憎っき騎士団長の為に、壊滅させられたのだ。影の一員として、到底それを許すわけにはいかない。敵のデートを成功させるのは非常に癪ではあるが、自分達影がどれだけ優秀であるかを示さなければ、彼等の矜持が許さないだろう。
そんな決意を胸にして走り去る影二号を見送り、影一号は再び宿敵へと視線を向けた──
──────────
「ほらこれなんかどうだ?防御力が高そうだ」
「えぇっと……確かにものすごく防御力は高そうですが……お見合いにはちょっと向かないかもしれないですね?」
「っ──!!」
お見合い──という言葉に、アルフレッドがビクッと反応する。眉間にぐわッと皺が寄るが、影一号はその程度では蒼雷が発動しないことを知っている。
『これまで何度も見合いというワードを聞いてきた上に、買い物の目的も一応認識しているだろうからな』
そう独り言ちながら状況を見守る影一号。だが蒼雷の被害が出ないのは大前提であり、その上でマーガレット書記官にまともな服を買わせるというのが至上命題である。
そんな影一号の想いとは裏腹に、恋愛へっぽこ騎士団長は、尚も自分がおすすめだと思う装備をマーガレットに提案している。最早それは服ではなくただの防具だ!と誰もが思わなくもないが、当の本人は全く気が付く様子はない。
「こっちは攻撃を受けた時に、自動で反撃の魔法が組み込まれているやつだ。これなら例え相手が不埒な行為に及ぼうとしたとしても、一瞬で撃退できる。これがいい、是非これにしよう」
「えと、撃退ですか?その団長……私はお見合いに行く予定なのですが……戦か何かと勘違いされているのでは……」
マーガレット書記官の戸惑いは最もであるが、女心の全くわかっていないアルフレッドは本気だ。彼の中では既にマーガレットは望まぬ戦に泣く泣く参加させられ、あわや乙女の貞操の危機と言ったところであるが、マーガレットからしてみれば可笑しな装備を買わされそうになっている危機である。
その時、武具屋の奥から店員が現れた。
「お客様、よければこちらにおススメがございますので、どうぞ見て行ってください」
にこりと微笑むその姿は、中肉中背のいかにも凡庸な一般人。だがしかし!その正体は何とか潜入を成功させた影三班の人員である!
「あ、ありがとうございます!わぁ、素敵な服ですね!」
店員に扮した影──ここからは影三号と呼ぼう──は、早速と言って本来アルフレッド達を誘導するはずであったブティックから持ち込んだ服の数々を店頭に持って来ていた。この中から選ばせる心づもりである。しかし──
「こんなペラペラのものでは、危険すぎる。もっと防御力の高いものはないのか。間違いがあってはいけないからな」
防御力なんて見合いに必要ないだろ!クソ〇〇がっ!!──と内心思いながらも笑顔を崩さずに接客している影三号であるが、彼とて何度も騎士団長の相手をしてきた精鋭中の精鋭である。アルフレッドの考えることなど既にお見通しだ!
「ですが見ればこちらのお客様用の服をお求めのようで。あまりにごてごてとした重装備では、彼女が逆に疲れたり怪我をされてしまうかもしれませんよ?」
「ううむ、そうか……」
すかさず店員に扮した影三号が、マーガレットを引き合いにまともな服を勧めれば、アルフレッドもようやく納得したようだ。
『よし!よくやった!影三号!その調子だ!!』
離れた場所で見守る影一号は、ようやく作戦が成功の兆しを見せて、心の中で超絶ガッツポーズを決めた!だが油断大敵とはよく言うもの。何せ相手は王国最強騎士団長である!
「では一度こちらをご試着なさいますか?」
「えぇ、そうします」
「ではこちらの試着室へどうぞ」
ようやくまともな買い物ができそうだと誰もがそう思った時──
──ピシャァァンッ!!──
「ぐはぁっ!?!」
『っ──!??!?!!』
何故か突然、騎士団長の凄まじい蒼雷が発動した!
憐れ影三号──ようやくその手におススメの服を買わせるという勝利を掴もうとしていたのに、蒼雷の前に灰と散った。
「わっ!大丈夫ですか?!一体何が……」
店員の後について店に入ろうとしていたマーガレットは、突然の落雷に驚いているが、単にアルフレッドの突発的な蒼雷が発動したに過ぎない。ブスブスと黒い煙を上げながら倒れる店員を心配そうにのぞき込んでいる。
『ぐぬぬぬっ……!こんのクソ○○騎士団長めっ……クソがっ!』
あっという間に影三号が戦闘不能にさせられ、影一号は悔しさに地団駄を踏みながら歯ぎしりをした。そこへ影三班の人員を武具屋まで連れてきた影二号が戻ってきた。しかし気が付けば既に一人やられていて目を丸くして驚いている。
『お頭……何故あそこで蒼雷が……?途中まではうまくいっていたようでしたが……』
『……恐らく試着という言葉に反応したのだろう。何せ相手はクソ〇〇の単細胞だ!試着という単語だけで書記官殿の着替えの様子でも妄想したに違いない!これだからクソ〇〇はっ!なんであんな奴がうちの騎士団長なんだ!おかしいだろっ!?クソがっ!○○っ〇〇っ○○〇!』
影二号の疑問に、的確な分析と怒濤のような悪口をまくしたてる影一号。どうやら今にも血管がブチぎれそうなほど鬱憤が溜まっている様子。影という職業柄、殉職となる者も多いが、影一号の場合は先にストレス過多でやられるかもしれない。
そうこうしている間にも、影三号以外の店員に扮した影達が次々と新しい服を勧めていくが、既に脳内が試着というピンクな妄想でいっぱいになっているアルフレッドが放つ蒼雷の前に、そのことごとくが倒れていく。最早、武具屋の前は屍の山が築かれつつあった。
『あぁっ!他の影達も……このままじゃ影三班も壊滅です!』
『くっ……!仕方ない!こうなったら俺が行くっ!』
『お頭っ!!』
『行くぞっ!!』
『はいっ!!』
****************
「お客様にはぁこちらの装備がおススメですよぉ?お客様ほどの立派な肉体をお持ちでしたらぁ、この装備をつければどんな女性も虜にすること間違いなしですよぉ!」
「っ──!女性を虜だと……?」
不自然なほどの笑顔でアルフレッドに向けて接客をしているのは、王太子直属の影達をまとめる影一号である!顔の筋肉が引き攣るほどの笑顔を作らなければ、速攻「クソ馬鹿○○野郎!」と罵ってしまいそうなため、若干語尾が伸びて気持ち悪い仕様である!
だが流石にこれまで何度も宿敵であるアルフレッドと対峙してきただけはある。彼は装備を勧めるターゲットをアルフレッドに絞っていた。そしてアルフレッドがそちらに気を取られている間に、マーガレットに普通に買い物をさせようという作戦だ!
「ここはひとつどぉでしょうかぁ?!素敵なお客様の魅力をもっと高められたはいかがですぅ?その方が女性の方も嬉しいでしょうしぃ?」
「む……女性も嬉しいと……」
「そぉですよぉ!お客様ほどのぉ、ご立派な男性ならばぁ、きっと女性の方も惚れ直すに間違いなしですよぉ!あひゃっ、あひゃっ、あひゃっ!あひゃひゃひゃひゃっ!」
心にもない褒め言葉を口にする影一号は、半分白目を剥きながら気色悪い笑い声をあげて、既に精神ぶっこわれ状態である!内心はらわたが煮えくり返るほどの激しい憎悪が渦巻いているが、それを微塵も出さないのは流石王国一の影だ!(※しかし知らない者にとってはただの不審者である!)
「そうか……それもいいかもしれないな……(…………チラッ……チラチラッ!)」
影一号の尽力でアルフレッドがその気になったようだ!装備を選ぶフリをしながら、愛しのマーガレットの様子をチラチラと窺っている。
しかしすかさず影一号が回り込んでアルフレッドの視界を遮る。何せ今、マーガレット書記官は店員に扮した影二号によって、既に見合い用の服の購入について話し合っているところだ。ここまで来て邪魔されるわけにはいかない!
「ささっ!お客様もぉこちらでどうぞ装備してみましょうよぉ!きっとぉものすごぉーく!カッコいいですからぁ!!」
そう言って強引にアルフレッドにある防具を被せた!それは黒い金属でできた顔を全て覆うタイプの兜で、どこか禍々しい気を放っている!いかにも呪われそうな防具だが、影一号は普段の恨みも込めているのでお構いなしだ!
「むっ……これは…………!!」
流石のアルフレッドもその怪しげな防具に何かを感じ取ったようだ!兜で覆われてその表情はわからないが、シュコーシュコーと、暗黒面な息吹をしつつ何やら思案している!
「こちらはぁ!とある魔導士の作った特殊な防具でしてぇ、敵の魔法を封じ込めるすごぉい効果がある鎧なんですよぉ?(敵ってお前のことだがなっ!封じるのはお前の蒼雷だけどなっ!)兜だけでなくてぇ全身一式ありますんでぇ、全部装備したらぁ、すごぉーくカッコいいと思いますぅぅえぇぅぅうえうへぇへぇへうへへへへっ!!」
気色悪い笑い声を上げつつ──カッコいいとか絶対ありえねぇよこのクソ○○!この呪い装備でお前の蒼雷封じてやんよっ!──と内心叫んでいる影一号は、好きな子の前の挙動不審なアルフレッドよりも超絶挙動不審である!だが最早その気色悪い笑い声が標準装備となってしまったようだ!
そんな己の評判を犠牲にした影一号の尽力の甲斐あってか、アルフレッドもすっかり乗り気だ!この店員ちょっとやべぇな!って気づかないのは、むしろ騎士団長として大丈夫なのか?!と思わなくもないが、それを指摘する者(※主に突っ込み役のケビン)はここにはいない!
「そうか……そこまで言うのなら買ってみようじゃないか(……チラッチラチラッ!)」
兜の中で恐らくドヤ顔を決めているのだろうが、真っ黒な兜に覆われて全く見えない!そしてそんなやり取りの間に、マーガレット書記官の方も無事に買い物が済んだようである!買い物袋を手に、兜を装備したアルフレッドへと声をかけてきた。
「あれ?団長もそれを買われるんですか?」
「っ!!……あ、あぁ……どうだ?(※カッコいいだろう?というキメ顔──
──しかし兜で見えない!)」
「わぁ、なんかすごい兜ですね……(なんか……呪われそう)」
「っ!!……そうか、スゴイと思うか……(※褒められてまんざらでもない顔──
──しかし兜で見えない!)」
「えぇ、そんなのを買うなんて流石団長ですね!(きっと団長なら呪いとかも大丈夫なんだろうなぁ)」
「っ!!……流石……ふっ……そんなことないさ(※俺って実はすごく好かれているんじゃ……とニヤケ顔──
──しかし兜で見えない!)」
「それつけてたら団長は最強ですね!(禍々しくてすごく怖いし!)」
「最強……!!……フハハハハッ!(※嬉しさのあまり超絶笑顔──
──しかし兜で──以下略。)」
無事に買い物も終わり和やかに会話するアルフレッドとマーガレット。片方が禍々しい黒い兜を付けていることを除けば、ごく普通のデートのように見えなくもない。この姿を見れば、心労のあまり胃薬を飲む羽目になった王太子のケビンもきっと報われるだろう!功労者の影部隊には特別手当が奮発されるはずだ!
『…………やった…………やったぞ俺はっ!!』
そんな二人の様子を傍らで見守る影一号は、初めて宿敵に対してまともに作戦を成功させ、気色悪い笑顔の店員の姿のまま感激に打ち震えた!
影一号自身、失ったものは大きいが(※あー、あの人笑い方気持ち悪いからさぁ……という世間からの評判)それでもこれまでの雪辱を果たせたことに違いはない。今後一生、笑い方が気持ち悪いと嘲笑われようとも、影一号はこの日の勝利を忘れはしないだろう!
とそんな風に勝利の美酒に酔いしれていたのだが──
「マーガレット、俺が荷物を持とう」
「あ、すみません。団長。すごくサービスしてもらって、結構な大荷物になっちゃって」
いつの間にか兜だけでなく、全身漆黒の呪い装備(※使用者の魔力を喰らい魔法を発動させない呪い付き。ちなみに解除不可)を着たアルフレッドが、マーガレットの買ったよそ行き用の服(※ブティックから買い取り済みなので、蒼雷でやられていない分は全部やけくそという名の無料サービス☆)を持とうと手を差し出した。
だがその呪いの装備を付けた手が荷物に触れた時──
──バチィッ!!──
「あっ──(By影二号)」
「あっ──(Byマーガレット)」
「あヒゃっ──(By影一号)」
──ボワッ!!──
何と!アルフレッドが身に着けた呪い装備は、彼の凄まじい魔力とマーガレットへの凄まじい愛情を吸収し、それに触れたマーガレットの服までも呪いの装備へと変換させてしまった!!
折角影達が苦心して買わせた、よそ行き用のちょっとおしゃれで綺麗めな服は、今や全て解除不可の禍々しい気を放つ呪いの服になってしまった!どんな呪いが付与されているかは不明だが、おそらく碌でもないことになっているに違いない!
そんな予想だにしない展開に、呆然と固まっていた影一号は、突如として奇声を上げた!そして──
「あひゃっぁひゃぁはははハハハハハハハハハハぁぁぁっっあぁぁぁぁぁーーっ!!!
──────プチっ……!!」
──ばたーんっ!!──
ついにそのストレスが限界突破したのか、頭の血管がブチ切れた影一号はその場に倒れ伏した!
憐れ影一号!勝利を掴んだと思ったその瞬間!宿敵アルフレッドの手によって、あっという間に負けという不名誉な結果と共に、頭プッツン地獄に突き落とされてしまった!
「(お、お頭っ!!)……あ、と……ちょっとこの服は汚れがあったようなので、その、クリーニング(※神官による解呪)に出してからお渡ししますね?」
「あ、そうですか?でも……(やっぱりすごく安かったしほとんど無料サービスみたいだったから中古とかだったのかな?)」
「いえいえいえ!いいんですよ!ちゃんとしたものを明日にでもお届けしますので!ご安心ください!これもサービスなんで!(大神官様に夜なべし解呪してもらうんで!ダイジョブっす!※涙目)」
宿敵アルフレッドによって王太子直属の影達はほとんどが壊滅させられ、戦闘不能状態となってしまったが、唯一の生き残りである影二号が、何とか最後に戦況を立て直そうと試みる。
最早、影の陣営側の負けはほぼ確定のようなものだが、マーガレット書記官に見合い用の服が届けられればそれでいいのだ。影達の尽力のお陰で街中への被害はほぼ無いと言っても等しいから、王太子のケビンから課せられた使命は果たせたことに違いはない。
「あ、じゃあお願いできますか?お手間取らせて申し訳ないですけど……」
「ハイっ!お任せください!ダイジョブですから!(どうせ蒼雷にやられた同僚の影や、頭プッツンしちゃったお頭の治療に大神官様のとこ行きますんで!ついでです!ついでぇ!!)」
ほぼやけくそ状態の影二号は、大神官にサービス残業させる気満々で安請け合いしまくった!寧ろ大神官の恨みを買って、自身が呪いを受けそうな勢いである!
「ありがとうございます。じゃあお願いしますね」
「はいぃっ!喜んでぇっ!!あひゃ、あひゃ、あひゃっ!」
心労のせいでついに影一号の笑い方がうつってしまった影二号。買い物を終えて帰っていくアルフレッドとマーガレットの後ろ姿を見送りつつ、その奇妙な笑い声は夕暮れの空に虚しく響いたのだった──
影一号「あひゃ……あひゃ……(※ビクンッ……ビクンッ)」
影二号「お頭、カルシウム足りてないんじゃないっすか?」
影一号「うひぇ……ひへぇっ……(※ビクンッ……ビクンッ)」
影二号「あー、そうですねー。もうちょっとで神殿ですから、頑張ってくださいー」
影一号「あひゃひゃひゃひゃっ!(※ビクッビクッビクッ!※白目)」
影二号「あーはいはい(もう転職しよっかなー)」
☆☆☆☆☆
お読みくださりありがとうございました!作者の雨音AKIRAです!
影達とアルフレッドのバトルが思いのほか長くなってしまいました。ちょっとしつこいかな~と思ったのですが、楽しんでいただけたなら幸いです!
次話はちょっと特別編。というか前話の投稿の中で大いなる間違いがあったために、そのリカバリーです!
既にその間違いに気付かれた方がいるかもですが、気付いた方はすごい!
ということで次回もお楽しみに☆