任務その6 で、でででっでででででで(語彙死滅)
──ザワザワ……ザワザワ……──
就業時間の過ぎたサフィア王国の王城──その城門前。
いつもなら昼勤務の者達が帰路につく時間帯であるが、今は多くの者達が固唾を飲んで城門前の様子を伺っている。その原因となっているのが──
「…………(ぬーん)」
厳めしい顔付きで腕を組み仁王立ちする一人の男──もちろんサフィア王国騎士団の騎士団長アルフレッドである!
何故彼がこんな場所で仁王立ち(しかも完全武装状態!)しているかというと……
『で、でででででっででで、でででででッ────ピー……
──(しばらくお待ちください<(_ _)>)』
※一部脳内副音声に乱れがございます。ご了承くださいませ。
ぶっこわれ中のアルフレッドに代わって説明しよう!
今現在、アルフレッドは愛しのマーガレット書記官と共に、街に繰り出す為のその待ち合わせ中なのだ!いわゆる世間一般のデートである!おかげで彼の脳内は完全にショート中なのDEATH!!
常ならばミニ伝令が脳内で必死に助けを求めるところであるが、既にぺっぽこ指揮官を含む彼の脳内陣営は、大敗を期すどころか“デート♡”という思考に完全占拠され、その単語しか出てこないように洗脳済みである!
そんな最強騎士団長をこんな状態に陥らせた事の発端は、一時間ほど前にさかのぼる────
──騎士団長執務室──
「あれ?珍しい。マーガレットさん今日は終業後に街へ出るんですね。馬車の申請してる」
「……何?」
補佐官の青年の言葉に、低い声で睨みつけるアルフレッド。彼の書記官の名前が出るならば、反応するのは当然の摂理である。
「ほら、これですよ。まぁ街に出ること自体は珍しくないですけど、よほど急いでいるんですかね。馬車を使うなんて」
「…………」
確かに終業後にわざわざ馬車で街に行くというのなら、余程急いでいるのだろう。王城は城下町より高い場所にあるとはいえ徒歩で行けない距離でもないし、業務以外の私用での馬車の利用は事前の申請と使用料が発生するのだ。
「申請理由は何と書いてある?」
「えぇと……帰省に伴う急ぎの買い出し……って書いてありますね」
「っ!!」
帰省という言葉に反応し、目をガッと見開くアルフレッド。幸いなことに補佐官の青年は書類に目を通していた為、その凄まじいゾンビのような形相(王太子ケビン談)を見ずに済んでいた!
だがアルフレッドの脳内は既に司令部が大騒ぎ中である。帰省……つまりはマーガレットの見合いに関することに違いない。
「………(プスプスプス………)」
せっかく作った戦術計画書(※休暇申請書)は、王太子ケビンの手によって既に破棄されてしまっている。しかし思い出す限り、帰省の為の買い出しなどの記載はなかったはずだ。
ぐるぐると思考を巡らせている頭の中では、ミニ伝令が錯綜する情報(※へっぽこ指揮官による突発的蒼雷の指示)にアワアワとしているが、当の本人は顔面がゾンビ状態で固まってしまっている!
「団長?……ってうわっ!!(びっっっ──くりした!顔怖っっ!!)
……えと……だ、団長……?大丈夫ですか?」
「…………問題……ない」
「(ほ……ほんとかな?)……えと、もしあれだったらマーガレットさんを団長が送ってあげたらどうですか?やっぱり馬車の使用料も馬鹿にならないですし……(そーだ、そーだよ!ナイスアシストじゃん俺!!よっ!仕事のできる補佐官俺!ヒュ~☆!)」
「っ──っ!!……た、確かにそうだな……よく気が付いた」
「ですよねっ?!じゃあ早速マーガレットさんが戻ってきたら、そう提案しましょう!そうしましょう!(ひゃっほーい!この感じ!これは昇給あるんじゃないかっ?!最近の俺、すっごく頑張ってるもんな!流っ石俺~☆)」
自称☆仕事のできる補佐官が一人調子こいている間、他称☆ヘタレのアルフレッドは一人、未だ思い悩んでいた。
『……俺の嫁を送るのは吝かではない──が、それが見合い相手の男の為の買い物だと思うと……×××××××っ××っ!!』
※一部脳内副音声に不適切な表現がございました<(_ _)>
脳内が非常に騒がしい上司と部下。そういう点では意外と相性がいい二人である。
ちなみにそんな彼らの相性の良さは、王城の侍女達の既に知るところである。なんなら彼等を題材にした薄い本が密かに侍女達の間では流行しており、そこには彼等が決して知ることのない薔薇色の世界が広がっているのだ!
両片思いの切ないBでLなバージョンや、年下補佐官の鬼畜攻め、はたまた腹黒王太子と鬼畜補佐官の二人がガチムチ騎士団長を奪い合う三角関係なんかも人気であることを、当然ながらこの幸せ(?)な二人は知らない(笑)。サフィア王国のガチムチ騎士団長の恋愛事情については、王城の女性陣と男性陣の間ではそれこそ天と地ほどの超絶受け入れがたい認識の相違があるのだ!
──そんなプチ情報(※王城腐女子連盟提供)はさておき、そうこうしている間に他部署にお使いに出ていた書記官が戻ってきたようだ。
「……?どうしたんですか?お二人とも」
「あ!マーガレットさん!(俺の昇給チャンスの女神!☆)ちょうどいいところに!」
「……戻ったか(俺の愛しの嫁♡)」
「あ、はい。戻りましたけど……」
昇給のチャンスにどこかニヤついている補佐官と、彼の提案に葛藤していつもより険しめの表情をした上司を見て、コテンと不思議そうに首を傾げるマーガレット書記官。傍から見ればこの上司と同僚の挙動はかなり怪しい。
しかしそんな二人に対してマーガレットは、「あれ?昨日の夕飯何食べたっけ?」くらいの疑問しか抱いていないような表情をしている。何だかんだでこの混沌と化した執務室勤務を、全く動じずにこなしているマーガレットは、相当な強心臓の持ち主であった!
「マーガレットさん!馬車の使用申請出されましたよね?」
「え?えぇ、出しましたけど……それがどうかされましたか?」
「いや、ほら!馬車の貸し出しは騎士団の管轄じゃないですか!けど騎士団の皆はほとんど使わないっていうか、馬乗れる奴ばっかだし、体力馬鹿だから自分で走ればいいし……それでマーガレットさんだけ貸し出し馬車使わなきゃいけないのは大変だろうからって団長がっ!ね?!ほら団長!!(よしっ!俺ナイスアシストぉー!!)」
「あ、あぁ……良かったら俺が送ろう」
※この瞬間!№1蒼雷被害者の全・補佐官が感動に涙した!よくやった!よくやったぞアルフレッド!!その調子だ!アルフレッド!
「えぇ?でも本当に私用なのでお忙しい団長に悪いですし……」
「いえっ!団長は全くもって暇ですから!暇で暇でどーしよーもないくらい、ちょっと街まで送り迎えしちゃおっかなーってなるくらい暇で全然問題ないですからっ!(ナイスアシストぉー!からのゴォーール!俺勝利ー!!)」
「……………(ズモモモモッ!)」
遠慮して断ろうとする書記官に、すかさず上司が超絶暇人であることにして送迎をゴリ押ししようとする補佐官(※脳内で超絶ガッツポーズ中☆)。彼的にはナイスアシストと思っているようだが、暇人呼ばわりされた上司からは不穏な気配が漂っていることに気が付いていない。
だがヘタレのアルフレッドにとってはまたとないチャンスである!これを逃しては王国最強騎士団長の名が廃るというものだ!ちなみに王城の腐女子達の間では、夜の最強は王太子のケビン、もしくは補佐官の青年の方で、騎士団長のアルフレッドはどちらかと言うとガチムチな受け身の方である(笑)!
「…………暇だから大丈夫だ。(ポッ……)」
心なしか頬を赤く染めるアルフレッド。自らを暇人と称して恥ずかしがるその姿は、王城の腐女子達が見たら卒倒するほどイケない妄想をかきたてるものだ!!ヤバイ!ヤバイぞ!また新たな薄い本が量産体制に入ってしまうことを、騎士団長の皮を被った憐れな子羊は知らない!(笑)
「そうですか?……じゃあお願いしてもいいですか?実はちょっと時間が間に合うかどうか焦ってて……」
「あぁ……そんなに急ぎなのか?」
「えぇ……実はよそ行きのちゃんとした服を汚してしまって……その、お見合いに着ていくものがなくて困ってて……」
「っ……!!?!?!!」
──ピシャァァァンッ!ドッカーン!!──
「ウぐふぉっっ……!?!」
お見合いという言葉に反応してついにここ一番の蒼雷が発動してしまった!被害者は勿論、俺できる男っしょ☆テヘペロ!──と、調子こきまくっていた補佐官の青年である!雷耐性のある彼でなくては死出の旅路に立っていたとしても可笑しくはない!昇給という甘い夢を見ながらGOODBYベイベーGO天国だ!
ブスブス……と焦げ臭い煙を上げながら執務室の床に倒れる補佐官をまるっと無視しつつ、アルフレッドは彼の書記官に問いかける。勿論、哀れな補佐官、君の死を無駄にするつもりはない!(笑)
「……見合い……に必要な服……?(※若干涙目)」
「流石に普段着ではお相手の方にも失礼でしょうから。とにかくお店が閉まる前に探しに行かないとと思っているんですが……」
「……そうか…………わかった(※確実に涙目)」
確かに普段着でも可愛らしい彼の書記官だ。下手な恰好では逆に見合い相手の男の気を引いてしまって危険かもしれない。不本意だがここは自称☆マーガレットの夫(未だ予定は未定!)であるアルフレッドが一肌脱ぐしかない!彼の嫁を守る為に鉄壁の装備を用意するのだ!
「そういうことなら力になろう。俺に任せておけ(※涙目を誤魔化す為に背を向けてカッコつけている)」
「団長っ……!ありがとうございます!お手数おかけしてすみません!」
「いや……いいんだ……(ポッ……)」
愛しのマーガレットに尊敬の眼差しを向けられ頬を染めるアルフレッド。後ろ姿でもその耳が赤くなっているのが丸わかりだ!薄い本の恐怖がすぐそこまで迫っているぞ!王城で働く女性達の離職率の低さは全て君のお陰だ!ありがとう!アルフレッド!
「じゃあ、貸し出し馬車の申請は取り下げますね?えと、仕事が終わったら一旦着替えたいので、待ち合わせは城門前でよかったですか?」
「っ──!あ、あぁ。そうしてくれ」
「わかりました!じゃあ少しでも早く仕事を終わらせられるように頑張りますね!」
嬉しそうな笑顔で仕事に取り掛かるマーガレット。そんな彼女の横で立ちつくしているアルフレッドの脳内では──
『ま、待ち合わせだと……?──つ……つまり、こっ、こっ、こっ、これはっ……で、でででででっでっでで、デートなのではっっ!?!』
思いもよらぬ形でマーガレットをデートに誘うことのできたアルフレッド。王太子ケビンが渡した極秘資料『キュンドキ!☆今時のカップル事情♡』の成果が表れた瞬間である!おめでとう!アルフレッド!おめでとう!ケビン!蒼雷被害者連盟の全・王城男性陣が感激に涙した!!補佐官!君の尊い死は無駄にしない!(笑)
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──という経緯からの、城門前での待ち合わせである!
ちなみに騎士団長の為に尊い犠牲となった補佐官の青年は、昇給という甘い夢を見ながら医務室へ強制収容された!DEATHオアDIEの危険な騎士団勤務では、ほんのちょっとの油断が命取りである!心せよ自称☆仕事のできる補佐官!心せよ!蒼雷被害者連盟の騎士団員達(笑)!
「あ、団長!おまたせしました~!」
「っっ……!(ビックーン!!)」
仕事着から私服に着替えたマーガレットが小走りにやって来る。その様子を何でもない風を装いながら思いっきりビクッと体を揺らしたアルフレッド。しかしその目は血走り、可愛らしいマーガレットをガン見中である!ちなみにそんな強面騎士団長を、興味津々で集まった城の野次馬達がガン見中である!
「それにしても補佐官は大丈夫ですかね?あの調子だと明日はお休みでしょうか?」
「……多分大丈夫だろう……(※ほんのちょっとだけ補佐官に悪いことしたなーとか思っている)
……いつも俺のを受けても(※蒼雷のこと)翌日には平気な顔をしているからな。慣れているのもあるし、寧ろ嬉しそうにしている気もする(※特別手当が出るから)」
「そうなんですね~。お忙しい団長にとっては無くてはならない存在ですし、明日も来られるといいですね!」
「あぁ、そうだな。いないと正直困る。こんな俺を受け入れてくれるのはアイツしかいないだろうし(※他の団員達は雷耐性が低くて執務室勤務は危険だから)」
その瞬間、周囲が異常にザワついたことを、憐れな騎士団長(子羊?あれ?受け?)は知らない!
周囲ではひそひそと──しかし鼻息荒めに、腐女子連盟の騎士団長攻め派陣営が熱く語り合っている!
「ほらやっぱり団長様は究極の攻め様なのよ!補佐官の事を“いつも俺のを受けて”って言ってたわ!」
「確かにそうね!受けるのを慣れているし、嬉しそうって言ってたから補佐官の方が受けなのは間違いないわ!」
「そうよ!そうよ!今こそ私達の“騎士団長×補佐官”派が日の目を見る時だわ!」
「こんな俺を受け入れてくれるのはアイツしかいないって……次の新刊のネタはこれで決まりね!」
「楽しみすぎるわ!やっぱりガチムチ団長攻め様よね!」
ガチムチ団長受け派が隆盛を極めているサフィア王国の腐女子連盟であるが、ここにきてガチムチ団長攻め派が盛り返した瞬間である!
ご愁傷様!アルフレッド!ある意味おめでとう!アルフレッド!憐れな補佐官──団長をいつも受け入れて、しかも慣れている上に嬉しそうにしているという彼を道連れに、彼等は新たな薔薇色の歴史(※王城腐女子連盟発行の薄い本)を刻んだのだった!そしてそれは後々の世まで語り継がれるほどの伝説(※人気作)となるのであった!おめでとう補佐官!君のお陰だ!補佐官!君の尊い死は忘れない!(笑)