任務その29 不審な物音を調査せよ!
サフィア王国の王城──深夜過ぎ──
「あ~、夜番かったるいな~」
「仕方ないさ。持ち回りだし」
「でも俺、明日は昼番だぜ?寝て起きてすぐ出勤」
「うわ、キッツ!」
だべりながら王城を見回る騎士達。しんと静まり返った中に、二人の声と足音だけが響いている。
その時、一人の騎士が何かに気が付いた。
「あれ……なんか聞こえないか?」
「ん……?そうか?」
「いや……気のせいかな」
見回りとはいえ、王城は強力な結界で守られているから、実際には侵入者などの心配はほとんどないのが実情だ。
だが気のせいかと思った不審な物音は、進めば進むほどにどんどんと近づいているようである。
「やっぱりなんか聞こえる……こっちの方じゃないか?」
「……確かに……なんか変な……魔獣の唸り声みたいな……」
「っまさか──!結界の中に?!」
「わからない……とにかく確かめよう!」
見回りの騎士達は、不審な物音を確かめる為に、急いで駆け出した。
********
──一方その頃、王太子ケビンの執務室から出てくる者があった。王太子直属の影の者である。
「ふぅ……報告も終えたし、後は見回りか……」
深夜過ぎまで仕事をしていたケビンに、その日一日の出来事を報告した影。後はざっと城の中を見回り、別の影と交代して今日の仕事は終わりである。
「はぁ……ここ最近は休み無しだったからな……毎日これくらい穏やかだといいんだけど……」
主に忙しいのは問題児関連の厄介ごとのせいであるが、これも影たる者の宿命。王国最強の騎士団長をうまく国防に結び付けるには、彼等の努力が必要なのである。
昼間は幸いなことに問題児が大人しくしていた為、影も奔走することなく済んでいた。このまま無事に一日を終えられるかと思いきや、そうは問屋が卸さないのである。
──うぅ……ぉぉぅぉぉ……──
「??……なんの音だ……?」
見回りをし出した影の耳に、微かに聞こえてくる不審な音。まるで魔獣の唸り声のようだ。
「……まさか魔獣が侵入したのか……?いや、そんなはずはないか……」
魔術の結界で強固に守られている王城に、魔獣が侵入するとは考えにくい。だとすると、王城の中に残っている人間の仕業でしかないのだが──
「……騎士団長殿って、確かまだ帰ってなかったような……」
他の影からの報告では、問題児の帰宅の情報はまだ入ってきていないはずだ。となると不審な音の原因については、ほぼ確定したようなものである。
「あぁ~……残業決定か!クソっ!」
影は悪態を吐きながら、怪しい音のする方へと向かっていった。
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不審な音を確かめる為にやって来た見回りの騎士二人。薄暗い廊下を進んでいくと、ぽつんぽつんと何かが落ちているのを見つけた。
「ん……これはなんだ?」
「……花びら……だな。赤黒くてなんか……」
「血……みたい……」
ゾゾゾと騎士達の背を悪寒が走る。血でも気持ち悪いが、花が無残に毟られて散らばっているのも、それはそれで怖いのだ。
恐る恐る近づいてみると、更にたくさんの花びらが落ちている。ぐしゃぐしゃになった花びらを辿っていくと──
──おぉぅぉぉぉぅぅぉぉ……──
気色の悪い唸り声も大きくなっていく。そのことに二人の騎士も顔を見合わせた。
「や……やっぱり何かいる……」
「えぇぇ……?魔獣が花でも食ってんのか……?」
「怖っ……!」
怖いと思いつつも夜の見回りをしないわけにもいかない。意を決して、二人の騎士は唸り声の原因を確かめに駆け出した。
********
一方、ケビン直属の影の者は、唸り声の原因に心当たりがある為、早速気配を消して音の方へと向かっていた。
(……執務室の方じゃないな……どこへ向かっているんだ……?)
恐らく原因だと思われる人物は、普段とは違う場所に向かっているようである。このような深夜に一体何故……と、益々不審に思い後を追う影。どうやら向かう先は外のようだ。
(一体何をするつもりなんだ……全くこんな夜中に……)
もうすぐ交代の時間でようやく休めると思った矢先にこの事態だ。ブチブチと文句を言いつつ外へと向かう。ハッキリ言って碌なことにならない予感しかしない。
やる気が出ない中、思っクソ油断しながら庭へと出た瞬間──
「確保ぉぉぉぉぉっ!!!」
「っ!?!?!?!」
「よっしゃー!捕まえたぞ!」
「こいつが不審な呻き声の犯人か!!」
「なっ、なっ、なっ……!!」
庭へと出た矢先、突然羽交い絞めにされてしまった影。二人がかりで抑え込まれてしまえば、いくら影の精鋭とはいえ身動きが取れない。相手はあの王国最恐の問題児だとばかり思っていたから、別のところからの襲撃に超油断していた。
「あれ?なんか思ってたんと違うな。これがあの花を毟る魔獣か?」
「いや~どうだろ?花を食べるのが趣味の変態なんじゃね?」
影を抑え込んでいたのは、見回りをしていた騎士二人である。同じ物音に気が付き、ここまでやって来たようだ。だが影の者とは違い、その原因がわかっていないようである。
「でもどっちにしろ不審者だろ、これ。どう見ても怪しい感じだし?」
「そうだな。いかにも侵入者っぽい服装だ。足音も気配も消しているところなんか、絶対犯罪に手を染めているに違いない」
「っんなっ……そんなわけあるか!!」
全くもって酷い言われようである。王国最恐の問題児ならいざ知らず、こちとら真面目に王国の平和を保つために、縁の下の力持ち的存在として、日々涙ぐましい努力をしているのだ。
確かに影という職業柄、黒づくめで顔を隠すような恰好をしているから、ぱっと見は犯罪者のように見えなくもない。しかしながら王太子ケビン直属の精鋭である自負がある。何てこと言うんだと詰め寄ろうとしたその時──
──うぐぅおぉぉぅぅぅぉぉぉっっ!!──
「「「!!!!」」」
突如、大きな呻き声が聞こえてきた。音はすぐ近くだ。
「……あっちだ!あっち!怪しい声が聞こえるのはあっちだろうが!」
「うわっ!確かに!てかコイツなんでこんなに上から目線?」
「さぁ?あれじゃね?ほら、影でこそこそ情報収集する系の」
「あぁ~、天井裏とかにいる奴ね。それじゃ上から目線も仕方ないか。物理的にいつも上からだしなー」
「はは!それウケルーw」
何故か妙な形で納得されてしまった影である。しかも普段から天井裏に張り付いていることもバレバレのようだ。
「……そ、そんなことよりもあの呻き声を確かめに来たんだろう?」
「あ、そだそだ。見回りの仕事しなきゃだしね」
「おう!ということでこの不審者も一応確保しとくか」
「オイ!なんでだよ!!」
「え?だって不審者だし?身分証明できるの?」
「うっ……!」
痛い所を突っ込まれてしまった影は、騎士の一人にしっかりと確保されたまま、呻き声の原因のところまで引きずられていくことになってしまった。だが影の者として迂闊に正体をばらすわけにも行かず、仕方なくついて行くと……
「ウうぉぉぉぉぉぉぉっ!!!ぐぬぬぬぬぅっ!!」
凄まじい唸り声を上げる黒い巨大な影が現れた!怒りを爆発させたような声と共に、バサッと何かが散らばる音がする。
「!!??」
「あ、あれって……!」
二人の騎士はその正体に衝撃を覚えた。何せ自分達の良く知っている人物だからだ。
一方の影の者は、あぁやはり──と、納得の表情である。
「ぬぅぅぅぅっ……何故ダメなんだ……ぐぬぬぬぬぅぅっ!」
──バサァッ!ブチィッ!!──
不審な呻き声と共に花を毟りまくっているのは、王国最恐の問題児、アルフレッドである。深夜の裏庭で、何故か一心不乱に花を毟っては、不機嫌そうな呻き声をあげている。
「……あのぉ……団長……一体何を……?」
「っ!?!?」
──ぐりんっ!!──
「ひぃっ!!」
騎士団員が声をかければ、ものすごい形相でぐりん!とこちらに顔が向けられる。目が血走ってて、はっきり言ってホラーである。
「む……なんだ、お前達か……夜の見回りだな?」
「え、えぇ……そうなんですけど……団長は……?」
「俺は……その、なんだ……ちょっと散歩というか……もごもご」
何かを誤魔化そうとしているのか、急にもごもごし始める不審者。だが散歩というには時間が遅すぎるし、花を毟るという行動も怪しすぎる。知らず不審な者を見る目つきになってしまえば、焦った挙動不審者が更に言い訳を重ねた。
「と、トレーニングの一環だ……そう、トレーニング……精神的な……」
「精神的なトレーニング……?それって一体……?」
益々意味が分からないと騎士団員達が首を傾げる中、ただ一人。影の者だけは心当たりがあり、つい口からポロッと漏れ出てしまう。
「まさか……花占い……とか?」
「っ!?!?!?!」
──ピシャァァンッ!──
「うぎゃっ!」
「ごふっ!!」
「ぎょへっ……!」
深夜の蒼雷発動である!間近にいた騎士二人は勿論のこと、騎士に拘束されている影も逃げる間もなく被雷した!
「(かぁぁぁぁぁ)(*ノωノ)」
どうやら影の予想がドンピシャだったようだ。花占いをしていたのを知られて恥ずかしいのか、アルフレッドは思いっきり顔を隠してうずくまっている。暗闇の中、熊のような巨体が無惨に散らばった花びらの中にうずくまっているのは、かなりホラーな絵面だ。
「えぇと、なんでまたこんな深夜に……?」
「……(ぬーん)」
蒼雷の衝撃から復活した騎士の一人が、問いかけるも、アルフレッドはだんまりを決めている!しかし横から影の者がしゃしゃり出てきた。
「恐らく昼間、デザイナーのシナモン殿から花占いについて聞いたせいだな。昼休憩の後あたりだったはず……」
「え?何それ?その情報マジ?」
「マジだマジ。調査によれば、その後、騎士団長執務室に花がいくつか運ばれたとか。午後2時ころのことだ」
「え、待って。コイツめっちゃ詳しい。寧ろこっちの方が怖いんですけど」
「うるさいな!だがその後は終業時間まで特に問題は無かったはずだが……」
「やべー、ストーカーいたよ。ストーカー。こっちを捕まえといたほうがいいかもなー。団長、どう思います?」
「む……?」
アルフレッドに代わって説明をする影の者に、思いっきり不審者を見るような目つきになる騎士団員二人。当のアルフレッドは自分が付きっ切りでストーカーされていることに気が付いていないようだ。
「オイ!こっちは王国の平和の為にやってんだよ!誰がストーカーだ!」
「いや~、それにしては詳しすぎるっつーか。じゃあ団長の今日の昼飯は?」
「オムカレー、とんかつ乗せ」
「じゃあ昨日の夕飯は?」
「きのこたっぷりシチュー定食」
「じゃあ三日前の朝飯は?」
「プロテインたっぷり野菜ジュース」
「うん、犯罪者確定。現行犯で逮捕だなこりゃ」
「よしわかった!今縄を打つ!」
「なんでだよ!!」
これまでの追跡を責められ、ぎゃーぎゃーと騒ぐ影の者。王国の平和を守る為とはいえ、傍から見れば犯罪行為をしている怪しい奴である。お給料はいいが、ちょびっとだけ切ないのはナイショだ。
「ちょっと!そこの騎士団長も、何か言ってくれ!そもそもアンタが可笑しな行動をとるからいけないんだろ?!」
「む……だが占いの結果が……」
「結果がどうしたってんだ!」
「……何度やっても…………に、ならないんだ……」
「あぁっ?!なんだって?!」
「……だから、…………にならない……」
「聞こえねぇよ!ハッキリ言えって!!」
「好き!にならないんだ!!」
──ピシャァァァンッ!!──
「ぐほっ……!」
「うがっ!」
「んぎょっ!」
再びの蒼雷発動である!影が煽りまくったから仕方ないとはいえ、騎士二人は完全なとばっちりだ!
そんな蒼雷の被害者三人をよそに、盛大な告白をしたアルフレッドは、毟り取った花を片手に、いじいじと説明をし始める。
「……花占いをすると、相手の気持ちがわかるというのでだな……やってみたんだが……どうしても結果が……キライ……になってしまって……」
そう言って悲しそうに落ちた花びらを見つめるアルフレッド。恐らく、好き・嫌い──という花占いをやっていたのだろうが、いい歳した大の大人(※しかも厳つい顔面のおっさん)には到底似合わない行為である。
「仕事中からちまちまと花占いをしてみたんだが……結果が思わしくなく……花が少なくなってきたので、庭に花を調達に……」
どうやらよっぽど花占いで『好き』の結果を出したかったのだろう。寧ろ、そこまで『嫌い』を引くとか、凄まじい確率である。
一体どれだけの花が、アルフレッドの恋路の為に毟られたのか。見れば庭園の花も、既にたくさん引っこ抜かれているようだ。
「……この毎回……キライ……と出る精神的苦痛は、まさにどんな訓練よりも辛いものだと実感した……魔獣を千……いや、万倒してもこれだけの苦痛を味わうことはない……」
え?そんなに?と、蒼雷の被雷から立ち直れない三人は倒れながらも頭の片隅で思った。だが尚もアルフレッドの独白は続く。
「こう……最初に始めるのを好きではなく……キライ……から初めてみたりとか、そのまた逆をついて好きから始めてはみるものの……何故か毎回最後が……キライ……になるんだ……呪われているのかもしれない。そうだ、そうかもな。よし、こうなったら魔法師団長に呪いを解いてもらわなければならない!」
えー、それ絶対呪いのせいじゃなくて、アンタの運がないだけなんじゃ……と、三人は倒れ伏したまま思ったが、これ以上、蒼雷を被弾したくないが為に、全てをまるっと魔法師団長に任せることにしたのだった。
その後、特大の蒼雷と、凄まじい結界の応酬が、王城の一角で成されたのは言うまでもない。
そして翌日──
騎士団長執務室勤務の補佐官は、大量の花を上司から渡された。
「え?何すか団長?この花なに?」
「花占い……もとい新しい精神のトレーニング法だ……」
「え?なにその斬新すぎるトレーニング?!」
結局、昨晩は魔法師団長には「アホかお前」と言って相手にされなかったアルフレッド。自分以外でもキライの結果になる呪いがかかってないか調査するために、花を毟って恋占いをするという、謎の精神トレーニング法が、モテない代表の補佐官へと課されたのだ。
「好きの結果がでるまで続けるのだ!」
「えぇー!?」
金曜投稿間に合った!ふーw
来年からは不定期投稿になる予定です。




