任務その27 緊急事態!見合い相手との遭遇!
「あ、おはようございます。マーガレットさん」
「おはようございます。昨日は急にお休みいただいてすみませんでした」
補佐官が声をかけると、出勤してきたマーガレットは申し訳なさそうに頭をさげた。見合いの為に急遽休みを取ったのだ。
「いえいえ。全然問題ないですよ。ね?団長?」
「……あ、あぁ」
問題ないどころか問題だらけである。昨日の見合いの結果次第では、色々考えることとか、色々準備とかが必要なのだ。
そんなアルフレッドの内心を知ってか知らずか、空気の読めない補佐官がいきなりズバッと核心を突いてきた。
「それでどうでした?結果は?」
「え?何ですか?結果?」
「ほら、申請書類に理由が書いてあったじゃないですか!お見合いの!」
野次馬根性丸出しでズバッと見合いの死ワードを口にする補佐官。それは当然、死亡フラグでしかない!
「それがお相手の方と、今日改めて会うことになりまして……」
「っ!!?!!?!!?」
──ずがーんっ!ピシャァァァンッ!!!──
「ぎゃーっ!!」
見合い相手と再び会うという衝撃に、アルフレッドから特大の蒼雷が発動する!側にいた補佐官は当然被弾した!
しかし一発KOとまではいかなかったようで、黒い煙をブスブス上げる尻を痛そうにスリスリさすりつつ理由について尋ね始める。
「いててて……てかなんでまたもう一度会うことに?」
「見合いについては一度お断りしたんですけどね。どうしても二人きりでもう一度会いたいと言われて、仕方なく今日の仕事の後に……」
「まじっすか……」
マーガレットの話を聞いて補佐官はチラリと横の上官を見やる。未だ衝撃に固まってはいるが、漏れ出る不穏な気配は、今にも相手の男を殺る気満々だ!
「でもそれって危なくないですか?しつこい相手と二人きりなんですよね?」
「う~ん、でも家族の紹介ですし……」
「ちなみにご家族の方は今はどちらに?」
「もう王都にはいないんですけど、観光がてら色んな所を回って村に帰るみたいですね」
「なるほど……じゃあ残るは相手の男だけってことか……」
そうなればマーガレットを相手から引き離すのは簡単だろう。寧ろ相手の男しかいなくなったことで、アルフレッドの暴走に拍車がかかりそうだ。
「……(怒ーん)」
「(うっ……なんかすっごく睨みつけられてる!)」
最初の衝撃から復活したアルフレッドが、凄まじい殺気と共にじっと一点を睨みつけていた。ちなみに補佐官の側頭部である。穴が開くほどに睨みつけられ、頭皮が若干チリチリと痛む。このままじゃ頭に10円ハゲができてしまいそうだ。
焦った補佐官は、自らの身の安全(※主に頭部)の為に、とんでもない提案をし出した。
「よし!僕たちも一緒に行きましょう!」
「えっ?」
「マーガレットさんだけじゃ心配ですし。ね?団長?」
「……あぁ……そうだな」
いいことを思いついたとばかりに提案する補佐官。アルフレッドも素直に頷いているが、脳内ではどうやって相手の男を殺ろうか計画中だ!
「え?一緒にくるんですか?」
「そうですよ。だって見合いを断っているのにしつこく迫ってくる相手なら、何をされるかわからないですし。ね?団長?」
「あぁ……マーガレットを守る為に、俺も行く」
こうしてアルフレッドは、見合い相手に会うというマーガレットについて行くことになったのである。
********
終業後、街のとある酒場──
「指定されたのってここなんですね。何というか見合いにあまり相応しくないというか……」
「……あぁ、マーガレットが一人で来なくてよかった」
「お二人とも付き合ってくれてありがとうございます」
アルフレッド達がやって来たのは、王都の歓楽街にある酒場の一つだ。指定された場所らしいが、落ち着いて話すような雰囲気の店ではない。
「……それにしても相手はまだなのか?」
「あぁ、指定された時間より早く来ましたからね。あらかじめ店にも通達が必要ですし」
急遽、マーガレットの見合い相手と会うとなり、当然、王太子のケビンへとその情報がもたらされた。そして現在、騎士団、魔法師団、影の者達が一丸となってこの緊急事態に対処している。
「団長もむやみに蒼雷を発動させないように気を付けてくださいよ?一応、店に結界を張ってもらってますけどね」
「む……わかった」
店内の客は全員、騎士団や魔法師団の連中である。一般人に被害が出ないように皆で潜入中なのだ。
「いや~それにしても仕事で飲み食いできるなんて……今日はラッキーだな」
「あぁ、団長の蒼雷も魔法師団が抑えてくれるらしいし、安心して見てられる」
などと言って騎士団の連中は普通に飲み食いを楽しんでいるようだ。ちなみに飲食の経費は王国持ちである。
とはいえマーガレットの見合い相手が来るとなれば、アルフレッドがどうなるかわかったものではない。最悪、騎士団員達が死を覚悟して止めなければならないだろう。
そんな裏事情があるとは露知らず、アルフレッドは紳士らしくマーガレットをエスコートして席に着かせると、自分も座ろうとして固まった。
(これは……どこに座るのが正解だ……?)
酒場の丸いテーブル席。マーガレットを真っ先に座らせて、残る椅子は3つ。当然その一つに自分が座れば、残りは補佐官と未だ姿を知らぬ男が座るのだ。だが正直なところ、自分以外の人間がマーガレットと同じテーブルにつくのは許せない。
(隣に座るのが正解か……だがそうなると俺じゃない奴がマーガレットの正面に座ることになる……だからと言って俺が正面に座れば、今度は相手がマーガレットの隣に来ることになるし……)
悩み出して堂々巡りし始めてしまったアルフレッドである。だがここで空気の読めない補佐官が、ズバッと余計な提案をしてきた。
「じゃ団長と僕はこっちのカウンター席にしましょうか」
補佐官が指さしているのは、マーガレットのいるテーブルから少し離れたカウンター席である。同じテーブルにつくと思っていたアルフレッドは、当然、不機嫌さを露わにした。
「……何故そっちなんだ?マーガレットと同じ席の方が安全だと思うが……」
安全と言えば安全だが、見合い相手のことを考えれば、同じ席につくのは非常に危険としか言いようがない。何せ今でさえ王国最強の猛獣を獲物と同じ檻に放り込んでいるような状態なのだ。そこは騎士団員が対処できるだけの距離を取らせておく必要がある。
「そ、それはそうですけど……いきなり自分達が一緒にいたら、相手も変だと思うでしょうし……ほら、ここは様子見ってことで!」
「む……そうか……」
補佐官の必死の説得で何とかカウンター席に着かせることに成功した。だがアルフレッドは恨めしそうに何度も振り返っては、マーガレットのいるテーブル席をじっと見つめている。
(……何ならあの椅子を全部破壊すれば、誰も座れないか……?)
つまづいたふりをして回し蹴りをして破壊するか……などと思いっきり不穏な考えをしているアルフレッドである。蒼雷は抑えるように言われているが、己の肉体を使った攻撃なら文句は言われないだろうという脳筋な発想だ!弁償すれば問題なしと、これまでの経験上知っているので、その体でうっかり相手の男も殺ってしまうのもいいかも……?と、デンジャラスな発想へまっしぐらである。
そんな中、カラコロと鐘の音が鳴った。酒場の扉が開き、誰か入って来たのだ。
(((来たっ!!!)))
店員や客に扮した騎士団員や魔法師団員達は、皆、固唾を飲んでやって来た男に全神経を集中させる。だが演技力が全くない奴らの為、思いっきり「しん……」となってしまい、逆に怪しさ満点だ!
「……あれ……?店今日やってなかったのか……?」
やって来た若い男は、店があまりに静かすぎるからか、入るのを躊躇うように入り口で立ち止まっている。だがマーガレットの姿を見つけると、パッと笑顔になり入って来た。
「マーガレットさん!よかった!来てくれたんですね」
「あ、こんにちは」
「やっぱりダメって断られるかと思ってました」
ニコニコと笑顔で近づいてくる青年。彼がマーガレットの見合い相手なのだろう。マーガレットより少し年上くらいの物腰の柔らかな好青年だ。
しかしアルフレッドにとっては親の仇よりも憎い恋敵である。恨みつらみのこもった凄まじい形相で睨みつけた。
「だ、団長!抑えて!抑えてください!」
「……(怒ーん)」
今にも飛びかからんとする上官を補佐官や他の騎士団員達が、身体を張って止めている。
一方の見合い相手はマーガレットと同じテーブル席につこうとしたのだが──
──ズガァァンッ!ピシャァァアンッ!!──
「うわっ……!な、なんだ?雷……?」
突然の閃光と轟音が鳴り響いたかと思うと、椅子が3つ、黒焦げになって炭と化した!アルフレッドの蒼雷だ!
「む……外したか……」
椅子にはヒットしたものの、狙いは別であったようだ。その椅子に座ろうとしていた見合い相手は、間一髪で無事だったようで、周囲の者達は胸を撫でおろす。そして慌てて各自対処に奔走した。
「団長!あれほど蒼雷はダメだと……!」
「む……ついな」
「えぇい!魔法師団員!結界の強化を頼む!」
「らじゃっ!」
ヒソヒソ声で結界の強化を図り、アルフレッドを抑え込む騎士団員と魔法師団員。一方の見合い相手は突然炭と化した椅子を前にして呆然と立ち尽くしている。そこへ胡散臭い笑みを浮かべた店員(※騎士団員が変装中)がやって来た。
「あはは……すみません~。どうも建付けが悪いみたいでぇ~」
「え?建付け?」
「あ、気にしないでくださ~い。新しい椅子どうぞ~」
そそくさと黒焦げの椅子を回収し、新たな椅子を勧める店員に変装中の騎士団員。どう見たって建付けなど関係ないが、そこは日々、上官の暴走に付き合わされている団員達だから、こじつけの超適当な言い訳などお手の物である。
「は、はぁ……」
困惑した表情のまま新しい椅子に座る見合い相手。恐る恐る座るのは、落雷を警戒してのことだろうが、一応先ほどよりも強化された結界によってアルフレッドの魔法は全て遮断されている。
そんなこんなでようやく相手が席に着き、マーガレットはさっそく本題を切り出した。
「その……今日はどういったお話でしょう?先日の件はお断りしたはずですけど……」
「まぁまぁ。あ、先に注文いいですか?」
「え、えぇ……」
すぐに話を終えたかったマーガレットだったが、はぐらかされてしまったようだ。見合い相手はメニューを開くと、マーガレットにも勧める。
「マーガレットさんは何を食べます?色々あるみたいですよ?」
「私は別に……」
「でも仕事終わりで夕飯まだですよね?一緒に食べましょう」
「う~ん……そうですね。じゃあ適当なもので……」
メニューを見始める二人。その様子をアルフレッドは歯ぎしりをしながら見守った。
「ぐぬぬぬぬ…………」
「だ、団長!抑えて!」
目の前で繰り広げられる光景は、まさに自分が思い描いていたディナーデートそのものである。内心「超絶羨ましい!」と思いながら、殺意の眼差しを向けている。
「ほ、ほら団長。こっちも何か注文しましょうか!あ、マーガレットさんと同じのはどうです?このツマミとこのドリンクと……」
料理で何とか気を引こうとする補佐官。腹を満たして猛獣を落ち着かせる作戦だ!
だが当然、そんなことではアルフレッドの怒りを抑えることなどできはしない!
「ふんっ!!」
──ガシャーンっ!!──
「!?!?!」
アルフレッドは自分を押さえつけていた騎士団員達を引きはがし立ち上がる。団員達とともにカウンターの上のグラスがなぎ倒され、破片が周囲に飛び散った。
「な、なんだ?客が暴れてるのか?」
「あ~……」
突然の騒動に、見合い相手も驚いて目を見開いている。マーガレットとしては自分の上官であるため、苦笑いで誤魔化すしかない。
しかし騒動は一層激しさを増し、一歩一歩その歩みを進めようとするアルフレッドを、何とか引き留めようと騎士団員達や魔法師団員達が必死に止めようと試みていた。
まるで派手なアクションが目の前で繰り広げられ、さながら演劇でも繰り広げられているかのようである。
「お~!さっすが王都の酒場は違うなぁ。こういう喧嘩とかも、もしかして演出みたいなものなのか?」
「あ~……そうかもしれないですねぇ。割といつもの光景ですし」
王都の酒場が初めてだからか、マルッと都合よく誤解してくれたようである。マーガレットは適当な相槌を打って誤魔化しているが、実際に騎士団ではいつものことだから嘘はついていない。
とはいえすっかり見物気分の見合い相手とは違い、アルフレッドを抑え込もうとする者達は命懸けの戦いである。
「くそっ!団長の蒼雷を抑えててもこれか!おい!何としても止めるぞ!」
「「おぉっ!」」
騎士団員達はアルフレッドへ向かって襲い掛かる。一応は一般人に扮している為、剣などの持ち込みをしておらず丸腰だ。だからと言って戦えないわけではない。
「食らえ!投げフォークっ!!」
──ヒュンッヒュンッ!!──
「お皿ブレードッ!!」
──パリンパリンパリーンッ!!──
「唐辛子ブレスっ!!」
──バフンバフーンッ!!──
飛び交うお皿やフォークたち。騎士団員は持ち前の戦闘能力をもって、次々とアルフレッドへ攻撃をしかけていく!だがアルフレッドとて伊達に王国最強の騎士団長ではない。
次々と飛んでくる凶器を躱し、毒ガスの煙幕を強烈な鼻息で吹き飛ばしていく。そして自らも反撃に打って出た!
──ガッ……!!メギョッ!バギバキバキバキっ……!──
「なっ……!」
「まさか……!」
「それを使っちゃう……?!」
何とアルフレッドはカウンターとして使われている大きな一枚板を両手で抱え込むと、凄まじい筋力でそれを持ち上げた!バキバキと凄まじい音を立てて、凶器が剥がされる。
「……(怒-ん)」
まるで巨大なこん棒を持つ地獄の門番のような姿となったアルフレッド。ハッキリ言って悪役にしか見えない状況である。
「くそっ!マズイぞ!魔法師団員も攻撃を頼む!」
「わ、わかった!……アイスランスっ!」
「……憤怒っ!」
──ガギィィンッ!!──
「なっ?!弾き返されただと……!?」
「これならどうだ!ファイアボール!!」
「……怒るぁっ!!」
──ドゴァッ!!──
「なっ……これも弾かれただと……!?」
なんと!アルフレッドはカウンターの巨大な板を振り回し、魔法師団員達の魔法攻撃を弾き返した!ただの板だったはずが、アルフレッドが持ったことによって、伝説級の武器にレベルアップしたようだ!
魔法攻撃も相まって戦闘が派手さを増し、ますます豪華なアクションが目の前で繰り広げられることとなったマーガレットのお見合い。
見合い相手もすっかりこの演出が気に入ったようだ。戦闘の合間に運ばれてきた料理に手をつけつつ、ビール片手にアルフレッド達の戦いを楽しそうに見ている。
「わ~。折角だから王都で人気の酒場に来てみたくて誘ったんですけど、来てよかったな~」
「え?もしかして酒場に来たかっただけなんですか?」
「そうそう。知り合いがいない中で来るのはちょっと気が引けたんで、マーガレットさんを誘ったんですよ。一人で来るのは寂しいですしね」
「じゃあ……お見合いの話とかじゃなかったってことですか?」
「あぁ、すみません……実はそうなんです」
そう言って見合い相手の青年は事情を話しはじめた。
「自分も最初から断るつもりだったんですよ。でも王都には一度行ってみたいな~と思ってて。だから見合い話を口実にして、ただ観光に来ただけなんです」
そういう見合い相手の青年によると、彼もまた自分の家族に強引に見合いをさせられたらしい。だが結婚する気はさらさらなく、のらりくらりと躱していたのだが、王都に行くという話に、ついのってしまったのだそう。
「まぁ結局はマーガレットさんからも断ってもらえたし、後は王都を観光してから帰ろうと思いまして。ただせめて食事くらいは誰かと一緒に食べたいかなと思って、王都で人気だというこの酒場に誘ったんですよ」
「そうだったんですね。何か重要なお話があるのかと思って、冷や冷やしました」
「すみません。ただの食事のお誘いで」
マーガレットの言葉に、青年は申し訳なさそうに頭をかいた。だが気持ちはわからなくもない。田舎出身の者にとって、王都の店は入るのに少々勇気がいるのだ。
「じゃあ今日はたっぷり王都の食事とお酒を楽しんでください。おすすめの料理とか色々ありますから!」
「はいっ!ありがとうございます!」
「じゃあ改めて乾杯しましょうか!店員さん!もっとお酒持ってきてくださ~い!」
見合い話ではないと安心したマーガレットは、上機嫌で酒を追加注文した。酒豪マーガレットはどうやら本気で飲むつもりのようである。見合い相手の青年も自分ももっと飲もうと店員に注文をしている。酒のつまみとなる豪華な演出はまだまだ終わりそうもない。
「 憤怒っ!」
──ガギィンッ!!ズバーンッ!!──
「ヤバイっ!結界がもたないぞ!」
「怒っっ!!」
──ブォンッ!!──
「ひぃぃぃっ!!」
──ずガァンッ!!ピシャァァアンッ!!──
「ぎゃー!蒼雷がー!!」
「衛生兵!衛生兵ー!!」
迸る蒼雷と飛び交う怒号。アルフレッドと騎士団、魔法師団が死闘を繰り広げる中、その傍らでマーガレットと見合い相手は、楽しそうに酒を飲むのであった。
「王都の酒場って楽しいな~。酒がうまい!!」
「店員さん、おかわりー!!」




