任務その25 帝国の魔の手を阻止せよ!
建国祭も終わりに差し掛かる頃、騎士団長のアルフレッドは国王から呼び出されていた。
「失礼いたします」
「おう、アルフレッド。よう来たの。こっちじゃこっち」
「はっ……」
白髭の好好爺に手招かれ居室に入るアルフレッド。人の好さそうな目の前の人物こそ、このサフィア王国の国王である。
「相変わらず厳つい顔じゃのー。そう固くなるでない」
「……これが普通なので……」
「ふむ、そうだったかの」
久しぶりに対面する国王でさえもビビってしまうほどの凶悪な顔面である。いつもは幼馴染のケビンを通して王命を受けている為、会うのは久しぶりだ。
「今回来てもらったのはな、特別に休暇を与えようと思っての」
「特別休暇ですか?」
「うむ……と言ってもこちらの都合に付き合わせてしまうんだがの」
「……つまり特別な任務があると……?」
わざわざ呼び出して休暇を与えてまでの要請だ。何かものすごい極秘任務があるのかと思っていると……
「あぁ、そういうんじゃない。見合いじゃ、見合い」
「……は?」
「暗黒騎士役として劇に出たじゃろ。あれを見た国賓の姫君がお前を見初めてな。是非ともお前を婿にしたいと言ってての。ならば見合いでもすればいいかと思い、それで呼び出したのじゃ」
「見合い……」
思ってもみない提案に、驚きに言葉を失うアルフレッド。戦うことに関しては右に出る者はいないが、こと恋愛方面についてはからっきしである。
困惑するアルフレッドをよそに、国王は嬉々として見合い相手について語り出した。
「帝国の末の姫君でのぉ。それはそれは可愛らしい姫だぞ?儂にお前との見合いを可愛らしくおねだりしてきてのぉ。うちはカケラも可愛くない息子しかおらんから余計に可愛くて可愛くて……」
「はぁ……」
「我が国としても帝国との繋がりができるのはありがたい。それにアルフレッド、お前もそろそろ結婚しなければならんじゃろう?相手もおらんようだし……」
そう言って「どうじゃ?」と上目遣いで見てくる国王。いい歳のおっさんが期待の眼差しを向けてくるも、アルフレッドにとってはとてもじゃないが受け入れられることではない。愛する嫁がいるのだ。
「……折角のお話ですが、私のような者にはもったいないお話かと……」
「そうは言っても帝国側からの要請じゃ。断るわけにはいかんのだ」
「……既に確定ということでしょうか?」
「見合いはの。急で悪いが特別休暇を取らせたのも見合いの為じゃ。何せ建国祭が終われば、国賓も帰国せねばならんからの」
「……なるほど」
国王直々にそう言われてしまえば、王国に忠誠を誓っているアルフレッドが断れるわけもない。だが結婚となれば話は別だ。
「……陛下……やはり自分には帝国の姫との婚姻は考えられません……その、自分にも一応……想う相手がおりますので……」
「何?そうなのか?」
「は……だから例え王命で姫を妻に迎えたとしても……恐らく満足させることはできないでしょう。そこまで器用ではありませんので……」
「む……そうか……」
アルフレッドの言葉に考え込む国王。確かに帝国との繋がりは大事だが、これまで王国に忠誠を誓って尽くしてくれた騎士団長の想いを無下にすることもできない。
「……お前の気持ちは分かった。じゃが見合いだけでも受けてくれんか?取りあえず会ってみてその上で今後のことを決めればよい。相手方もまた気持ちが変わるかもしれんからの」
「……承知いたしました」
そうしてアルフレッドは急遽、帝国の姫君という相手と見合いをすることになってしまった。
********
──一方その頃──
「なっ!?アルフレッドに見合い?!あんの馬鹿親父は何を考えているんだっ?!」
影からの報告を聞いて、怒りと共に机に拳を叩きつけたのは王太子のケビンである。建国祭での国賓のもてなしは彼が担当していたが、父親である国王の独断による見合い話は寝耳に水であった。
「……どうやらお相手は帝国の末の姫君のようです。密かに国王陛下に直々に依頼したようで……」
「……あのわがまま娘かっ!くそっ!何てことだ!」
相手が帝国の姫君と知り、ケビンは更に苛立ちを募らせた。もてなす側として当然、その姫のことは知っているが、あまりのわがままっぷりに相当苦労をさせられているのだ。
「なんでよりにもよってアルフレッドを……」
「……どうも代役で出演した演劇を見て、見初めたようです。騎士団長殿は暗黒騎士役として出演されたとか」
「……あれか……」
影の言葉に、先日国賓を連れて観劇した舞台を思い出す。兵団による演劇のはずなのに、アルフレッドが出ていて、ケビンも度肝を抜かれたのだ。
演技などとてもできそうもないアルフレッドが演じた暗黒騎士だが、元々ガタイもよく、黙って立っているだけで周囲を威圧する上に、あの凄まじい蒼雷だ。とんでもなく大根な演技だったが、観客達に強烈なインパクトを与えたことは間違いない。
「……まぁ鎧を装備していたし、素顔を見たわけじゃないか……見合いをすれば思っていたのとは違うとなって諦めてくれればいいが……」
「そうですね。何せ騎士団長殿はその、顔面が少しばかり女性には不人気ですので……」
さらっとアルフレッドの顔面をディスる影の男。だが強面で不愛想なアルフレッドに対する認識としては、ごく一般的なものである。
「だがもし、見合いをした上でアルフレッドを求めたらどうなる?」
「まさか……それは流石に……」
「どうなるかはわからないぞ?それにあのアルフレッドのことだ。マーガレット嬢との仲を引き裂かれたとなれば……それこそ暴れまくって王国が滅亡するか、帝国と戦になるか……」
「そ、そんな……」
「そうでなくてもアルフレッドと帝国の姫君との婚姻がなされれば、最悪、王国最強の騎士を帝国にとられることになる。それは絶対に避けねばならない」
「!!!!」
ケビンの言葉に影もようやく事態の深刻さに気が付いたようだ。王国を守る最強の騎士団長アルフレッド──彼がいるからこそ、この国は魔物の脅威から守られ、周辺諸国への牽制もでき、強国としての地位を揺るぎないものにしているのだ。
「あの馬鹿親父はアルフレッドがどれだけ国にとって重要で危険を孕んでいるかをわかってない。何としてもこの見合いをうまくいかないようにしなければならないぞ!すぐに影達を集めろ!」
「はっ……!」
こうしてアルフレッドの見合いを阻止すべく、王太子のケビンは動きだした──
──一方その頃、王妃の居室では──
「何ですって?!騎士団長殿を帝国の小娘と見合いさせると?!」
「はい。国王陛下に直々に依頼したとかで、本日騎士団長様に休暇を取らせたとか……」
「あのポンコツ国王め……なんて愚かなことを……!!」
専属の影からの報告を聞き、怒りに戦慄く王妃。握りしめた扇がみしりと軋む。
「私たちの癒しである騎士団長殿を帝国如きにくれてやるなど……ありえないわ!」
「王妃様のおっしゃる通りですわ!」
「私たちの騎士団長様がいなくなってしまうなんて……」
「「「王国最強の受け・攻め騎士様なのに!!!」」」
「えぇ、えぇ本当に……皆もそう思うでしょう?私の目の黒い内は、そんなことはさせないわ!!」
王国腐女子連盟の会長である王妃にとって、騎士団長のアルフレッドは素晴らしい癒しを提供してくれる貴重な存在である。それをやすやすと帝国にくれてやるつもりはない。一生この王国で女性達の癒しを提供してもらわなければならないのだ。
「誰か!書記官のマーガレットを呼びなさい!それとあの者も──」
「はいっ!ただいま!」
「……絶対に阻止するわよ……この見合い……」
王国最強のアルフレッドに手を出された王妃は、凄まじい怒りに燃えながら見合いをぶち壊すべく動きだしたのだった。
******
そんな風に裏であれこれ画策されているとは知らないアルフレッドは、帝国の姫君の見合いの場に臨んでいた。
連れて来られたのは王宮の貴賓室の一つ。豪華な内装に歴史ある調度品が並び、既に豪華なティーセットがテーブルには用意されていた。
(……どうしてもと言われて来たが……さてどうしたものか……)
国王命令だからそう簡単に断ることはできない。だからと言ってこのまま見合いをするというのも、愛する嫁への裏切りに思えてしまう。
そんな風にして落ち着かない気持ちで待っていれば、扉の外から侍女が声をかけてくる。どうやら姫君が到着したようだ。
「姫様のご到着です」
「あぁ……入ってくれ」
入室の許可を出せば、すぐさま甲高い声と共にフリフリのドレスに身を包んだ女性が入ってくる。件の帝国の姫君だ。
「きゃあ!こちらに暗黒騎士様がいらっしゃるのね!嬉しいわ!」
「……(ぬーん)」
「どこ?どちらにいらっしゃるの?」
やって来た姫君は室内をキョロキョロと見回している。恐らくアルフレッドのことはただの護衛だと思っているのだろう。アウトオブ眼中で見合い相手の暗黒騎士を探しているようだ。
「暗黒騎士様はまだいらっしゃっていないのかしら……?」
「あの……姫様……」
「え?どうしたの?」
「暗黒騎士の役をしていたのは、こちらの騎士様なのですが……」
「えっ──!?」
侍女の言葉にアルフレッドに視線をやった姫君は、ピシリッ!──と音が出そうなほどに固まってしまった。アルフレッドと言えば通常運転の凶悪な顔面で仁王立ち中である。
「(あぁ~……やっぱり兜とかで顔が見えていなかったやつですよねぇ)……お見合い相手の騎士団長様です」
「う、うそ……」
「……(ぬーん)」
暗黒騎士にどんな夢を見ていたのかわからないが、アルフレッドの強面の顔面は姫君の想像を遥かに裏切ってしまったようだ。青ざめた顔でアルフレッドを見上げて固まっている。
そんな姫君に対し、アルフレッドは騎士として挨拶をした。にこりともしない所が通常運転だ。
「……サフィア王国騎士団の団長を務めておりますアルフレッドと申します」
「……騎士団長……」
「暗黒騎士はただの代役でして……」
「代役……つまりあのスゴイ魔法も剣の技も、偽物だったと?」
「いや……魔法や剣は特に偽物ではないですが……」
「ならいいわ!帝国は貴方のような強い人間を求めていたのよ!光栄に思いなさい!私が貴方を婿にして差し上げるわ!」
先ほどとは打って変わって高飛車な態度で詰め寄る姫君。帝国がどうのと言っているから、どうやら狙いはアルフレッドの凄まじい戦闘能力のようだ。
「話題の兵団所属の役者というからどんなイイ男かと思ったけど……まぁそっちは我慢してあげる。(いざとなれば愛人でも第二、第三夫でも作ればいいだけだし)あれだけの戦闘能力があるのなら、十分だわ」
「はぁ……」
姫君のドス黒い思惑など想像もつかないアルフレッドは、気の抜けた返事をした。これまでは主に凶悪な顔面で恐れられ遠巻きにされるか、萌えの対象として見られるだけだった為、女性からのアプローチ自体、経験が無いのだ。
どう返答していいかわからず困惑していると、思わぬ助け舟がやって来た。
「失礼する」
そう言って部屋に入って来たのは王太子のケビンだ。
「あら?お見合いなのに邪魔が入るなんて随分と無粋ね?」
「アルフレッドは私の幼馴染で親友だからな。コイツの見合いと聞いて、黙っているわけにはいかない」
「まぁ、それなら余計に邪魔をしてはいけないのではなくって?」
入ってくるなり険悪な空気になるケビンと帝国の姫君。どうやら二人は相当仲が悪いようだ。
しかしアルフレッドにとっては、またとない味方である。縋るように視線を向ければ、ケビンもアルフレッドを安心させるように笑みを浮かべる。
「大丈夫だ、アルフレッド。親父がアホな提案をしたみたいだが、あんな王命あってないようなものだから」
「ケビン……」
王太子として完全に父親である国王をディスっているケビンである。しかしながら王国の実務のほとんどを任されている現在では、彼の方が政治的には重要な位置にいることは間違いないだろう。
「まぁ……国王様の命令をそんな風におっしゃるなんて……随分と親不孝ですのね?」
「何とでも言えばいい。とにかくこの見合いは中止だ。うちの騎士団長を帝国にやるわけにはいかない」
「あら、でも騎士なら他にもいらっしゃるでしょう?私は一目見て、こちらの方が気に入りましたの」
「ほう……?この男を一目見て……?本当に?」
「……(ぬーん)」
「うっ……、そ、そうよ……!」
アルフレッドの凶悪な顔面を知ってもなお、一目惚れという姿勢を崩さない姫君に、ケビンは更に詰め寄る。
「じゃあアルフレッドのこの顔で”愛してる”とか”お前が欲しい”とか言われても大丈夫だと?」
「くっ……!」
「手を繋いで、すぐ間近で見つめ合っても全然問題ないと?」
「ぐっ……!」
「結婚式で誓いのキスをこの顔面の男としても、全然オッケーの寧ろ大歓迎だとでも?」
「うぉぇっ……!」
「初夜にはこの男とあれやこれやするのも我慢できると言うんだな?」
「~~~~~~!!!!!」
ケビンの凄まじい猛攻に、流石の帝国の姫君も何も言い返すことができない。そんな中、ケビンの問いかけに答えたものがいた。
「その展開、全然いけるわっ!!!」
──バァァァンッ!!──
「「「!?!?!?!?」」」
声高に挙げられた声とともに突如として開かれた扉。その向こうに見える人物に、ケビンをはじめ部屋にいた者達は驚きに目を見開く。
現れたのは大勢の侍女達を引き連れたサフィア王国の王妃だった。
「お、王妃殿下……」
「母上……?」
「ほほほ、邪魔して悪いわね」
王族らしい笑みを浮かべて入ってくる王妃。扇で口元を隠しつつ、チラリと部屋の中に視線を巡らせる。国王と違い、抜け目のないやり手の王妃である。
「あの……どうして王妃殿下がこちらへ?これはお見合いの席ですが……」
「ほほほ、我が国の大事な騎士団長のことですもの。王妃である私がいても何も可笑しくなくってよ」
優雅に笑う王妃だが、その目は全く笑ってはいない。だが流石に王妃の登場に、息子であるケビンも驚かされたようだ。
「母上……」
「ケビン、私も貴方の考えに同感よ。一目惚れだのなんだのと嘯いて、うちの大事な騎士団長を引き抜こうだなんて、到底許せることではないわ」
「!!!」
「だから貴方達が示しなさい!この小娘の一目ぼれが嘘だということを!」
「は?貴方……達?」
どういうことかわからずに聞き返せば、王妃の後ろから見慣れた青年が気まずそうに現れる。
「あのぉ……呼び出されて来たんですが……一体どういうことなんでしょう?」
王族の集まる中に連れ出され、腰が引けまくってくる情けない男は、騎士団長執務室勤務の補佐官だ!
「ほほほ、ケビン。ほら、先程言っていたことをアルフレッドにしてあげなさい。この小娘では到底できない愛の営みを!!」
「あ、愛……?」
「さぁ!早くっ!!補佐官もよっ!!」
「は、はいっ!!」
王妃の有無を言わせぬ言葉と鋭い視線に急かされ、アルフレッドの側へと近寄るケビンと補佐官。どうやら先ほどの恋人のやり取りの実演を、この三人にさせるようである。
「これ、そこの帝国の小娘!」
「へっ?私?」
「お前はちょっとこちらへ来なさい!」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
凄まじい威圧感に押されて、素直に従う帝国の姫君。海千山千の王妃にとって、いくら帝国の王族と言えど成人もしてない小娘など赤子の腕を捻るようなものである。ましてや大事な癒しの騎士団長を奪われかねない事態で、手加減などしようはずもない。
「お前はちょっと物を知らなさすぎるわね」
「えっ?」
「マーガレット、これへ」
「はい、王妃様」
王妃に呼ばれてやって来たのは、書記官のマーガレットだ。何か冊子のような物を手にして王妃に近づく。そしてそれを王妃へと渡した。
「マーガレット、ありがとう。助かるわ」
「いえ、王妃様の役に立てるならありがたき幸せです」
「ほほほ、これからもよく励んで素晴らしい作品を生み出してね」
「はい!」
そんなやり取りの下、受け渡された怪しい冊子。表紙は美しい薔薇の花柄だが、特に文字のようなものは書いていない。手作り感のあるそれは、王宮の女性達にとっては垂涎のブツである。
王妃は受け取った冊子を今度は帝国の姫君に渡すと、それをしっかりと読むように命じた。
「それを貸してあげるから、読んでもう一度よく考えなさい。騎士団長をこの国から引きはがそうとすることが、どれだけ愚かなことかを……」
「は、はぁ……」
「さぁ!今はこの素晴らしい劇を楽しみましょう!ほら、何をやっているのケビン!さっさと先ほどのセリフと愛の営みを騎士団長にしなさい!」
「えぇ~……」
「お仕置きされたいのかしら……?」
「ひぇっ!」
王妃の脅しに屈して渋々、動きだすケビン。アルフレッドと向き合い、間近で見つめ合い手を握る。
「補佐官も何をしているの?!さっさと騎士団長に愛を囁くのよ!!」
「ひゃいっ!」
王妃に逆らえるはずもない補佐官は、不本意ながらも上官であるアルフレッドの側により、震えながら愛を囁いた。
「えとー、団長……その、あ、愛してます……」
「もっと身体をくっつけて!」
「ふぇっ……あ、あの……」
「ケビンに騎士団長を取られてもいいの?!」
「いや……それは別に……」
「ケビンもさっさと愛を告げなさい!」
「うぇ……あ、アイシテル……アルフレッド……」
「お前達なら小娘ができないこともできるんでしょう?ほら、キスよ!」
「「え”っ……!」」
「帝国に騎士団長を取られてもいいのかしら……?」
「「うぅ……」」
凄まじい王妃の威圧の前に、アルフレッドへのキスをしたかどうかは……ケビンと補佐官の名誉のために、超極秘事項としてここへ記載することは控えておこう。
だがその後、新たな薔薇の花柄の冊子がこの世に生み出されたことだけは記しておく。
「流石王妃様ですわー!見事に騎士団長様引き抜きの危機を脱して、その上であんな素晴らしいものを……ほぅ……」
「あぁ!私もその場で見たかったですわ!なんて残念な!」
「それにしてもあの帝国の姫君も、コロッと態度が変わりましたわね」
「えぇ。元々は優秀な騎士を帝国に引き抜くつもりだったんでしょう?」
「一目ぼれだなんて見合い話まで作って。でももう大丈夫ですわね」
「えぇ、完全に私達の同類になりましたもの。ねぇ、王妃様?」
「ほほほ、当然よ。我が国の素晴らしい薔薇本を読んで、感化されないわけがないわ。あの素晴らしい世界が、現実で見られるのよ?自分で結婚などしてしまったらダメじゃない」
得意げに語る王妃。そう、彼女が帝国の姫君に渡したのは、所謂、男同士の恋愛を描いた薔薇本だ。当然、そのモデルとなっているのは、王国最強の騎士団長であるアルフレッドだ。
何冊かあるが、その相手役として補佐官ネタや王太子ネタがあったのは王妃の策略の一つである。
「あれを読んだ後では、あの三人のやり取りはまた違って映ったでしょうねぇ。ほほほ」
「最初から読んでいた私達は萌えすぎて気絶しそうでしたわ」
「あれを見て萌えない女子はいませんわ」
「帝国の小娘もあれの素晴らしさがよく分かったようね。是非とも我が国との友好を結びたいと言ってきたわ」
「流石ですわ王妃様」
「あちらでもこの素晴らしい薔薇本を広めたいそうよ?これから忙しくなりそうねぇ」
「マーガレット先生の作品が、今後世界に広がっていくんですね!」
「ほほほ、我が国の貴重な輸出品になること間違いなしよ」
「「「流石ですわ王妃様!!」」」
「ほーほほほほっ!!」
ある意味王国の危機を救った王妃(と薔薇本)。また新たな伝説がこの世に生まれ、世界中に広まることになるのだが、それをモデルとなった男達が知るのは、ずっと後のことになるのだった──
帝国姫「ちょ、何この本……!な、なんで男同士であんなことやこんなことしてるの?!」
腐侍女「あー、姫様はコレ系知らなかったんですねー。これはそういう男同士の恋愛を萌えとして楽しむ、淑女の娯楽の一つですよ」
帝国姫「しゅ、淑女の娯楽?これが……?」
腐侍女「えぇ。というかこの本かなりヤバイですね。腐女子の萌えポイントをついてる……」
帝国姫「えぇ?……で、でも確かになんか胸がどきどきするような……」
腐侍女「姫様も素質あるんじゃないですか?ほら、この場面とかこないだの見合いの時のあの王太子と騎士団長のやり取りそのものじゃないですか」
帝国姫「え……た、確かに……」
腐侍女「マッチョな団長に鬼畜王太子が攻めて、そこに部下の補佐官が横恋慕しての三角関係……」
帝国姫「ご、ゴクリ……」
腐女子ネットワークが帝国まで繋がった瞬間である。




