任務その2 幼馴染と王太子はうまく使え!
本日のサフィア王国も晴天である。そんな麗らかな午後、サフィアの王城のとある一角──
「ははっ!それでしょんぼりしてここに来たのか。ホントウケるわ、お前」
「……うるさい」
誰もが恐れる強面騎士団長のアルフレッドを、ウケる──などと言って笑い飛ばせるのは、この世でこの人物だけだろう。今、アルフレッドは幼馴染で王太子である、ケビンのプライベートな居室に来ていた。
「はぁ~……にしても見合いねぇ。まぁ彼女も年頃だからね?18……19だっけ?」
「……19だ」
「ならそういう話の一つや二つ、出ても可笑しくないな。寧ろ貴族女性ならもっと早い」
「…………」
王太子のケビンの言う通りである。幸い(?)マーガレットは平民女性であるので、これまで家の為の婚約などと言った話はなかったようだが、彼女の祖母が余計なお世話をしてくれた為に、こんな事態になってしまった。
一方の騎士団長であるアルフレッドは、伯爵家の3男であるのに、全くと言っていいほどに婚約の話など出たことがない。しかも先日、兄が二人とも後継からドロップアウトした為に(一人は女性と駆け落ち。一人は男色であることが発覚)まさかの伯爵家の後継ぎになってしまっていた。
しかしながら彼の婚約者の席は、生まれてから現在まで、閑古鳥も鳴くのが飽きるほどにすっからかんに空いたまま。しかもアルフレッドは既に27歳。彼の方も十分すぎるほどにお年頃であった。
「それで?ただ愚痴を言いに来ただけじゃないんだろう?不器用なお前には、幼馴染である僕の力が必要かな?」
「……頼む……ケビン、お前しかいない」
強面騎士団長が若干目を潤ませつつ大きな体でずいと近寄れば、幼馴染で慣れているとはいえ、ケビンも僅かに口元を引きつらせつつ体を後ろに引いた。
傍から見れば強面の大男に王太子が迫られているように見えなくもない。勿論、そういう男色を好む者も多くいるが、ケビンもアルフレッドもノーマルである。
一度、侍女達からそういう期待の目線を向けられて以来、ケビンはアルフレッドとのプライベートな話題の際には、彼女達を居室から追い出していた。だからそういう噂など立つはずもないと安心しきっているのだが、寧ろアルフレッドと二人きりを望む王太子に、彼の側に仕える侍女を筆頭にした王城の女性達は、王太子と騎士団長が禁断の秘密の恋をしていると大いに盛り上がっていた。
そんなことになっているなど露ほども思っていない男二人は、今日も今日とて額を突き合わせて極秘の会話をしていた。
「あ~、つまり影を使ってマーガレット嬢の見合い相手の調査をしろってこと?」
「…………………………(コクリ)」
たっぷりと沈黙を取った後、アルフレッドは神妙に頷いた。その厳しい表情だけを見れば、まるで王国の危機に立ち向かわんとする忠義の騎士のようだが、実際は自らの恋路の為に、職権乱用どころか王太子という虎の威を借りようとしている図々しいだけの男である。
「……はぁ~……本当はこういうことに影を使うのはダメなんだが……」
大きなため息を吐いたケビンは、方々からの報告される騎士団長による被害について思い出していた。
戦場では怖いもの知らずの騎士団長アルフレッドであるが、平時ではその有り余る魔力と強すぎる腕力、握力によって、方々で被害が報告されているのである。
備品の破壊が月に数十件、雷撃による怪我人多数 (主に騎士団員)、顔が怖すぎるという苦情、雰囲気が怖いという苦情、あと暑苦しいなどなど。しかもマーガレットの見合い話の件以降、その被害は更に広がっているようである。
「王城の安全の為にはしょうがない……調査を進めるから安心しろ」
「ケビン、助かる」
ケビンは幼馴染の為……というよりは、王太子として王城の平和の為に影を使うことを決意した。このままマーガレットが見合い相手とゴールインなどしてしまおうものならば、それこそ王城が破壊されかねない。その甚大な被害(もはや災害レベル)を思えば、自分の影を使うことなど安いものである。
「それはそうとお前、見合い相手のことよりも自分のことだ。ちゃんとマーガレット嬢にアピールしているのか?」
「っ……それは………」
ケビンに突っ込まれて、大仰にしどろもどろして慌てだすアルフレッド。眉間に深いしわを寄せ、気難しい顔をしているその様は、何か重大事件でも起きたかのようであるが、実際はただのヘタレ男が図星を差されてオロオロしているだけである。
「お前なぁ、そんなんじゃいつまでたってもマーガレット嬢に気付いてもらえないぞ?本気で彼女のことを好きなら、男としてちゃんとアピールしろ」
「だ、だが……どうすればいいのか……俺は自信がない」
「……まぁそうだろうな。お前って硬派に見えて、恋愛面はタダのヘタレだし」
「…………(ムスッ)」
再びの図星に、アルフレッドは今度は相手を鋭く睨み返した。まるで仇に出会ったかのような形相であるが、それがただの不貞腐れているだけだと知るケビンは、苦笑いしながら机の上にとある書類を置く。それはケビンが用意したアルフレッドの為の極秘書類だ。
「……いいか。これに書いてあることをよぉ~く読んで、女心というものを勉強しろ。そしてそれを実践してマーガレット嬢にアピールするんだ。そうでなければお前は一生、彼女にその恋心を気付いてもらえない!一生だぞ?一っ生ぉっ!!」
「っ──!?!?!?」
──ピシャァァンッ!!──
ケビンの言葉にアルフレッドにまるで雷撃のような衝撃が走る。──実際に外ではアルフレッドが無意識に放った魔法による蒼雷が激しくほとばしってはいるが。
また後で被害の報告が来るなこれは……とため息を吐きたくなるケビンをよそに、恋に不器用なアルフレッドは、いそいそとその重要書類を手に、部屋を辞したのだった。
お読みくださりありがとうございました。
2024年6月の投稿スケジュールは下記となります。拙作の別作品もどうぞよろしくお願いします。
『薔薇騎士物語』
↑シリアスなアクション系、本格的な男装の騎士物語
https://ncode.syosetu.com/n1419fh/
『たとえあなたが知らなくても ~騎士と薬師の秘密の夜~』
↑シークレットベイビーものの切ないすれ違いな恋愛物語。
https://ncode.syosetu.com/n2944jd/
『あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~』※完結済み
↑40歳ヒロインがテーマの婚約破棄&復活愛ストーリー
https://ncode.syosetu.com/n7474gj/