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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説(異世界恋愛)

不幸な婚約に、ありがとう

 私は嘘が嫌いだ。


「奥様は見る度に美しくなられますなあ」


 ある名士の屋敷で開催中の夜会。私の父は、今日も会う人会う人に調子のいいことを言っていた。


「ご子息は今年、士官学校に入学でしたか? ご両親に似て優秀ですから、主席の座はいただいたも同然ですな」


「そんなことありませんわよ」


 お父様の話し相手の貴婦人はまんざらでもなさそうだ。お父様は満面の笑みで、「ご謙遜なさらないでください」と言った。


「まったく、うちの娘にもお宅のご子息の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいですよ。そう思うだろう、カトリーヌ?」


 お父様に背中を肘で突かれる。……痛いんだけど。私は「はあ」と気のない返事をした。


「でも、私は士官学校に入りたいなんて思っていませんので。……失礼します」


 もそもそと言って、その場をあとにした。お父様が私を叱る声が聞こえてきたけど、知らないふりをする。


「今の見た?」

「やっぱりカトリーヌさんって愛想がないわよねえ」


 皆がヒソヒソ言い始める。


 ああ、嫌だ嫌だ。私みたいな下流貴族は、高貴な人たちにいつもニコニコしてるのが当然ってわけ? 


「お姉様とは大違いだわ!」

「ジェンマ様ったら本当にお気の毒よね。あんなにいい方だったのに……」


 お姉様のことに話が及び、私は身を硬くする。会場のホールから素早く抜け出した。


 思わずため息を吐く。


 ジェンマお姉様ったら、どうして死んでまで私を苦しめるのかしら?



 ****



 ――いいか、我々の家は代々続く下流貴族。したがって、我が家には金も地位もない。だからこそ、我々は長いものに巻かれて生きねばならないのだ! 


 私とジェンマお姉様は、幼い頃からお父様にそう言われながら育ってきた。


 ――はい、分かりました、お父様!


 素直なお姉様はお父様の言葉をためらいもなく実行に移した。敵を作らないように上手く立ち回り、お世辞を垂れ流し、誰彼ともなく媚を売る。


 そうして、元々要領が良くて容姿も美しかったお姉様は、あっという間に皆の人気者になったのである。


 対照的なのは私だ。


 ――何で思ってもないことを言わないといけないの?


 ひねくれ者の私は、お父様のやり方を受け入れられなかった。私は醜いものは醜いとしか表現できないし、嫌いな人とは仲良くなりたくない。それが自然なことだと思っていたのだ。


 けれど、そんな私の思想にお父様はすっかり呆れ返っていた。「カトリーヌ、どうしてお前はそんなに可愛げがないんだ」「もっとお姉様を見習いなさい」。何度そう言われたか知れない。


 でも、私は頑として自分のやり方を変えなかった。そもそも、私が世渡り上手になんてなれるわけがないのだ。私はお姉様と違って口が達者じゃないし、美人でもない。愛想笑いをするだけで頬の筋肉がつりそうになるんだもの。


 全自動媚売り機の姉と、お世辞を言う度にフリーズしてしまう妹。最高傑作と欠陥品。お父様が作り出したのは、そんなふうに真逆の性能・・を持つ姉妹だった。


 ――ジェンマ、お前は希望の星だ。いいところに嫁いで我が家を盛り立ててくれ。


 やがてお父様は出来の悪い私には見切りをつけ、お姉様に集中的に英才教育を施すようになった。


 その甲斐あってか、お姉様は名門貴族の令息と婚約を結ぶことができた。当然お父様は大喜びだ。


 だが、悲劇は三カ月前に起きた。お父様は全自動媚売り機を酷使しすぎたらしい。お姉様は急な病に倒れ、帰らぬ人となってしまったのである。


 だけど、これで我が家の未来は閉ざされた……などということにはならなかった。お父様は執念深いのだ。全自動媚売り機が壊れたなら新しいのを作ればいい。幸いにも、娘ならもう一人いるのだから――。


「カトリーヌさん」


 声をかけられ、振り向く。


 垂れ目ぎみの青い瞳が印象的な青年がホールから出て、私のいる庭に入ってこようとしていた。


「皆のところへ行かないの?」

「……ダリオさんこそ」


 私は青年からふいと目を背けた。


 こんな反応、お父様に見られてたらどうしよう。お説教一時間コースだわ。


「僕はいいよ。あなたと話したいから」

「……へえ」


 お説教、もう一時間プラスね。


 それにしてもダリオさんって変わってる。無愛想な私と話したがる人なんて彼くらいのものだろう。


 それとも、私が元婚約者の妹かつ、現在の婚約者だからって気を使ってるのかしら?


 ジェンマお姉様が婚約した貴族令息というのはダリオさんのことだったのだ。


 けれど、お姉様が亡くなって二人の婚約はなかったことになった。


 でも、強欲なお父様が成り上がりのチャンスを逃すはずがない。相手方を上手いこと丸め込んで、今度はダリオさんの婚約者として私を宛がったのである。


 だけど、この婚約を良く思っていない人もいるようだった。


 気立てのいい姉じゃなくて可愛げのない妹と婚約? ダリオさんがかわいそう! なんて不運なのかしら! 


 社交界のご婦人たちはそう噂しているらしい。


 でも、心配ご無用だ。お姉様が媚を売って射止めた婚約者を私が繋ぎ止められると思う? 無理でしょ。すぐに愛想を尽かされて破局するに決まってる。


「そうだ、カトリーヌさん。一曲相手してくれない?」


 ダリオさんが明るい笑顔を向けてくる。


「あなたが踊ってるところ、見てみたいんだ」

「嫌よ。ダンスは下手なの。皆の笑いものになるなんてごめんだわ」


 ほら、受けてみなさい! 愛想なし発言の絨毯爆撃! 


「お姉様はダンスが得意だったけど私はそうじゃないもの。踊りなんて大嫌い」


 ダリオさんとの婚約が決まった時に、私はある決心をした。ダリオさんには余計な期待を抱かせない。私は全自動媚売り機じゃないってさっさと理解してもらって、いつか来るお別れの時をなるべく早めてもらうんだ。


 だってこれが不幸な婚約なら、いつまでもこんな不毛な関係を続けていてもしょうがないでしょう? お父様には悪いけど、私はお姉様の代替品にはなれないんだから。


「相変わらず正直だね」


 ダリオさんはクスクス笑っている。


 だけど、別にバカにしているわけでもなさそうだ。この人、鈍感なの? 私はあなたの機嫌を取るようなことはしないって早く分かってよ!


「お姉様が得意だったことは、私、皆苦手なのよ」


 私はわざとツンとした声で言った。


「ダンスも刺繍も歌も全部だめ。全然上手くできないの」


 おべっかも使えないしね。


「じゃあ、特技は何もないの?」

「特技? ……脱走かしら?」

「脱走?」

「……あっ、違うの! 何でもないわ!」


 私は慌てて頭を振った。特技が脱走だなんて! 愛想なしって思われるのはいいけど、変人扱いは困るわ! お父様から二十四時間ぶっ通しでお小言をちょうだいしちゃう!


「そんなこと言わないで。気になるよ!」

「だから……その……」


 ダリオさんの青い目は輝いている。私はしどろもどろな口調で言い訳を探したけど、上手くいかない。嘘が吐けないって厄介な性格だ。


「……お父様ね、昔はしつけの一環で私を色んなところへ閉じ込めたのよ。屋根裏部屋とか、クローゼットの中とか。物置小屋も定番だったわね」


 ――お前の愛想が良くなった頃に出してやるからな。


 全ては私を全自動媚売り機にするためである。本当にお父様って非情なんだから。


「でも、私は反省なんかしなかったの。あらゆる手を使って逃げ出したのよ」


「それで、気づけば脱走が特技になっていた、と」


「まあそんなところよ。……笑いたきゃ笑いなさいよ。分かったでしょう? 私、ジェンマお姉様とは全然違うんだから」


 踵を返す。


 変人と思われるのは釈然としないけど、これでダリオさんも私がどういう人なのかはっきり分かっただろう。そうと考えると、少しだけすっきりした気分だった。



 ****



 ダリオさんが私の家を訪ねてきたのは、それから数日後のことだった。


「よく来てくださいました、婿殿!」


 お父様は上機嫌で、客間に通したダリオさんに高級なお菓子を勧めまくっている。ダリオさんはにこやかに「カトリーヌさんと二人だけにしていただいても?」と言った。


「もちろんですとも!」


 お父様は背中に羽でも生えてるんじゃないかと思うくらい軽快な足取りで去っていく。きっと、娘がようやく婚約者の心を掴んだと思ったのだろう。


 でも、それは勘違いというものだ。


 だって、今日のダリオさんは私にお別れを言いに来たに違いないんだから。


「カトリーヌさん、実はあなたにプレゼントがあるんだよ」


 婚約解消を打診する文書とか?


「はい、これ」


 ダリオさんは懐から手のひら大の箱を出した。紙切れ一枚を入れておくにしては、随分と仰々しいわね。


 けれど、中に入っていたのは予想外のものだった。


 先が複雑に折れ曲がった太さも長さも様々な金属の棒や板や針金。私はきょとんとしてダリオさんのほうを見る。


「ピッキングセットだよ」


 ダリオさんがニヤリと笑った。


「どう? 僕でも少しはあなたの役に立てるでしょう?」


 私はしばし固まる。そして、ダリオさんと金属棒を交互に見つめた。


「……ふっ」


 私は肩を揺らした。


「あは……あはははっ!」


 私はソファーからずり落ちそうになるくらい笑い転げた。それにつられるように、ダリオさんも大笑いする。


「これで私の鍵開けグッズコレクションもますます充実するわね!」


 こんな冗談が自分の口から出てくるのがおかしくて、またもや笑いが止まらなくなってくる。


 もう、何なの、この人? こんなことされたら、ちょっとだけ気を許してもいいかなって思っちゃうじゃない!



 ****



 その日からダリオさんは頻繁に私を訪ねてくるようになった。


 といっても、私はいつも通りに振る舞うだけだ。興味のない話題には淡泊な返事をして、ダリオさんの言動に問題があれば遠慮せずに指摘する。


 でも、彼はそんな私を気にしていないみたいだ。それどころか徹底して私の歓心を買おうとしてくる。例えば、こちらの反応から好みを探っているのか、私が関心を示さない話は二度と持ち出そうとしないんだもの。


 何でこんなに私を気にかけてくれているんだろう? やっぱりダリオさんって変な人だわ。


 まあ、それは私もか。彼の初訪問以来、私は例のピッキングセットをお守りみたいに常に懐に忍ばせるようになっていたんだから。空き巣か鍵屋以外でこんなものを日頃から携帯している人なんて、国中を探しても私くらいのものだろう。


「ダリオさん、変わってるって言われない?」


 ある日の午後。私とダリオさんは屋敷の庭を散歩していた。


「私と話して面白いの? ジェンマお姉様のほうが、楽しくお喋りするには最適だったと思うけど」


「そんなことないよ。彼女といると、いつも人形を相手してる気分になるから」


「人形?」


「思ったことない? あの人、人形みたいだって」


 ダリオさんは眉根を寄せている。


 お姉様が人形みたいだと思ったことがないか、ですって? あるに決まってるでしょう。ジェンマお姉様の正体は、お父様が作った高性能の全自動媚売り機なんだから。


「そうね。お姉様、人形みたいだったわ」


 私は神妙に頷いた。その瞬間、驚愕するような事実に気づく。


 ダリオさん、お姉様のことが好きじゃなかったんだわ。


 皆から愛されて人の心を掴むのが上手いはずのお姉様。それなのに、ダリオさんのことは魅了できなかった。彼が欲していたのはもっと別のもの……全自動媚売り機が持っていないものだったからだ。


「僕は人形よりも人間が好きなんだよ」


 ダリオさんが真剣な顔でこちらを見つめる。


 熱っぽい青い瞳に、心の奥底に溜っていた劣等感が溶けていく。私はいつだって自分はお姉様より劣った存在だと思っていた。でも、ダリオさんはそんなふうには感じていないんだ。


 自尊心がくすぐられる感覚がした。彼に必要とされているのはお姉様ではなくて私。ダリオさんにとっては、お姉様との関係こそが不幸な婚約だったのだろう。


 ダリオさんに抱きしめられ、私の胸は喜びに震えた。


「カトリーヌさん……」


 ダリオさんが私の耳元で甘く掠れた声を出す。二つの唇がそっと重なりかけた。


 けれど、目を閉じようとした私はダリオさんの肩越しにとんでもないものを見てしまう。お父様だ。オペラグラスまで引っ張り出してきて、書斎のバルコニーから私たちの様子を熱心に観察しているではないか。


「だ、だめぇ!」


 私は思わずダリオさんを突き飛ばした。


「何考えてるの! 非常識よ! こんなことするなんて!」


 私は地団駄を踏んだ。ダリオさんは芝生に尻もちをついて、呆気にとられたような顔になっている。


「バカバカ! 最低! ひどいわ!」

「……カ、カトリーヌさん?」


 ダリオさんは呆然としている。私はハッとなった。このままだと、さっきのセリフがダリオさんに向けたものだと誤解されちゃう!


「違うの、そうじゃないわ! キス、とっても嬉しかったわよ! 大好き、ダリオさん!」


 なんだかとんでもないことを口走ってしまった気がするが、気が動転していたためそんなことには構っていられない。


「私、こういうことは人がいないところでしたいの! だから、ギャラリーが邪魔なのよ!」


 私は矢のような速さで屋内に戻る。書斎のドアをノックもせずに開けた。


「カトリーヌ!」


 私が罵声を浴びせるより早く、お父様の非難の声が飛ぶ。


「何をしているんだ! あんないいところで中断するなど! 押し倒してしまってもよかったくらいだぞ!」 


「バカなこと言わないで! 私がお父様の言うとおりにしたことなんか、これまで一度でもあったかしら!?」


「ないから問題なんだろう!」


 お父様は私の腕をむんずと掴んだ。そのまま廊下に引きずり出される。「やめて!」と言ってもまるで耳を貸してくれない。


「まったく、どうしてお前はいつもいつもこうなんだ。せっかく最近はマシになってきたと思ったのに……」


 お父様は私を二階の空き部屋に押し込んだ。


「いいか、カトリーヌ。家のためだけじゃない。私はお前のためにも言っているんだぞ。器量も良くない、目立った特技もない。そんなお前はジェンマの倍以上は頑張らんといかん。それでやっとあの子と対等になれるんだ。それだけではなく、お姉様を越えたければさらなる努力が必要なんだぞ」


「私、お姉様と同じになんかなりたくない!」


「強がるな」


 お父様は険しい顔になる。


「そこでよく反省するんだな。お前の愛想が良くなった頃に出してやろう」


 お父様が扉を閉める。私はドアに向かって舌を出した。


 どうやらお父様は私に対し、ジェンマお姉様の代替品どころか次世代機くらいの活躍を期待していたらしい。


 だけど、どうして私がそんなものになってやらないといけないの? 私はカトリーヌ。全自動媚売り機じゃないのよ!


「お父様は間違ってるわ」


 私は絶対にお姉様みたいにはならない。


 だって、私が「ジェンマ」になったら、大切な人から嫌われちゃうもの!


「何が『目立った特技もない』よ。バカにしてくれちゃって。この十七年間、お父様は私の何を見てきたのかしら?」


 多分、何も見てこなかったんだろう。欠陥品の悪い面以外は。


 私は手品師のように懐から華麗にピッキングセットを取り出した。


「さて、やるわよ……」


 私は針金を手に取って、ドアの隙間に差し込んだ。


 その時、窓の外から声がする。


「カトリーヌさん、そこにいるの!?」


 私はピッキングを中断して窓辺に駆け寄る。庭にダリオさんの姿が見えた。


「カトリーヌさん!」


 私を認めると、ダリオさんは安心したような顔になった。


「急にどこかに行っちゃったからびっくりしたよ! どうしようか迷いながら庭をウロウロしてたら、たまたま窓に人影が見えて、もしかしたらあなたかもしれない、って……」


「ちょっと待ってて! すぐにそっちへ行くから!」


 私はドアの鍵開けを再開した。ダリオさんからのプレゼントを使うことしばらくして、無事にロックを解除する。


 廊下に出た私が窓の外に目をやると、ダリオさんが庭を走っているのが見えた。きっと、待ちきれなくなってしまったんだろう。


「ダリオさん!」


 私は窓を開けて叫んだ。その途端、廊下の向こうから「カトリーヌ!」と驚愕の声が飛ぶ。お父様だ! このままだとまた閉じ込められちゃう!


「ダリオさん!」


 私はとっさに窓から身を投げた。お父様は絶叫したけど、ダリオさんは怯まない。両腕を大きく広げて、私の体をしっかりと受け止めてくれた。


 それでも勢いは殺しきれなかったので、二人で芝生を転がる。私は息を弾ませながら、「大丈夫!?」とダリオさんに尋ねた。


「あなたのほうこそ」


 ダリオさんは私の髪についた芝生を取って、ふにゃりとした笑顔を見せる。良かった、怪我はしてないみたい。


 安心したら力が抜けてしまい、私はダリオさんにもたれかかるように抱きついた。


「大好き、ダリオさん」

「僕もだよ」


 ダリオさんが優しい声で言った。「実はね」と続ける。


「ジェンマさんが亡くなったあと、カトリーヌさんとの婚約を最初に提案したのは僕なんだよ。あなたの父上じゃなくてね」


「えっ……どうして?」


「さっきも言ったでしょう? あなたが好きだからだよ」


 ダリオさんは屋内に目をやる。窓越しに腰を抜かして放心しているお父様の姿が見えた。


「義父上、まだ理解できませんか? 僕はこのままのカトリーヌさんがいいんです。だから、これ以上僕の愛する人を苦しめないでください」


 お父様は魂が抜けたような顔で頷く。その反応通り、お父様はこれから先私に媚を売れなんて言わなくなるだろうという予感がした。


 ダリオさんが勝利の笑みを浮かべる。気分が高揚してきた私は婚約者に口づけようとした。


 すると、ダリオさんが自分の上着を脱いで私たちの頭の上に被せる。イタズラっぽい笑い声が聞こえてきた。


「ギャラリーからは目隠ししないとね」


 唇に柔らかいものが当たる感触がした。私はダリオさんの背中に手を回して、彼の口づけに夢中になって応える。


「ずっとあなたのほうばかり見ていた。人形なんかじゃないあなたのほうを」


 キスの合間にダリオさんが囁く。


 私は嘘が嫌いだ。


 だから、最後まで本当のことを言わせてもらおう。


 ダリオさんが私の婚約者で良かった。


 これを不幸な婚約と言う人もいるけれど、ひねくれ者の私はそう表現する人たちにはこう返してやるつもりだ。


 不幸な婚約に、ありがとう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


少しでも作品がお気に召しましたら、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると嬉しいです。

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挿絵(By みてみん)
あき伽耶様が作成してくださいました!
― 新着の感想 ―
[良い点] ダリオさんは、カトリーヌさんのカトリーヌさんらしさを最初から愛してくれていたようで、素敵ですね。 特技が脱走と聞いて、プレゼントする物にユーモアも感じます。 結婚しても、カトリーヌさんの自…
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