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青鬼の節分

作者: 徳崎 文音

「ナァ、ありゃあ何だぁ?」

節分の晩、豆まきしてる人間の様子を見に来たのだが、町中を練り歩く仮装行列が目についた。しっかり者の赤鬼に尋ねてみたけど、しきりに首を捻っていてどうやら知らないらしい。

「みんな同じ所に向かってるみたいだし、付いていってみるか?」

赤鬼と並んで仮装行列に付いていくと、何の変哲もない神社に行き当たった。周りの人の話に耳を澄ますと、どうやら新しい風習らしい。

きっと、どっかの地域では昔から似たような風習が有ったんだろうけど。

「ナァ、もう豆ぶつけられなくなるのかぁ?」

「それはナイだろうよ。恵方巻きの文化が西から広がった時だって豆まきは皆続けてたじゃないか。きっと恵方巻き食べて、仮装して豆まきするのが新しい習慣になるんだよ」

赤鬼はいつだって落ち着いていて、冷静に分析してる。疫病が流行るのをオイラ達のせいにされる理由も、人と友達になれない理由も、屋根の上にやけに怖い顔のオイラ達を乗せる理由も、説明してくれた。オイラにはよく判らなかったけど。


オイラと赤鬼はしばらく、仮装して神社でお参りをした人たちを眺めてた。みんな色んな願い事をしていくんだなぁ。耳を澄まして、広く色んな音を聞いてると、だんだん「鬼はー外!福はー内!」っていう声も聞こえ始めた。

バチバチっていう豆が何かにぶつかる音と楽しげな子供の声が沢山聞こえる。幸せそうで何よりだぁ。

豆まきの掛け声とは別に、恵方巻きを食べてる人の願い事も聞こえてくる。家内安全とか、無病息災とか、世界平和とか、願い事のほとんどは定型文だ。時々、恐ろしく強欲で幾つも願い事を唱えてる人もいるみたいだけど。


オイラ達で叶えられそうな願い事がないか赤鬼と耳を澄ましていると、切実な声が聞こえてきた。

『元気になって、うんどうかいで走りたい』

意識を集中すると、その願い事を唱えてる人の様子も見える。すごく顔色の悪い女の子だ。一目で重病だとわかる。


「ナァ、今の聞こえたかぁ?」

「うん。なんとかしてあげたいけど、俺達そんな奇跡の力はないからなぁ。昔なら熊を倒して熊胆を届けたりとかで済んだけど」

赤鬼が言う通り、昔はウナギを捕まえて届けたり、熊胆や薬草をこっそり届けたりそういう助け方をしてた。けど、今はそういう事で治る病気はわざわざ願掛けしない。だから、オイラ達の出番もなくなってた。

病気は立派な医者が治す物だ。だとしたら、あの子の願いを叶えるには立派な医者が必要なわけで。

オイラは一度聞き流した願い事を思い出した。

『医学部に合格しますように』

「あっちから、聞こえた声……」

「そういう事か!今年はもう終わってたとしても、来年は受かるように勉強させよう。今年受かってたら、入学後もしっかり勉強させるって事だな」

オイラは赤鬼と二人で声の聞こえた方へと飛んだ。

オイラ達は鬼らしい格好で、メガネ姿をかけた青年の前に姿を表した。

「医学部に合格したいって願い事をしただろう?」

赤鬼が話しかけると、青年はポカンと口を開けた間抜け面でコクコクと頷いた。

「俺達が手助けしてやる!だからお前は立派な小児科の医者になれ!」

「手助けってのは、どんなこと?」

「お前が勉強から逃げない様に見張ってやる。立派な医者になるのに、他力本願なんて事は考えるなよ!」

赤鬼がいつもより強そうな雰囲気で言えば、青年はまたコクコクと頷いた。


十年後、赤鬼は痩せて、オイラは少し賢くなった。医者になりたい人間はもっと他にも居たのに、なんでもっと他を探さなかったのかと、何度も思った。けど、立派な小児科医になって、子供を笑顔にしてるのを見たら、これも悪くなかったと思う。


「おい、青鬼!お前あの時の女の子の事忘れてないか?」

「ん?あそこの看護学生が、あの時の子だろう?」

「やっぱり判ってないな!つまり俺達が叶えたかった願いは、コイツを医者にしても関係なかったじゃないか!」

この十年で赤鬼は怒りっぽくなった。そう言えば一段と鮮やかな赤色になってる気もする。赤鬼の言いたいことは分かるけど、オイラはこれで良かったと思う。

だって、あの子一人を助けるつもりが、もっと沢山の子を助ける事に繋がったんだから。


今年の節分もオイラは赤鬼と声を聞く。沢山の人の願いに繋がりそうな、誰かの願いを助けに行くんだ。

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