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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

別の世界ではただの日常です

笑って下さい

作者: 茅野榛人

「ハハハハハハハハハハ!」

 やっと俺が売れ始めた。

 かれこれ三十年以上大した人気を獲得出来なかった俺だが、今年の大会でブレイクした。

 今は一発屋になる不安よりも、俺は必ずお笑い芸人で食べて行けると言う自信で満ちている。

 苦難や挫折に負けそうになり、死にたくなる時もあったが、諦めなくて本当に良かった。

 これからは、お笑いで食べて行く!


「本当に……本当に良かったよ……」

「心配かけたな母さん」

「もうどれだけ心配したと思ってるのよ……」

「ふ……心配してくれてたんだな」

「当たり前でしょ! あんたの母よ?」

「長い事芽が出てなかったから、とっくに失望してんじゃないかって思ってた」

「あまり親舐めるんじゃないよ」

「分かったよ、舐めないよ、齧るよ」

「……」

「もしもし? もしもし?」

「……」

 もう夜遅い、恐らく寝落ちしてしまったのであろう。


 寝落ちなんかではなかった。

 昨日の夜、母が亡くなった。

 死因は不明、布団の上で携帯電話を片手に亡くなっていたとの事。

 これから幸せになれると思っていたのに、何故こうなる。


「死因が不明の死亡者が増加しております。本日、新たに五十三人の方々が亡くなりました」

 最近死因不明の死亡者が増え続けている。

 警察も医療関係者も殆ど詳細を明かさない。

 かろうじて立ち直りはしたが、やはりショックはショックだ。

 しかし、俺はピンのお笑い芸人だ。

 周りが俺のネタやギャグで笑ってくれれば、俺も幸せになる。

「思い出って、辛い時に思い出すと泣けますよね、でも俺は辛い時にはね、借金の思い出を思い出すようにしてます。何故か? 金を借りれる友達を思い出せるからです」

 突然、観客の殆どが突然倒れ始めた。

「救急車! 早く救急車!」


 倒れた観客達は全員死亡してしまった。

 恐ろしい事に、死亡者全員の死因が不明との事。

 一体何が起きたのであろうか?


「死因不明の死亡者が後を絶ちません。本日だけで二百十四人の方々が死亡しました」

 あれから俺はお笑い芸人の仕事を続けた。

 しかし、決まって俺が何かしらのネタやギャグを言った後に、死因不明の死亡者が出てしまい、まともに仕事が出来ない。

 無いとは思うが、何か俺に関係があるのであろうか?


「すみません、私達、こう言う者なのですが」

「警察……何かあったんですか?」

「いや、ちょっと気になった事が出てきたものですから」

「はあ」

「最近急増している、死因不明の死亡者の事なのですが……」

「はあ」

「実は、死亡者全員が、貴方の事をご覧になられているんですよ」

「はい?」

「貴方のいるスタジオで観客としていらしてたり、貴方の出演なされている番組の録画を所持なされていたり、更に貴方のDVDを所持されてたりと、死亡者全員が、何かしらの形で貴方を観ていたんですよ」

「え……いやでもこれは……偶然では? え……もしかして何か……俺捕まっちゃったりします?」

「いえいえ、ただ……お恥ずかしい話、我々警察も、お手上げなんです。綿密に捜査をした結果、死亡者の共通点が、貴方をご覧になられていると言う部分だけでしたから」

「そうですか……」

「何か心当たりでもありませんかと聞きに来てしまったんですが……ありませんよね?」

「ええ、ありません」


 死因不明の死亡者全員が、俺を観ていた。

 ただの偶然のはずなのだが、何か胸騒ぎがする。

 まさか俺が笑わせられなかったから死んだなんて事……流石に無いよな。

「俺……笑わ……死……」

 え? 何だ? 何か……頭に響く……。

「俺で笑わ……死ね……」

 え? 声? 小さい頃の俺の声だ……。

「俺で笑わない奴は全員死ね!」

 思い出した……俺がお笑い芸人になりたいと思い始めた頃……俺が学校で喚き散らしていた言葉だ……。

 お笑い芸人として売れた事によって、あの時の言葉が実現してしまったって事か?

 だとしたら……俺は……。


 俺はお笑い芸人を続けた。

 最初は引退しようと思っていたが、大勢の命を奪っておいて、逃げる事は許されないと思ったからだ。

 命を奪わない為に、慎重かついつも以上に力を注いで仕事に打ち込んだ。

 どんなお笑い芸人にも負けない、至高のネタやギャグを作った。

 そして俺は、有名なドームである『ゴッドドーム』でネタを披露する事になった。

 有名アーティストにしか送られないような拍手が巻き起こっている。

 信じられない、この拍手は、俺に向けられているのだ。

「ここで、サプライズです!」

「え? 何?」

 突然VTRが流れ始めた。

「思い出って、辛い時に思い出すと泣けますよね、でも俺は辛い時にはね、借金の思い出を思い出すようにしてます。何故か? 金を借りれる友達を思い出せるからです」

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