一章 燃える海……➀
「酷いな……」
儂達がリナリオの里に着いた時には……全てが手遅れだった。
彼女達の里は島にある入江から続く形になっていて……砂浜の向こうには、防風林なのか棕櫚が並んでおり、さらに並木の向こうには空き地が整備されている。
そこには、製作の途中なのか整備中なのか分からないが、垂木に支えられた船が二艘ほど備えられ……そしてその向こうには、粗末だがしっかりとした木造の家が幾つか軒を連ねて……いたのだろう。
「どうシテ……?」
そして……彼女は集落の広場に転がっている仲間達の亡骸に茫然としていた。
集落の家には火が掛けられたのか大半が焼け落ちていたが……熱帯特有のスコールのおかげで、まだ僅かな火種を残しつつも燻る程度で炎は消し止められている。
「背後や死角……以外からも刺突の跡がある。そして屈強に見える男達にも殆ど抵抗の様子が無い。散らばっている食器や食い物を見るに、酒宴に毒でも盛られた可能性が高いな……」
「いっタイ誰が??」
それは……
「お嬢!!」
ガンビから鋭い声があがった。彼女の船の船員や櫂奴隷達は、広場に散見していた死体を丁重に弔う為に一箇所に集めていたのだが、ガンビがそのうちの一人の側に膝をついて……
「まだ息がある!!」
― ダッッ ―
即座に走り寄るリナリオ……そこには、他の遺体同様に刺突を受けて虫の息の若者が転がっていた。
「エミリオ!!」
若者はおそらくまだ10代後半……この小さな集落なら当然知り合いだろう。
「リナ……姐サン……」
― ゴボッ ―
彼の口元から血があふれる。刺突の位置からみても、おそらく消化器官に損傷がある。即座に死にはしなかったが……致命傷だ。しかもわざと止めを刺していない
「しっかりしろ……もう大丈夫だから。いったい何があった?」
「ヤツラ……西の人間連レテ来た……長が直接……『商いがデかくテ無理、逃すオシイ、協力がホシイ』って……酒宴なった。みんなバタバタ倒レタ」
彼は必死で言葉を紡ぐ。おそらく自分が助からない事も分かっているだろうに……
「誰が?? 誰が連れて来た??!!」
「マジラの……ザリンダ……」
「ザリンダだと!!!」
――――――――――
(まずいな……)
「ガンビ殿、ザリンダ某は知り合いか?」
儂は隣に立つガンビに小声で話し掛けた。もう少し大人しくしているつもりだったが……時間が無いかもしれん。
「ザリンダってのは本島に縄張りヲ持つ里長の一人でヤス。ウチラとは商売ガタキデ……グレゴの母親でもアリヤス」
やはりか……なら……
「本島までの往復に必要な時間は??」
儂の“質問の意図”にガンビも気付いたのか……みるみる顔色が変わった。
「風にもヨリヤスが……行きハ半日、帰りはそのハンブンって所で……」
なら……かなりギリギリだ。
「リナリオ……おそらく奴等はもう一度来るぞ」
「??」
「そのザリンダ某とあんた達の詳しい関係は儂には分からんが……君が昨日狙われたのは、死に絶えた里の生き残りで、里長の娘である君を取り込むつもりだったからだ。つまり……奴等はこの里を滅ぼして、あんた達が持っていた縄張りを合法的に奪うつもりだ」
――――――――――
多分、儂の考えは大きく外れてはいないはずだ。もし、ただ集落が皆殺しにされたとしたら……当然残った縄張りは近い集落が争う事になるだろう。島長の合議が力を持つ土地柄なら下手人の追求もあるかも知れない。
だが……死体の痕跡が明らかに自分達が手を出しにくい存在を示していたら……? そして、正当な縄張りの権利を主張出来る相続者が生き残っていたら?
正当な相続人である彼女の身柄を抑え、彼女と養子縁組(そういう制度があるかは知らないが)をするか、それともグレゴと無理やり結婚させるか(昨日のグレゴの態度からそっちの可能性の方が高いだろうが)すれば、実態はどうあれ体裁は整う。で、あれば……
「リナリオ……あんたは決めなきゃならん。奴等がこの里を皆殺しにしたのはおそらく昨日の夜だ。つまり、島に帰るまでグレゴが失敗したのを知らない。そして、失敗を知ったならもう一度あんたを抑えに戻って来る可能性が高い! しかも……昨日よりさらに多い船と人間でだ」
彼女の目に驚きと……僅かな恐怖が灯る。しかも、それと同時に彼女の握る手から力が……抜けた……
「エミリオが死んだ……」
彼女に島の事を告げた事に安堵したのか……エミリオ少年は息を引き取った。だが、その姿を見た彼女の眼には、恐怖より力が込もり……儂の目を真っ直ぐに見返し言葉を紡いだ。
「もしソウナラ……戦う! こんなマネをサレテ黙って従うクライなら、死んデモ奴等の喉を食い千切ってやヤル!!」
(そうか……ならば!)
儂も……覚悟を決めねばならん。
「分かった……だが、その為には一度ここを離れて体制を整えねばならん。犬死には望む所では無いだろう??」
儂の言葉は……彼女の覚悟には反しているかも知れない。だが、世の中の大半の事は命を掛けたから成るという物では無い。それに、彼女の判断には儂の命も掛かっている。
「儂は一度は死んだ身だが……たまたま拾った命でも、そんな外道にくれてやるほどお人好しじゃない。あんたらが儂の知りたい事を教えてくれるなら……儂も出来る働きをもって恩を返す」
――――――――――
里の皆殺しを知った後、儂の提案を受け入れた彼女の行動は素早かった。正直なところ、彼女達の船で夜の海に漕ぎ出すのはかなり危険な行為だったが、これは天が味方したのか……丁度今夜は満月であり、遮る者の無い海上はかなり視界が通った。
「運がイイノカ……今夜は波も凪いでいる。この風ナラ奴等の船よりもアッシラの船の方が有利デサ。漕手はチットばかしクタビレテヤスが……あとハ星を頼りにすれば……」
ガンビの説明ならば……リナリオの叔母が嫁いだ島長が近海の島に住んでいるらしく、とりあえずはそこに向かうという。
「叔母ならキット力になってクレル。カノーをマキコンデ悪いガ」
「いいさ……正しく“乗りかかった船”って奴だ」
話を聞けば……彼女の叔母の夫にあたる人物は、彼女の父とも懇意でザリンダの持つ勢力にも負けはしない程だという……だが、
(もし……死んだエミリオが言っていた“西の者”が外の勢力だとしたら……)
「油断は出来んな……」
――――――――――
「ちっ……も抜けの空だよ。全く……これだから博打は嫌いなのさ」
「ふっ……そう言うなザリンダ殿。それに、ここの様子を見れば、島の方に来たのは無駄でも無いさ」
ちっ……そんな事は分かってるさ。ほんの数体だが、昨日死体があった場所から動かされた跡がある。
「確かに……あんたの言いたい事は分かるさ! この有様ならリナリオ達が一度こっちに戻って来たのは間違い無い。なら……当たりは息子の方だろう」
西の航路から来た……商船団の船長を名乗るロービルは“ニャリ”と笑っただけだった。何度見てもコイツラのニヤけ顔は気に入らない。私だって人に言えた義理じゃないが……コイツラは根っからの悪党だ。いや、悪党が聞いたら気分を悪くするかも知れない……『そんな外道共と一緒にするな!』と……
「心配無い。フェルナン達がこの仕事から降りた事は残念だが、グレゴ君と共に“娘の叔母の住む島への航路”を見張りに行った奴等は……俺達に負けない腕っこきだ。アンタの望みはきっと叶えられるさ!」
もしも……もしも気に入ってもらえたなら……
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