序章……③ 火の玉(サンテルモ)
「?? 何の音だ?」
― ………ブチッ ―
「危ない!!」
俺は何かに気付いた部下に引き倒され、甲板に転がった。次の瞬間……
― ビュンッ ―
俺の頭があった空間を千切れた動索(帆をコントロールする縄)が薙いで行った??
「船長?! 怪我は??」
「問題ねぇ……それより、何で動索が切れた?? サッサと張り直せ!!」
船の最も大きな帆を操る為の動索だぞ?? 点検は欠かさないし簡単に切れる筈がない!
「船長!! あれを!!」
今度は別の部下が右舷を指差し……俺はやっと異変に気付いた。
「どうして奴等の船が動いてやがる?? 荷を頂いたら火を掛けろと言った筈だぞ!」
繋いでおいた筈の水夫と奴隷共が逃げ出したか?? だが……奴等の船は逃げるのではなく、微速だがこっちに向かって来てる?
(まさか?? この女を取り返すつもりか?)
いや……奴等がどんなつもりかは知らないが、奴等の数と装備を考えればそんな事は不可能だ。一体何のつもりで? それに……こっちは既に目的の女を捕まえて、ついでに積荷も頂いたんだ。もし近づかれても……それこそ火矢でも掛けてやれば奴等に打つ手は無い。
俺が奴等の思惑が読めずにいる間に、喫水ギリギリの暗礁を縫って来た奴等の船が……止まった。
「……いくらガレー(オールと帆を併用する船のこと)と言えど、自在に操るには相当の熟練と潮目を読む経験が必要だ。なるほど……なかなかの腕だが……」
奴等の船は……こちらの矢の届かないギリギリで止まった。弩なら届くだろうが……あれは照準に時間がかかるし、船に据え付けてあるから精密射撃には向かない。さりとて、こっちから近づこうにも水深が浅すぎる……何より、奴等の狙いが一向にわからない。正直、動索が切れた事も含めて嫌な予感しかしない。
「船長!! 奴等の船からボートが……ありゃあ火付けに残ってたカミロだ。なんてこった……カミロの野郎血だらけだ! おかしいぞ……もう一人はブルノじゃねえ!! ありゃあ……縛り付けといた奴等の舵取りだ!!」
「……面白い。縄ばしごを下ろしてやれ」
――――――――――
「ぷぅ……お嬢、無事ですかい??」
ボートから上がって来たのは……かなり年嵩のベテラン水夫だった。舵取りを任されている事を考えれば、船の副長……ってところか。
「ガンビ! 何で逃げねぇ!! このバカ野郎が!! あたしなら平気だ……暫くは殺されやしねぇ……ムグゥッ……」
なるほど……健気なお嬢ちゃんだが……勝手に喋るのは赦さねぇ。俺の目配せを受けた部下の一人が、さっと女に猿轡を噛ませる。
「そうは言いやすがねぇ……そういう訳にもいかんでしょう」
「おっと……そこまでにしてもらおうか熟練の船乗り殿。状況は分かっているだろうに……何故、拾った命を捨てる様な真似をする?? 一人で乗りこんで来たとしてもどうにもなるまいに?」
俺の疑問に……舵取りは渋い顔をした。
「いやね、あっしも海の暮らしは長いし……こんな時は“お嬢を見捨ててでも族長の所に逃げるべきだ!”と思ったんですがね……どうにもそれは許して貰えないみたいなんでさ……」
「ほう……誰に……いや……よそう、今はあの船に誰が居ようと関係無い。それより……もう一度聞こう。何故熟練の船乗り殿はここに来たのか?」
「……交渉でさ」
「この状況でか??」
なかなか嗤わせるじゃないか。
「あっしもそう思うんでやすがねぇ……悪霊があっしに命じるんでさ。まあ、何を言ってんのか分かりゃしねぇでしょうが……あっしは言えと言われた事を伝えやすぜ……ンン……『今すぐ女と荷を置いて帰れ。そうすれば命だけは助けてやる』だそうで……」
??? このジジイ……おかしいのか??
「ほう……そりゃあ、お優しい事で……有り難くって涙が出るな」
俺は腰のサーベルを抜いて男に向けた。俺の後ろじゃ女がジタバタしながらウーウー唸ってやがるが……知った事か。俺の前で舐めた真似する奴が悪い。
「これが最後だ。お前は何をしに来たんだ?」
「……はぁ……だから無理だって言ったのに。しゃぁないですな。本当に……大丈夫なんでしょうね……」
舵取りは……何をとちくるったのか、空に向けて左腕を上げ……右手の人差し指を俺のサーベルに向けた。そして……
「バン!」
― パァァーンッ ―
― バキン!! ―
奴が呟くと同時に……俺のサーベルが粉々に砕け散った???
「おっと……どちらさんも動かねぇで下せぇ。あんまり近くで騒ぐから……ウチの船に乗り移った悪霊殿はどうやらご立腹らしいんで。もし機嫌をそこねる様な真似をしたら、使役してる火の玉に全員の頭を爆ぜさせるそうなんでさ」
――――――――――
「……?!?!」
(何が起こった!?)
俺の額から冷たい汗が流れる。右手には柄だけが残ったサーベルがある……という事は、今起こった事は夢でも幻でもない。
「野郎!! 何をしやがった!!」
俺が動けねぇのを見て……手下の一人がサーベルに手を掛けた。その瞬間……俺の身体に怖気が走った!
「おい! ヤメ……」
― パァァーンッ ―
「ガ…ァ…!?」
またも生木が弾ける様な音が響き……手下はサーベルを抜きかけたまま……頭の後ろから中身をぶち撒けて倒れた?!
「だから言ったでがしょう……」
これは……まさか?? さっき動索が千切れたのも?? それに……今、音がした瞬間、確かに奴等のマストの上で何かが光った?!
「おい……ありゃあ何だ?? もしかして火縄銃か? どうしてお前らがそんなもん……」
俺は冷汗をたらしながら舵取りに問いただした。
「……悪霊のやることですぜ……あっしにも分かりゃしませんよ」
(確かに……陸ならいざしらず海の上で……しかも船の上でも一番揺れるマストの上から……あんな精密に狙える筈ねぇ。しかも……早すぎる!!)
銃は……最近本国の軍隊にチラホラ導入が進んでる武器だ。元々は軍艦に載ってる大砲の技術が小型化していった物らしい。実を言えばこの船にも一丁あるが……海の上じゃとても使える代物じゃなかった。
(そうだ……あれがもし銃だとしても……火縄銃とは射程も威力も……再装填までの速さも違い過ぎる!!)
「船長さん……あっしらは元々ただの行商船だ。あんたら海賊とは当然相容れない関係だが……あんた人種からしたら西方の人間でやしょう? こっちだってあんたらを皆殺しにして西方船団と揉めたい訳でもねぇ。ココは一つ……器のデカい所を見せちゃ貰えませんかね?」
俺は……攫った女とグレゴの奴を見て……決断する。
「荷はどうする?」
老齢の水夫は、俺の短い返答にホッとした顔を見せつつ……
「当然返して貰いますぜ。ただ……あんたらにまたウチの船を荒らされるのはゴメンだ。とりあえず荷を運んでたボートに載せて貰いやしょうか。なに……船長さんは舷側に立って指示だけ出して下さいや、後の事はこっちでやっときやす」
つまり……荷が返却されないと俺の命を返す気もないってこったな。
「分かった……」
「船長!!!」
俺の周りの手下が騒ぐが……
「黙れ!! 俺の判断か気に入らねぇなら今すぐ船を降りろ!!」
「いい貫目だ……大丈夫だ船長殿、あんたが大人しくしてる内は心配いらねぇ。それと……ジョーーーフ!!! 居るだろうが!! 出てこいや!!」
突然……舵取りは船中に響き渡る大音声で元奴隷頭の名を読んだ。
「いい声だ。船じゃ指示が通らなきゃ何もできねぇからな。船乗りの声はデカいに限る」
「へぇ、まったくで……オラっ出てこいコラ!!」
「ひぃー……助けてくれ!! 頼む!!」
なんと……指示もしてねぇのに裏切り者の奴隷頭が縛られて出て来た。やっぱり……ウチの奴等にも嫌われてたんだな。
「おう……てめぇは今すぐサメの餌にしてえとこだが……とりあえず荷と一緒に船には載せてやる。ただ……俺が思うに、今サメの餌になってた方がマシだと思うがな」
「……ヒッ……」
― ドタンッ ―
チッ……ビビリ過ぎて気を失いやがった。改てカスだなコイツ。
「さあ……お嬢を離して貰いましょうか……それと……グレゴ!!!」
「ヒイッ」
不味い……コイツまで掻っ攫われたら……!?
「待ってくれ熟練の船乗り殿!」
俺は……ヤバい事だとは分かってたが一歩前に出た。ここが死線だってのは重々承知だが……死線に踏み込むのが俺の仕事だ。
「あっしの名はガンビでさ……」
「ガンビ殿……虫のいい話だが………」
「おっと……心配無用ですぜ船長殿」
「………??」
何だ?? 何を考えてやがる??
「グレゴォ!! てめぇのやった事は分かってやがんな?? ……これからウチの島とてめぇの里は戦だ。なら、てめぇも当然サメの餌だがよ……そこの船長が筋を通すってんなら返してやらん事もねぇ……」
「どっどっどっ……どうしろって……んだ?」
「……しっかり喋りやがれ。そんな肝っ玉だからお嬢に相手にされねぇんだ!! こっちの言い分は一つ! これから始まるウチの島との戦で……そこの船長さん…」
「フェルナンだ」
ガンビ殿は……ニヤッと笑って言葉を続けた。
「そこのフェルナン船長に戦の助っ人を頼むな。てめぇが始めたこった。けつくれぇはてめぇで拭きな!!」
おうおう……こりゃあ役者が違うわ。
「承った!! 偉大な船乗り……“悪霊の友”ガンビ殿に誓おう。俺達“フェルナン海侠団”はこの戦に感知しねぇ!!」
もしも……もしも気に入ってもらえたなら……
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