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序章……① 悪霊島

作中序盤に書かれた日本の情勢と「布引丸事件」は、ほぼ実際の史実を抜粋しておりますが……この物語はファンタジーです(*´ω`*)

 時は西暦1899年。


 日本は徳川の世から明治大帝の御代に移り早32年が経過していた。


 開国した日本は、度重なる艱難辛苦に晒されながらも波乱の治世をくぐり抜け、徐々に国際社会でその存在感を増しつつ在る時代……


 おりしも四年前……朝鮮半島の利権をめぐって隣国である清との戦争が勃発。辛うじて勝った物の……不凍港を求める大国ロシアが主導した“三国干渉”に抗えず、獲得した権益を放棄するに至り……識者達の間では“もはやロシアとの開戦は秒読み”と目されていた。


 そんな亜細亜の情勢が濃い緊迫感をはらむ……“戦争の狭間”の時代。


 東南アジアに位置する海洋国家フィリピンでは……


 マゼラン殺害事件から三百年あまり続くスペインの植民地支配……その開放を目指す機運が高まっていた。フィリピン各地から解放を目指して集まる人材と資金……だがスペインの力は大きく、決定打に掛ける解放勢力。そんな情勢のおり……


 解放勢力は同じくスペインと争っていたアメリカ合衆国から『自分達に味方するなら植民地支配の開放を約束する』との密約を受ける。


 植民地からの開放を目指す勢力はその言葉を信じて血を流し、スペイン艦隊の後背を撃つ事を選択。見事に逆激を成し遂げたのだが……アメリカは開放の約束を反故にし、逆に新たな支配体制を敷くに至る。


『最早甘言を弄す者は、誰一人信じるに価せん!』


 怒り心頭のフィリピンの民は裏切ったアメリカを相手に新たな独立戦争に向った。だが国力の違いは如何ともし難く、彼等の代表は同じく亜細亜圏に欧米が進出することを良く思わない日本に支援を要請するが……


 政府は表立って支援することが出来ない。


 ロシアとの戦争が不可避である日本にとってアメリカの有形無形の援助は不可欠だったからだ。


 だが……フィリピンの使者達は諦めなかった。あらゆる伝手を辿り、利を説き、信を求め、情に訴えた結果、僅かな志士たちが民間の立場から密かにフィリピン独立を支援することが決まる。


 そして……紆余曲折の末、偽装艦『布引丸』は義勇兵40名と弾薬500万発を搭載し、1899年7月……長崎からフィリピンに向けて出港した。


 これが、後世に『布引丸事件』として伝わる密輸事件の背景と概略である。


 後世、記録として残された資料には……


『1899年7月21日 東シナ海寧波沖に発生した暴風雨により布引丸は敢え無く沈没。乗員の約半数18名、及び船長は500万発の弾薬と僅かな装備品と共に海の藻屑となった』……と伝わる


 だが歴史には……


 常に記されぬ行間が存在する……


――――――――――


「お嬢! もう帆が保たねぇよ!!!」


“キンッ”


「ヒィッ!! お嬢〜〜!!」 


 次々と飛んでくる矢の一発がジョフのハゲ頭に弾かれ……? 舷側から海に落ちて沈んでいった。


 よく見たらコイツ……どっから持ち出したのか鍋なんざ被ってやがる。まったく情けねぇ……


「それでもブリム一家の奴隷頭かっ!! 情けない!! それとも泣き言あげてりゃ裂けた帆が直るってのかい? 船足が足りなけりゃとっとと櫂なり板なり持って漕ぎ手に加わりな!! このウスノロが!」


「ひぃー!!」


 あたしはジョフの被ってる鍋を無理やり引っ剥がし、ケツを蹴って櫂口が空いてる舷側にぶっ飛ばした。上を見上げれば帆には、矢が開けた裂け目がどんどん広がっていってる。


 落ちた船足のせいでグングン迫ってくるのは……クソっ……ありゃヤソン島の島長(しまおさ)の息子か。


「あのテングザルめ! オレに振られた腹いせに襲って来やがったか……」


 クソっ……帆はもう殆ど風を受けてもなびくだけのボロキレと変わらない。今も総出で櫂を漕いでるが捕まるのも時間の問題だ。このまま捕まれば積荷の略奪だけで済む……筈もねぇ。奴等間違い無く()()()()の素性が分かった上で襲ってやがる。まず間違い無く船員は皆殺し、積荷は持ってかれて……あたしはいいトコあのテングザルの情婦。下手すりゃ娼館に売り飛ばされる。


「ヤロウ……舐めんなよ。絶対にタダじゃやられねぇ……どっちみち助からねぇなら、てめぇらも全員道連れにしてやらぁ!! ガンビ!! 取舵一杯!! 舳先を“悪霊島”に向けろ!!」


「マッ……マジっすか?! お嬢?? あっちにゃ……?!」


 舵持ちのベテラン水夫が……あたしの思惑に気付いて顔色を青くしている。


「冗談言ってる様に見えんのか?? さっさと舳先を回せ!!」


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