第九十七話 行き詰まる修行
アーテルの教えに手応えを感じつつも、アドウェルサの復活までに間に合うか焦りを感じるアルクス。
そんな折、アルクスに妙案が閃き……?
どうぞお楽しみください。
「うーん……」
「どうしたアルクス」
「とりあえず魔吸石十個に虹の初級回復魔法を付与してみましたけど、これちょっとしか入らないですね」
「あー、そっか。いつもの付与の八倍だからなー。大きめのでもそうそう入らないかー。使ってもせいぜい半年分若返るくらいか?」
「なので、あんまり練習にならないと言うか……」
虹の初級回復魔法を注ぎ込む感覚は、だいぶわかってきた。
でも安定させるための練習と考えると、ぶれる前に一杯になっちゃうのは困る……。
もっと長い時間注がないと……。
! そうだ!
「あの、虹の初級回復魔法を先生にかけるのはどうですか!? そしたら」
「あー、それはやめといた方がいいなー。『後払いの仮面』の中の俺の魔力を中和されたら元も子もない」
「そっか……。そうですよね……」
もしできたら、アドウェルサに魔法を撃っても、先生に戻る五百年分の時間を中和できると思ったのに……。
「まぁこの魔吸石だけでも貴族や金持ち相手に売り出せば大儲けだろ。毎日牛肉生活が待ってるぞー」
「わ、私はそんなの……」
いらない、とは言えないけど、一人で牛肉を食べるくらいなら、先生と一緒に食べる煮豆定食の方が美味しいと思う。
あぁ、わかってくれないかなぁ……。
! そうだ!
「先生! ちょっと街に行きませんか!?」
「お? 何だ急に。まぁ気分転換は必要だし、構わないけどなー」
「じゃあブルブスさんに話をして、行きましょう!」
「おー、わかった」
街を観光しながら美味しいものを食べて、「もう少し生きてみようかな……」って思ってくれたら、きっと先生を助けるのに役立つはず!
急いでブルブスさんに相談して……!
「おや、アルクスさん」
扉を開けたらブルブスさんがいた!
「あ、ブルブスさん! ちょうどよかった!」
「私に何かご用でしたか?」
「はい! ちょっと街を観光してきたいんですけど、いいですか?」
「街を観光……」
あれ? 何か考え込んでる?
あ、私が先生を助たいって言ったのに、遊んでる暇なんてあるのか、とか思ってるのかな……?
でもこれは必要な事で……!
「わかりました。私も同行させていただきます」
「え、いいんですか?」
「勿論です。陛下からお二人のおもてなしをするようにと仰せつかっておりますから」
「そ、そんな! ブルブスさん、『王国の盾』だから忙しいんじゃ……。私達の観光に付き添ってもらうなんて……」
「ははは、何を仰る。アドウェルサから世界を救うアーテル様と、魔吸石で冒険者や救護院での生存率を高めたアルクスさん。お二人のおもてなしはむしろ名誉です」
「そ、そんな……!」
それなら全部先生のおかげ……。
……いや、変に卑屈になるのは駄目だって、先生が言ってくれた。
私は私のした事をちゃんと認めないと。
「……ありがとう、ございます。じゃあお願いします!」
「わかりました。では支度をしてお待ちください。料理人達に今日の昼食は不要と伝えて来ますので」
「あ……! ご、ごめんなさい! 急にこんな事言って……!」
「いえいえ、一週間部屋にこもっていたアルクスさんが街に出たいと言ってくださった事は、心から嬉しく思います」
「す、すみません、ご心配をおかけして……」
「ただそれを聞いた料理人が少々張り切っていたので、その情熱は夕食に向けさせます」
「あうぅ……」
そ、そうだよね……。
私、この一週間「ご飯は煮豆一皿とお水だけください」って言って、ずっとこもってたもんね……。
国王様から「おもてなしをしなさい」って言われてた人からしたら、やきもきするよね……。
そして、さぁ部屋から出たから美味しいご飯を作ろう!って思ってくれた矢先に、街で観光と食べ歩き……。
あああごめんなさい!
「あの、夕食は、楽しみにしてます……!」
「……ふふっ、料理人が喜びます」
ふわっと笑ったブルブスさんが、お辞儀をすると階段を降りて行った。
先生に乙女心がわかってないと怒った私だけど、私ももっと人の気持ちを考えられるようにならないとなぁ……。
「お、どうだったアルクス?」
「……あ、あの、ブルブスさんが案内してくれるみたいです……」
「そっか。じゃ支度しとくかー」
「……はい」
先生のおかげで助けられた人達。
先生のおかげでもらえた優しさ。
私はどうやって返したらいいんだろう……。
先生に言ったら「ばーか、気にすんな」とか言われそうだけど……。
「アルクス。お前もっと楽に考えろ」
「へぁ!?」
急に頭を撫でないで!
気持ちが、その、落ち着かないから!
「世の中は複雑なようでいて単純だ。優しくしてくれた人に優しくしたくなる。程度の差はあってもそれは自然な事だ」
「……」
それは私とブルブスさんの事?
……それとも先生と私の事……?
「お前は心から人を助けたいと思って行動してきた。それに心から応えたいと思う人がいたっておかしい事じゃない」
「……」
「だからお前はお前を大事にしてくれる人の思いを、ありのまま受け入れれば良い」
「ありのまま……」
それは先生に一番感じてほしい事なのに……。
「さ、着替えて支度するぞー」
「……はい」
胸の中にぐるぐる回る気持ちが何なのかわからないまま、私は先生が出て行った部屋の中で、侍女さんの用意してくれた綺麗な服に袖を通すのだった……。
読了ありがとうございます。
ぶっちゃけ国賓だからね。仕方ないね。
次回もよろしくお願いいたします。




