第九十五話 詰まる思い
アーテルを助けるべく、虹の初級回復魔法の制御に必死になるアルクス。
しかしその難易度は想像以上に高く……。
どうぞお楽しみください。
「うぅー! また失敗したー!」
虹の初級回復魔法が砕けた手のひらを見ながら、私は寝台に仰向けに倒れた。
お客さん用の部屋の寝台はふかふかだけど、全然気分は軽くならない。
もう一週間経っちゃった……。
アドウェルサの復活まで、残り三週間……。
その時までに虹の初級回復魔法を完全に制御できるようにして、魔力と共に先生に戻ってくる五百年分の時間を打ち消せなければ、先生は……!
「……もう一回!」
弱気になってる場合じゃない!
勢いよく起き上がると、もう一度初級回復魔法を展開する。
何も付与してない初級回復魔法の上に、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の付与を乗せていく。
……手のひらの上に置いたお盆の上に、形も重さも違う水の入った器を乗せて、それをずっと動かさないようにする感じ……。
これを意識しないで維持できるくらいにならないと……。
「……ぅ……」
……一瞬でも魔力の制御がぶれると、そのぶれは揺れとなって全体に広がる……!
立て直そうと力を入れると、またそれが新たな揺れを生んで……!
「……まだ……!」
……大丈夫。立て直せた。
だいぶ慣れてきてる……。
今なら国王様の病気も、悪いところだけ治せそう……!
でも先生の五百年の時間って、どれくらいかけ続けなきゃいけないんだろう……。
一気に入れたら、先生は赤ちゃんを通り越しちゃうだろうし、少なすぎたらおじいさんになって死んじゃうだろうし……。
何かもっと大きく変えないと無理なのかな……。
でもこれ以外に虹の初級回復魔法を維持する手はないし……。
「あぁっ!」
崩れちゃった!
前よりは長く維持できてはいるけど、全然時間は短い。
こんなんじゃ先生を助けるなんて……。
いや、弱音を吐いてちゃ駄目だ!
まだ三週間ある!
諦めたら先生とお別れしないといけなくなる!
それだけは駄目!
「……失礼します、アルクスさん、いらっしゃいますか?」
「……ブルブスさん?」
何だろう?
今は練習に集中したいんだけどな……。
「……はい」
「……あの、侍女からアルクスさんが部屋にこもりっきりだと聞きまして……。食事や水も最低限しかとっていないと……」
「……はい。練習に集中してますので……」
「しかし、その、あまり根を詰めすぎると、先にアルクスさんが倒れてしまうのではと心配で……」
「……大丈夫です。絶対先生を助けますから……」
「アルクスさん……」
「……もういいですか? 練習に戻りたいので……」
……心配かけちゃってごめんなさい。
でも今は何よりも先生を助ける事に全てを注ぎたい。
それが終わったら、ちゃんと謝りますから……。
「おーいアルクスー」
! 先生!?
慌てて扉を開けると、
「うっわ、ひっどい顔だなー。何そんなに思い詰めてるんだよー」
「……先、生……!」
一週間ぶりに見る先生の顔……!
今まで毎日会ってたから、たった一週間でも懐かしく思える……!
「ったく、俺を助けようと頑張ってくれてる事自体は嬉しいけどよー、それでお前が潰れちゃったら元も子もないだろうが」
「でも、だって、先生……!」
「まぁ知り合いが近々死ぬって聞いたら、冷静でいられない気持ちもわかる。だが予告がないだけで、人は出会いと別れを繰り返していくものだ」
「……でも……!」
「だから俺が死ぬのを機に、お前にその覚悟を持たせようと思ったんだが……、若干刺激が強すぎたかなー」
「……!」
覚悟なんかできるはずない!
先生はルームスに騙された上に追放された私を助けてくれた!
たくさんの人を助ける力を持たせてくれた!
いっぱいいっぱい恩がある!
返しきれていないのに死んじゃうなんて……!
「アルクス」
「!」
頭に乗せられた温かい手……!
それだけで心の中の黒いもやもやが、少し溶けた気がする……。
「まだ手を離すにはちょっと早かったかなー。後三週間だが、お前の先生でいてやるよ」
「……先生!」
子ども扱いしないでほしいのに。
一人前って認められたいはずなのに。
その言葉が嬉しくて、私は……!
「だからとりあえず風呂。そして飯。お前、女としてよろしくない匂いしてるぞー?」
「ぴっ……!」
う、うわあああぁぁぁ!
ば、馬鹿馬鹿馬鹿!
先生の馬鹿!
何でそういう事言うかな!
女の子の気持ちっていうものを、もっとこう……!
「……アルクスさん、お風呂でしたら階段を降りて右です。侍女に準備させていますから」
「あ、ありがとうございますっ!」
ブルブスさんの言葉で更に顔を赤くしながら、私は部屋から飛び出した!
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい!
……でも先生の声と手の温かさが、私に足りなかった力を補ってくれている気がした……。
読了ありがとうございます。
フフス、この落ち着き、このデリカシーのなさこそアーテルよ……!
次回もよろしくお願いいたします。




