第九十四話 対立
アーテルがアドウェルサを倒すと死ぬ事を聞かされたアルクス。
納得のいかないアルクスは何とかアーテルを助ける道を探りますが……?
どうぞお楽しみください。
「せ、先生、死ぬって、ど、どういう事ですか……?」
「どういう事も何も、そりゃそうだろ。五百年分の魔力を受け取ったら、一緒に五百年分の歳を取るんだからな。死なない方がおかしいだろ」
「っ……!」
「まぁ魔力の方を先に受け取るようにしてあるから、アドウェルサはきっちり始末するからさー。それをねぎらう意味で、俺の墓、よろしく頼むぜー」
魔力を吸収して成長するっていうアドウェルサをやっつけるには、すごく強い力がいるのはわかる……。
そのために先生が五百年頑張ってきたのもわかる……。
でも、私は……!
「……嫌です! 先生が死ななくても何とかできる方法がきっとあるはずです!」
「そんなものはないんだよー」
「……先生!」
「よく考えてみろ。この五百年、アドウェルサの脅威の影響で、魔法に関する研究は暗に憚られるようになって、技術は衰退した」
「……そんな……! そんな、事は……」
「各国は魔法を魔術法術に分けて研究の幅を狭めたり、魔力持ちを管理したりして魔法の力を削いだ。ま、当然だ。第二第三のアドウェルサなんて勘弁だからなー」
「う……」
「魔吸石は屑石扱い。魔力かまどなんて日用品が遺物扱い。それでなお今この世界にアドウェルサを倒す手立てがあると思うか?」
「……でも、でも……!」
「当時の俺達が必死になって導き出した結論がこれだったんだ。急な話だから飲み込めないかもしれないが、否定はしないでほしいところだなー」
「……」
先生はずるい。
そんな事言われたら何も言えなくなっちゃう……。
「アルクス。アドウェルサを倒せば俺は死ぬ。だがアドウェルサを倒さなければお前達が死ぬ。だから俺の答えは決まっているのさ」
「先生……!」
「お前は『五百年も耐えて役目を果たしたのに死ぬなんて酷い!』って感じかもしれないけどな? この五百年、散々旅行して飲み食いして回ったんだぜー?」
「え?」
「もう世界中の贅沢は味わい尽くしてるからなー。もう今更死んだところで悔いも何もないんだぜー?」
「あ……」
それでアウラン食堂であれだけのご馳走を食べても落ち着いていたのね……。
「そんなわけで俺はこの人生に何の悔いもないけど、折角死ぬならお前の修行の役にくらい立ちたいと思ってなー」
「修、行……?」
「法術士であれはいつかは直面する『人の死』ってやつを、俺で体験しとけって事さー」
「……っ……!」
「アドウェルサを倒して世界を救う上に、弟子の修行もつける、いやー、俺って凄すぎじゃないかー?」
「そんなの……」
先生の命をもらってまでする修行なんて……!
……修行……。
そうだ!
私には虹の初級回復魔法がある!
それで先生を若返らせれば……!
「先生! 虹の初級回復魔法があります! これで若返れば……!」
「残念ながら無理だなー。虹の初級回復魔法は扱いが難しい。国王の治療の際にも失敗しただろ?」
「う……、それは……」
「別に気にする事じゃない。その内上手く制御できるようになるだろう。ただ一ヶ月じゃ無理だ。いずれできるようになれば良い」
「く……!」
私の頭にぽんと手を置く先生。
その優しさが、今は苦しい。
「わ、私は諦めません! 先生を助ける方法、きっと見つけて見せますから!」
「おー、楽しみにしてるぜー」
「ふんっ!」
腹が立って。
いたたまれなくて。
焦りに背中を押されて。
私は部屋を後にした。
何が何でも虹の初級回復魔法を制御して、先生を助けるんだ!
「あ、アルクスさん!」
「ブルブスさん!? 何で追いかけて……、あ!」
しまった!
先生の話に完全に意識を持っていかれてた!
国王様もいたのに、挨拶もしないで部屋を出てきちゃった……!
「ご、ごめんなさい! 今から国王様に謝りに……!」
「いえ、違います。陛下はお怒りになどなってはいません。『アルクスの助けをするように』と仰せつかりました」
「え……」
「ニグリオス様を助けたい、という気持ちは一緒との事です。なので食事や部屋の手配などはお任せいただき、法術の完成に勤しんでください」
「ありがとうございます……!」
優しい言葉に、心遣いに、涙が出そうになる……!
でも泣くのは今じゃない。
先生を助けて、その時に嬉し涙を流すんだ!
「では来客用の部屋がありますので、そこでじっくり練習をなさってください」
「わかりました!」
私は決意を新たに、ブルブスさんについて歩き出すのだった。
読了ありがとうございます。
アルクスは虹の初級回復魔法を自分のものにして、アーテルを救う事ができるのでしょうか?
次回から最終章です。
どうぞよろしくお願いいたします。




