表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/113

第九話 貰ったもの 返したいもの

救護院の院長、ウィンクトゥーラから何やら重たいものを受け取ったアルクス。

動揺したアルクスはアーテルを探しますが……?


どうぞお楽しみください。

「先生!」


 先生はいつも私が仕事を終える頃に、救護院の前に来てくれる。

 先生が普段何をしているのかとか、どこに住んでいるのかとか気になるところだけど、今はただただありがたい!


「おうアルクス。どうした血相を変えて」

「あ、あの、こ、ここ、これ……!」


 私が突き出した袋を、先生が覗き込む。


「ほー、随分な金だな。あ、救護院の給料か」

「そ、そうなんですけど……!」


 何で先生そんなに落ち着いてるんですか!?

 大金ですよ大金!


「何だ、持ちなれない金にびびってるのか?」

「だ、だってこんなお金、冒険者やってた時だってもらえませんでしたよ!?」

「まぁそれは雇い主の問題が多々あると思うが……」


 !?

 あわあわする私の頭を、先生が優しく撫でる!


「お前、毎日のように救護院に行って、病気の治療をしてるだろ? それに対する正当な評価だよ」

「そ、そうでしょうか……? 初級回復魔法が無制限に使えるのは『専魔の腕輪』のお陰ですし、『解毒』を付与できたのは先生のお陰ですし……」

「その得た力を人の為に使うと決めたのはアルクスだ。そして弛まず人を助け続けているのもアルクスだ。だからお前にはそれを受け取る資格がある」

「……」


 確かに救護院のお給料は、法術を使った回数に応じて支払われる。

 青の初級回復魔法の力で、ここ一ヶ月はこれまでにないくらいお仕事をさせてもらえた。

 でも今まで大した事ができなかったのに、いきなりこんな……。


「考えてもみろ。その身体だって魔法が使える事だって、お前を産んだ親あってのものだろう? 要はそれをどう使うかだ」

「……た、確かに……」

「それときちんと働いて得た金ってのは、相手からの感謝が形を変えたものだと思え。そう思えばありがたく受け取れるし、無駄には使わないだろう?」

「……はい……!」


 ……先生ってすごい。

 仮面で顔は見えないけど、声の感じとか若いのに、さらっと私の引っかかっていた気持ちを解いてくれた。

 お金は感謝の形、か……。

 そう思うと、受け取った時より重たく感じない。

 暖かささえ感じる気がする。

 あ! そうだ!


「あの、私、先生にお返しがしたいです!」

「は? 何だ急に」

「だって先生のお陰で青の初級回復魔法を使えるようになったのに、授業料とかそういうのお渡ししてないです!」

「いや、別に趣味みたいなものだから気にしなくても……」

「気になるんです! もっと色々な事を教えてもらいたいのに、貰いっぱなしじゃ嫌なんです!」

「……」


 黙って何か考えている先生。

 生意気、だったかな……。


「わかった。じゃあ飯でも奢ってもらおうか」

「……! はい!」

「ちなみにお前のお勧めの店とかある?」

「アウラン食堂が安くて量が多くて美味しいです!」

「よし、そこ行こう」

「あ、でももっと高級なところでも……」

「ま、それはもう少し先の楽しみにしておこうか」

「もう少し先の楽しみ、ですか……?」

「あぁ。青の初級回復魔法に慣れたら、次の付与に挑戦してみよう。体力や魔力の回復ができる初級回復魔法なんか覚えたら、給料跳ね上がるだろうしな」

「えっ!?」


 体力の回復に魔力の回復!?

 そんな法術聞いた事ない!


「先生! もっと沢山教えてください! 私頑張ります!」

「まぁ慌てなさんな。初級回復魔法を一年以上腐らず使い続けたお前なら、きっとどんな困難でも乗り越えられるだろうさ」

「はい!」


 先生の言葉は、暖かくて優しくて、希望に溢れている。

 あの辛かった日々も、先生に出会う為なら意味があったと思える。

 口元だけしか見えないけど優しく笑う先生に、私は目一杯の笑顔で応えたのだった。


「ちなみにそこのお店のおすすめって何かあるか?」

「はい! 煮豆です!」

「……肉とかは……?」

「そういえばここ数年口にしていませんでしたね」

「……肉、嫌い?」


 先生が眉をひそめる。

 はっ! そうか! 私の懐事情を気にして……!

 ふっふっふ、初めて他にする大金が懐にある私に、そんな心配は無用です!


「そうですよね! お返しですもの! ではお祝いの時にしか目にしない鶏肉をいただきましょう!」

「え、いや、それ一番安……、いや、うん、アルクスの給料増額のお祝いだもんな!」

「はい!」


 鶏肉を食べるなんて何年振りだろう……!

 いや! 先生へのお礼なんだから、浮き足立っちゃ駄目だ!

 あくまで冷静に!

 余裕を持って!


「ででででは、ととと鶏肉のお店に、ままままいりましょう!」

「……お、おう……」


 高級食に怖気付く先生を伴って、私は堂々とアウラン食堂の入口をくぐったのでした。

読了ありがとうございます。


アーテルは色々な意味で先生。


次話もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 鶏肉が高級食材…(´;ω;`) 肉そのものが口に出来ないよね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ