第九話 貰ったもの 返したいもの
救護院の院長、ウィンクトゥーラから何やら重たいものを受け取ったアルクス。
動揺したアルクスはアーテルを探しますが……?
どうぞお楽しみください。
「先生!」
先生はいつも私が仕事を終える頃に、救護院の前に来てくれる。
先生が普段何をしているのかとか、どこに住んでいるのかとか気になるところだけど、今はただただありがたい!
「おうアルクス。どうした血相を変えて」
「あ、あの、こ、ここ、これ……!」
私が突き出した袋を、先生が覗き込む。
「ほー、随分な金だな。あ、救護院の給料か」
「そ、そうなんですけど……!」
何で先生そんなに落ち着いてるんですか!?
大金ですよ大金!
「何だ、持ちなれない金にびびってるのか?」
「だ、だってこんなお金、冒険者やってた時だってもらえませんでしたよ!?」
「まぁそれは雇い主の問題が多々あると思うが……」
!?
あわあわする私の頭を、先生が優しく撫でる!
「お前、毎日のように救護院に行って、病気の治療をしてるだろ? それに対する正当な評価だよ」
「そ、そうでしょうか……? 初級回復魔法が無制限に使えるのは『専魔の腕輪』のお陰ですし、『解毒』を付与できたのは先生のお陰ですし……」
「その得た力を人の為に使うと決めたのはアルクスだ。そして弛まず人を助け続けているのもアルクスだ。だからお前にはそれを受け取る資格がある」
「……」
確かに救護院のお給料は、法術を使った回数に応じて支払われる。
青の初級回復魔法の力で、ここ一ヶ月はこれまでにないくらいお仕事をさせてもらえた。
でも今まで大した事ができなかったのに、いきなりこんな……。
「考えてもみろ。その身体だって魔法が使える事だって、お前を産んだ親あってのものだろう? 要はそれをどう使うかだ」
「……た、確かに……」
「それときちんと働いて得た金ってのは、相手からの感謝が形を変えたものだと思え。そう思えばありがたく受け取れるし、無駄には使わないだろう?」
「……はい……!」
……先生ってすごい。
仮面で顔は見えないけど、声の感じとか若いのに、さらっと私の引っかかっていた気持ちを解いてくれた。
お金は感謝の形、か……。
そう思うと、受け取った時より重たく感じない。
暖かささえ感じる気がする。
あ! そうだ!
「あの、私、先生にお返しがしたいです!」
「は? 何だ急に」
「だって先生のお陰で青の初級回復魔法を使えるようになったのに、授業料とかそういうのお渡ししてないです!」
「いや、別に趣味みたいなものだから気にしなくても……」
「気になるんです! もっと色々な事を教えてもらいたいのに、貰いっぱなしじゃ嫌なんです!」
「……」
黙って何か考えている先生。
生意気、だったかな……。
「わかった。じゃあ飯でも奢ってもらおうか」
「……! はい!」
「ちなみにお前のお勧めの店とかある?」
「アウラン食堂が安くて量が多くて美味しいです!」
「よし、そこ行こう」
「あ、でももっと高級なところでも……」
「ま、それはもう少し先の楽しみにしておこうか」
「もう少し先の楽しみ、ですか……?」
「あぁ。青の初級回復魔法に慣れたら、次の付与に挑戦してみよう。体力や魔力の回復ができる初級回復魔法なんか覚えたら、給料跳ね上がるだろうしな」
「えっ!?」
体力の回復に魔力の回復!?
そんな法術聞いた事ない!
「先生! もっと沢山教えてください! 私頑張ります!」
「まぁ慌てなさんな。初級回復魔法を一年以上腐らず使い続けたお前なら、きっとどんな困難でも乗り越えられるだろうさ」
「はい!」
先生の言葉は、暖かくて優しくて、希望に溢れている。
あの辛かった日々も、先生に出会う為なら意味があったと思える。
口元だけしか見えないけど優しく笑う先生に、私は目一杯の笑顔で応えたのだった。
「ちなみにそこのお店のおすすめって何かあるか?」
「はい! 煮豆です!」
「……肉とかは……?」
「そういえばここ数年口にしていませんでしたね」
「……肉、嫌い?」
先生が眉をひそめる。
はっ! そうか! 私の懐事情を気にして……!
ふっふっふ、初めて他にする大金が懐にある私に、そんな心配は無用です!
「そうですよね! お返しですもの! ではお祝いの時にしか目にしない鶏肉をいただきましょう!」
「え、いや、それ一番安……、いや、うん、アルクスの給料増額のお祝いだもんな!」
「はい!」
鶏肉を食べるなんて何年振りだろう……!
いや! 先生へのお礼なんだから、浮き足立っちゃ駄目だ!
あくまで冷静に!
余裕を持って!
「ででででは、ととと鶏肉のお店に、ままままいりましょう!」
「……お、おう……」
高級食に怖気付く先生を伴って、私は堂々とアウラン食堂の入口をくぐったのでした。
読了ありがとうございます。
アーテルは色々な意味で先生。
次話もよろしくお願いいたします。