第八十九話 難病との決戦
覚悟を決めて国王の部屋に通されるアルクス。
虹の初級回復魔法は上手く機能するのでしょうか……?
どうぞお楽しみください。
「失礼致します。法術士アルクス・チェレスティスを連れて参りました」
「通れ」
とても豪華な扉が開くと、薬の匂いが鼻をついた。
大きな寝台。
それを取り囲む白衣の人達。
そして中央に、苦しそうな息をするおじいさん。
あの人が国王様……。
「何だまだ小娘ではないか……」
「ブルブス様は何をお考えなのか……」
「我々への当てつけにしても、いささか……」
う、何か言われてる……。
先生の言ってた事、言い過ぎじゃないかも……。
治したら本当に大騒ぎになりそう……。
そうなったら、「みなさんのおかげですから!」って言って逃げよう、うん。
「私の左手を薬や儀式の補助なく再生させた事をもって証とし、国王陛下直々にお連れするようご指示があったはずでしたが、まだ何かご不満がありますか?」
「……」
ブルブスさんの言葉で、部屋は静まり返った。
「アルクスさん、失礼致しました」
「いえ、あの、だ、大丈夫です……」
むしろそんな厳しい言い方しなくても全然平気です!
場違いなのはわかってますし!
「……ブルブス……」
「陛下……! お待たせして申し訳ございません……!」
「良い……。苦労をかけた……。顔を見せてくれ……」
「……はっ」
弱々しい声に応えたブルブスさんが、私に目で合図を送る。
頷いてブルブスさんに続いて寝台の側に近寄った。
「……何じゃその目の隈は……。そなたももう若くはないのだから、眠れる時に眠っておけ……」
「陛下のお身体がこのような時に、臣下である我々が安穏と眠るなど……」
「馬鹿を申せ……。儂なぞ一日の半分以上、寝ておるぞ……。臣下なら、王たる儂を、見習うが良い……」
「お戯れを……」
弱々しいけど、しっかりと笑う国王様。
ご自分が一番苦しいだろうに、ブルブスさんの事を気遣って……。
「……して、その娘が……?」
「はっ。法術士アルクスです」
「は、初めましてっ! アルクス・チェレスティスですっ!」
あああ! お作法とか習っておけばよかった!
普通の自己紹介とか、失礼だったかな……?
「……うむ、儂がレクス・モナルカ・パクスである……。最近は、皆、儂の名前を忘れたようで……、陛下陛下と呼びおる……。たまにはこうして名乗らんとな……」
「え、えっと……」
「陛下。法術士アルクスをからかうのはおやめください」
「……ふふっ、忘れたかブルブス……。女性と仲良くなるにはまず笑いを取れ、と儂に教えたのはお主ではないか……」
「お、お忘れください……。昔の話にございます……」
……何だろう。
病気で苦しんでいる人の部屋のはずなのに、国王様が話すと何だか空気が和む……。
いい王様って話は聞いてたけど、本当だなぁ……。
「……すまんなアルクス。……聞いての通り、此奴とは古い仲でな……。この老いぼれに天国への先を越されまいと、あれこれしよる……」
「え、あ、はい……」
「……だが儂とて人の身……。どれ程手を尽くそうと、千年を生きる事など不可能だ……。故に何があろうと、此奴の悪あがきのせいと思え……」
「……国王様……」
……ポルポラさんが顔の治療をさせてくれた時みたいだ……。
私が気に病まないように、優しい言葉をかけてくれてる……。
絶対助けたい……!
「……では国王様、始めさせていただきます」
「……うむ」
手のひらに付与のない初級回復魔法。
その上に並べる、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の付与をつけた初級回復魔法を展開する。
「な、何だあの光は……?」
「法術……? しかし虹色に光る法術など聞いた事も……」
……う、やっぱり難しい……!
ちょっとでも気を抜くと崩れてしまいそう……!
でもこれには、私を呼んでくれたブルブスさん、手当をしていた人達、修行に付き合ってくれた先生、沢山の想いが込もってる……!
絶対に成功させる!
「……行きます!」
手のひらを国王様のお腹の辺りに当てる。
そのまま七色の付与を注ぎ込む!
「!」
感じる……!
お腹の中、それと身体のあちこちにある、黒い何か。
これが先生の言う、がん、ってやつかな……。
まずはお腹の大きな塊に虹の初級回復魔法を向ける。
すると黒い塊がじわじわと小さくなっていく。
消えてる? ……違う、元に戻ってるんだ。
初級回復魔法を通じて触れているとわかる。
この黒い塊は、元々身体の一部。
それがただ増えるだけのものに変化して、身体のちゃんとしたところを押しのけてしまっているんだ。
それが虹の初級回復魔法による若返りの効果で、元の身体の一部に戻っていく。
これなら……!
「あっ」
気を抜いたら、七色の付与が崩れちゃった!
落ち着いて、もう一回……!
「うぐ……」
「陛下!? 大丈夫ですか陛下!?」
あ! 戻り始めた塊が、また広がり始めた!
そうか! 虹の初級回復魔法をかけ続けている間は元に戻っていくけど、途切れたらその分の活力でまた広がっちゃうんだ!
もう失敗できない!
「貴様! 本当に治療しているのだろうな!」
「陛下に余計な苦しみを与えるなど許さんぞ!」
「陛下、今『鎮痛』の法術を……!」
うぅ! 邪魔しないで!
次に失敗したら、元の状態よりも広がっちゃう!
そしたら限界に近い国王様の身体は、もうもたないかも……!
「……さ、下がれ……!」
「陛下……!」
国王様が苦しそうな息をしながら、それでもにやりと笑った……!
「……ふふ、治る時というのは、痛みを伴うものだ……。それをいちいち咎めておっては、治るものも治らぬ……」
「国王様……」
「……アルクスよ。腹の中が軽くなる感覚、確かにあったぞ……。このまま頼む……」
「わ、わかりました!」
……次に失敗したらおしまいだ。
そして虹の初級回復魔法は一瞬でも気を抜いたら崩れちゃう……。
そして身体の中には、黒い塊がいくつもある……。
怖い……!
……でも!
「行きます!」
私は再び手のひらに虹色を集め、国王様のお腹へと触れた……!
読了ありがとうございます。
死の淵で周りを気遣えるキャラは本当に好き。
封◯演義の文王とか特に……。
次回もよろしくお願いいたします。




