第七十六話 その感情の名は
怒りの感情が湧かない事を肯定的に捉えられたアルクス。
アーテルにそれを話し、修行は先延ばしになるかと思いましたが……?
シリアス入ります。
どうぞお楽しみください。
「あ、先生!」
「おぉ、アルクス。お疲れさん。どうだ? うまい事怒れそうか?」
「それなんですけど先生……。私、すぐには無理そうです……」
「……そっか。何かお前はそんな感じがしてたよ」
う、呆れられちゃったかな……?
「簡単に怒れるような奴じゃ、説明もなく『専魔の腕輪』の理不尽さに耐えられるわけないもんな」
「わっ」
にやっと笑った先生は、私の頭を少し乱暴に撫でる。
……褒めてくれてる、のかな?
「まぁそのうち心底怒りを感じる事もあるだろう。その時に習得すればいいさ」
「え……?」
何もかもを壊したくなるほどに怒る事が、私の周りで起きるって事……?
「人生何が起きるかわからないからな。その時までちゃんと覚えてろよ?」
「も、勿論です!」
……よかったぁ。
先生の言葉は妙な説得力があるから、つい信じちゃいそうになるんだよね。
だからあんまり不穏な事は言わないでほしい。
「そうだ! 先生、ご飯食べに行きましょう!」
「ん? 何でだ? 黄の初級回復魔法の礼は、剣牙猪でもらったぞ?」
「たまにはいいじゃないですか! お礼とか関係なくご飯に行くのも!」
「ま、悪くはないな。で、牛か?」
「煮豆です!」
「だと思ったよ。んじゃ行くか」
「はい!」
楽しいご飯!
美味しいご飯!
アウラン食堂のご飯はいつも美味しいけど、先生とだともっと美味しい気がする!
何でだろ?
「あ、ここで俺が勝手に牛肉注文したら、アルクス怒れるんじゃないか?」
「なっ……! 駄目ですよ! そういう贅沢は付与を習得できた時で……!」
「必要な投資と割り切ろうじゃないか」
「駄目ったら駄目です!」
「お、その調子で怒ったらいけるんじゃないか?」
「もう! ふざけるのもいい加減にしてください!」
「そうだ」
え。
「……ぅ、ぐ……?」
「この僕を貶めた男が、軽薄に笑っているなんて許される事じゃない」
……先生の、胸から、剣……?
先生の後ろにいるのは……!
「ルームス!」
「様をつけたまえよ無礼者。まぁそんな態度を取れるのも今のうちだけどね。こいつが死んだ今、君を庇護するものは何もないんだから」
「……は?」
先生が、死んだ……?
そんなわけない!
剣を引き抜かれ、倒れた先生に駆け寄る!
「おや? 何をしている? 初級回復魔法しか使えない君に胸を貫かれた人間をどうにかできるとでも?」
緑の初級回復魔法ならまだ治せる!
先生! 先生! 先生!
「……う、そ……」
……魔力が、流れていく……。
……先生の身体に留まらないで、流れていく……。
……どうして……?
……そこの見えない穴に、水を流してるみたい……。
「無駄な事はしないでくれたまえよ」
「うっ!」
お腹に衝撃!
け、蹴られた……?
「僕に恥をかかせたその男は死に、君の拠り所も消えた。さぁ、泣いて許しを乞うと良い。奴隷のようになぁ! ひゃはははは!」
……視界が、歪む。
……身体が、震える。
……先生……。
『まぁそのうち心底怒りを感じる事もあるだろう』
……あぁ、これが怒りなんですね……。
……ウィンクトゥーラさんの言っていた意味が、痛いほどにわかる……。
……こんな感情、知りたくなかった……。
「何故立ち上がるんだい? そのまま這いつくばって詫びたまえよ」
夕日。
血。
怒り。
炎。
筋肉。
身体。
意思。
全てが染まる。
赤に、染まる。
『赤』
私はこの男を許さない。
読了ありがとうございます。
怒りで覚醒したアルクス。
アーテルの仇を討つ事はできるのでしょうか?
次回もよろしくお願いいたします。




