第七十四話 付与と怒りと
アーテルの過去について聞き出そうとしたものの、はぐらかされた形となったアルクス。
気持ちを切り替えて、新たな修行へと向かいますが……?
どうぞお楽しみください。
「さて、今回の付与は『筋力増強』だ」
「んぐふっ……。き、『筋力増強』、ですか……」
先生の言葉に、私は吹き出しそうになるのを必死にこらえる。
……駄目だ! 頭の中に筋肉むきむきのおじさんが、にっこり笑っている姿がちらついて離れない!
修行なんだから、ちゃんとしないと!
「これを覚えれば、冒険者の討伐はより円滑になるし、病気の治療にも役立つ」
「え、討伐はわかりますけど、病気の治療にも使えるんですか?」
「あぁ。戦闘系の付与だから『攻撃活性』も同時に付くんだ」
「『攻撃活性』……?」
それって戦う能力だよね?
病気の治療に役立つのかな?
「簡単に言えば好戦的になる付与なんだが、これが身体の中の病気と戦う機能にも影響する」
「……つまり病気をやっつける力も強くなる……? でも青の初級回復魔法でも治せますよね?」
「青の『病気治癒』は『解毒』の副産物だからな。寄生虫や癌なんかとは相性が悪い」
「きせい、ちゅう……? がん……?」
また聞きなれない病気の名前が……。
先生って本当に何者なんだろう……。
「ま、青の初級回復魔法で治せない病気に当たったら使ってみるくらいの考えでいい。んじゃやってみるか」
「はい!」
できる事が増えるなら、それに越した事はないよね!
さぁ、頑張って新しい付与を覚えよう!
「何をしたらいいですか?」
「まずは怒れ」
「は?」
「怒るんだよ。こう、何もかもぶっ壊してやりたいってなるくらいの怒りを高めるんだ」
「何言ってるんですか!?」
何をどうしたらそんな考えができるんですか!?
何もかもぶっ壊すとか、無理無理無理!
「簡単だろ? あの坊ちゃん貴族の顔でも思い出せば、腹立ってくるだろ?」
「そりゃ腹は立ちますけど……」
だからって何もかもを壊すなんて、八つ当たりにもほどがある!
ポルポラさんがぼこぼこにしてくれた事と、先生がルームスの剣がお坊ちゃん向け武器だったって明かしてくれた事で、だいぶ気持ちも晴れてるし……。
「うーん、これは計算外だったなぁ……。何か他にないか? これなら怒れる、ってやつ」
「そんな事言われても……」
普段からあんまり怒ったりしないしなぁ……。
ルームス以外だと、何があったっけ?
『え、十六歳!?』
『俺は早々に無理だって伝えてたのにな』
『実際他人事だしなー』
『……くくっ、いいじゃないかアルクス。もう十一歳って事にすれば……。くくっ……』
『わー、本当にやったよ……』
『振られた腹いせに仕事に没頭するアルクス、新たな付与を手に入れる、ってな』
……先生がらみばっかりなんですけど……?
でも先生が言うようなすごい怒りにはならないなぁ……。
むしろちょっと笑っちゃうの、何でだろ?
「駄目かぁ。まぁお前、悩みとかなさそうだもんな」
「し、失礼ですね! ありますよ悩みだって!」
「ほぉ、たとえば?」
「……えっと……」
もう少し背が伸びて、もう少し女の子らしい身体つきになりたい、なんて言ったら、先生絶対からかうだろうし……。
「も、もっとたくさんの人を助けるにはどうしたらいいかなー、なんて……」
「へぇ、お前もそんな事で悩むんだなー」
「え、えぇ……」
じゃ、若干失礼な事言われたけど、我慢我慢。
これでごまかせたんだから……。
「なんて事言って、本当は胸が平べったい事とか気にしてるんだろ?」
「んなっ!?」
わかってて私の嘘に乗っかったの!?
また私をからかって……!
しかも気にしてる胸の事を……!
「おー、いいぞー。その勢いで怒りを解放しろー」
「うぐぅ……」
……頭の中と顔は熱くなってるけど、先生の言う怒りとは何か違う……。
っていうか無理! このままここにいるのも無理!
「……先生、何か、無理っぽいので、今日は……」
「おー、わかった。んじゃ宿題なー」
「はい……」
こうして私は、初めて新たな付与の修行に失敗したのだった……。
読了ありがとうございます。
アルクス「いかりでも……、にくしみでもない……」
アーテル「では、なんだと……」
何でしょうね?
次回もよろしくお願いいたします。




