第七十二話 決意のアルクス
アーテルの過去を暴くべく、アウラン食堂に引き込んだアルクス。
美食と美酒で、秘密を聞き出す事はできるのでしょうか?
どうぞお楽しみください。
「はいよお待ち!」
「ほら先生見て見て! 美味しそうでしょ! 実際美味しいんです!」
「わかったから落ち着け。子どもじゃないんだからはしゃぐなって」
「こんな美味しいご飯を前に落ち着いていられる先生の方が大人すぎるんですよ!」
「仲良いねぇ」
女将さんがにこにこしながらお肉を切り分けてくれる。
あぁ! あの幸せな時間が再び……!
「さ、まずは塩で召し上がれ!」
「いただきます!」
「いただきます」
んんん! 美味しい!
お昼に食べたばかりの味なのに、感動が薄れない!
味わったばかりの私でもこの状態!
剣牙猪を美味しくないと思い込んでる先生には相当の衝撃だろう!
さぁ! 仮面でも隠し切れないほどのにこにこ顔になって、そのまま秘密も話しちゃいましょう!
「……ん、確かに美味いな」
何その地味な反応!
叫んだり泣いたりしてもいいんですよ!?
「成程な。昔とは栄養状態が変わったから、味も変わって然るべきか」
……ん?
昔?
それはもしかして、先生の秘密につながる事……!?
「あの、先生!」
「何だ?」
「その、前にも剣牙猪のお肉を食べた事があるんですか!?」
「あぁ、あるぞ。というか言っただろう? ぱさぱさしてて苦手だって」
しまった!
そう言えばさっき言ってた!
「しかしこれは確かに美味い。剣牙猪への印象を変えないとな」
「で、ですよね!」
よ、よーし!
このままの流れで先生の昔の話を……!
「そうか、今日はこれを狩りに行ってたんだな。お疲れさん」
「え!? あ、いえ、その、ポルポラさんとロセウスさんがぱぱぱってやっつけてて、私は全然何もしてなくて……」
「そんな事ないだろ。ぱぱぱってやっつけたって事は、お前の付与があっての事だろ? それはちゃんと誇れ。じゃないと付与に助けられた奴らを貶める事になる」
「そ、そうなんですか?」
「……あのなぁ。魔吸石を採掘してくれる奴らが、『自分達の掘った石は屑石です! 何の価値もありません!』って言ったら、お前どう思う?」
「そ、そんな事ないです! 魔吸石がなかったら私の付与は冒険者の人達に届かなくて……!」
あ……!
そうか……。
たとえその場で役に立たなくても、それまでの付与が役立っていたなら、それは私が頑張った事になるんだ……。
むしろ『付与したからもう私には関係ない』って言っちゃったら、そっちの方が無責任だよね……。
「わかったな? だから自分の仕事に胸を張れ。関わった人間の手柄まで横取りするようなのはまずいが、必要以上の謙遜も周りの人間を傷付けるからな」
「……はい!」
先生の教えてくれる事は、私の中にすとんと入る。
これからも先生からたくさんの事を学びたい……!
「アルクスちゃん! ほらこれ! もらったお酒だよ!」
「あ! ありがとうございます!」
「何だアルクス。酒なんかもらってたのか?」
「あ、はい! ポルポラさんがぜひ先生に飲んでほしいって!」
「……何でまた俺に……? まぁありがたくいただくけど……」
よ、よーし!
危うく忘れるところだったけど、私は先生の秘密をあばくために今日ここに来たんだった!
ポルポラさんからもらったお酒で、先生の隠し事を話させないと!
女将さんが剣牙猪のお肉を切り分けて、ソースをかけてくれてる!
お酒とソースがけ剣牙猪のお肉!
これなら流石の先生もひとたまりもないはず!
「はい、アルクスちゃんも!」
「え、あの、女将さん?」
「十六ならお酒を飲んでも大丈夫よ! 酔っ払ったらアーテルさんが送ってくれるだろうし?」
う、うーん……。
お酒なんか飲んだ事ないけど、大丈夫かな……?
でも先生だけに飲ませて、私は飲まないっていうのも
……。
「おい、無理するなよアルクス。酒なんてのは飲みたい奴が飲めばいいものだ。お前が飲みたくて飲みたくて仕方がないなら別だが、俺に合わせようとか思うなよ」
「……はい」
やっぱり先生には敵わないや……。
素直に器を女将さんに返す。
そうしたら女将さんがジュースの入った器を持って来てくれた。
「さて、じゃあ黄の初級回復魔法の習得を祝して、乾杯」
「か、乾杯……」
先生のお酒の器と、私のジュースの器が軽くぶつかる。
こうなれば、ポルポラさんがくれたお酒は、先生が一人で飲む事になる……?
そしたら酔っ払うよね!
よーし! 先生がお酒でふにゃふにゃになったら、今度こそ先生の昔の事、聞かせてもらうんだから!
読了ありがとうございます。
素面のアルクスは酒を口にしたアーテルに勝てるかどうか……。
次回もよろしくお願いいたします。




