第七話 現れた修行の成果
蛇に噛まれた患者を前にして、ざわめく救護院。
八方塞がりの中で命を託されたアルクスの運命は……。
どうぞお楽しみください。
「行きます!」
患者さんの肩から、青の初級回復魔法を流し込む……!
……わかる!
患者さんの中にある熱……!
これが今身体が毒と戦ってる部分なんだ……!
『解毒』の法術なら、これを分解する形に魔力を形作るって先生は言っていたけど、私にはそんな事はできない。
ただただ洗い流すように、法術をかけ続ける!
「う、うぅ……」
!
熱を持っている部分が移動を始めた!
一番熱を持っている右足から熱が離れて行くのと共に、腫れが引いてきている!
よし! このままどんどんかけ続ける!
「あ、あに、き……?」
「おお! 弟よ!」
頭の熱が引いた事で、意識も戻ったみたい!
良かった!
……で、今お腹に集まったこの熱は……。
「うおおおお!」
「ど、どうした弟よー!」
「は、腹がいてぇ……! 足の痛みは引いた……! 息苦しさもなくなった……! 頭痛も消えた……! だが、腹が、腹がいてぇよぉ! べ、便所……!」
「こ、こちらです!」
ウィンクトゥーラさんが扉を開けると、患者さんはものすごい勢いでお手洗いに飛び込んだ。
直後、凄まじ
『もっとこまめに丁寧に回復しろよ。この『身護りの剣』を振るう僕が、討伐の要だって事をわかっているのか?』
『おいおい、この料理は討伐のお礼と言っていただろう? そこに貢献していない君が手を付けるのは常識を疑うよ』
『はいこれ報酬。不満かい? 初級回復魔法しか使えないのだから、それが相応というものだろう』
……何故今ルームス様の顔と声が思い出されたんだろう……。
わからないけど、何かが私の中でしっくりきた。
あと、様付けするのももうやめよう。
「フーーー。スッとしたぜ」
「弟よ! もう大丈夫なのか!?」
「兄貴? そりゃもう全然……ってそうだ俺蛇に噛まれたのに! 助かったの俺!?」
「……な、何ともないんだな!?」
「あぁ! 何なら寝不足気味だった目まですっきりしてるぜー!」
「おおおぉぉぉ! 良かったあああぁぁぁ!」
お手洗いから出てきた患者さんに、お兄さんが抱きついて泣いてる。
……助けられて、良かった……。
「アルクス、よくやったな」
「先生……! ありがとうございます!」
お手洗いに駆け込むという副作用はあるけど、ちょっとした怪我しか治せなかった私が、人の役に立てるようになった……!
それだけで涙が出そうなほど嬉しい……!
「ありがとうアルクスちゃん! お陰で患者さんを助けられたわ!」
「私こそ、信じて任せてくださってありがとうございます!」
手を握りしめてくるウィンクトゥーラさん。
救護院の人達が私の事を『役立たず』『お荷物』と言うのから庇ってくれた。
落ち込んだ時に「アルクスちゃんがこんなに人の為に頑張りたいと思ってるんだもの。きっと神様が光をもたらしてくれるわ」と励ましてくれた。
全然私担当の患者さんがいなくてお金をもらえなかった日に、「他の人には内緒よ」と食堂のご飯券をくれた。
ルームスから追放されて、絶望の中にいた私に手を差し伸べてくれた人。
第二のお母さん……!
「アルクスちゃん……!」
「ウィンクトゥーラさん……!」
だ、抱きしめられちゃった……!
やばい、これ泣いちゃう……!
と思ったらぐりんと身体を回されて……!?
「それであなたは何なんですか!? アルクスちゃんに何をしたんですか!?」
「え、俺ですか……?」
あああ先生がめっちゃ警戒されてる!
そりゃ黒ずくめに仮面って、警戒されるよね……。
って納得してる場合じゃない!
ウィンクトゥーラさん! その人が私の光です!
「あの、この人は私の法術の先生なんです! 名前はアーテルって言って……」
「え、じゃあもしかして、アルクスちゃんに『解毒』を教えてくれた方ですか……?」
「どーもー。アーテルでーす。アルクスちゃんの先生やってまーす」
「……!」
一瞬緩んだウィンクトゥーラさんの抱きしめる力が強くなる!
何で敢えて胡散臭い自己紹介するんですか!
「うちのアルクスちゃんに何を教えたのですか! 『専魔の腕輪』で初級回復魔法しか使えなかったはずなのに、何をして……!」
「……。それは色々あれこれして……」
「!」
ウィンクトゥーラさん! 抱きしめる強さが半端ないです!
「アルクスちゃん!」
「はい!」
「弱みにつけ込んでくる人っていっぱいいるから、気を許しちゃ駄目よ!」
「あ、はぁ……」
それはそうですね!
ルームスとかまさにそうでしたし!
でも先生は違うんです!
あぁ、嬉しさとややこしさに、私は何を言っていいかわからなくなるのでした……。
読了ありがとうございます。
何でお手洗いの音とルームスとが重なったのかなー。
ふーしぎーだなー。
次話もよろしくお願いいたします。