第六十三話 初めての痛み
ロセウスに振られたという噂に辟易するアルクス。
そこにアーテルが噂を塗り替える事を提案して……?
どうぞお楽しみください。
「……っ! せん、せいっ……! 痛い……! 痛いです……!」
「少し我慢しろ。初めてってのは大体そんなもんだ」
「……で、でも……! こんなの……! 耐えられません……!」
「人によっては初めてでも少ししたら気持ち良くなるみたいだぞ?」
「そんな事……! ない、です……! 痛い、だけで……!」
「もう少し強くしたら早く馴染むかな?」
「だ、駄目です! そんなの、無理……!」
「少しの辛抱だ。行くぞ」
「やだ……! 先生……! もうやめて……!」
瞬間、私の身体を電流が貫いた!
「いやあああぁぁぁ!」
「んもう! 何なんですかこの修行は! 電撃の魔術を付与した魔吸石を握りしめさせるなんて!」
「だが習得できただろう? 『俊敏』と『鋭敏化』の付与」
「確かにできましたけど……」
他に方法はなかったのかと問い詰めたくもなる。
あんな痛い思いする必要ないと思うんだけど……。
「人間の身体の中にはごく弱い電撃が流れていて、それが身体を動かしたり様々な感覚を伝えたりする」
「そ、そうなんですか!?」
「だから『俊敏』と『鋭敏化』の付与を身に付けるには、電撃を浴びるのが一番早い。魔吸石なら握り方で強さも調整できるしなー」
一応理屈はわかった。
確かに黄の初級回復魔法も習得できた。
……でも……!
「先生はその電撃を通さない手袋を付けてるから、私がどれだけ痛かったかわかってないんですよ! 無理だって言ってるのに無理矢理握らせて……!」
「そりゃ俺が電撃を食らう必要はないからなー」
「生徒と痛みを共有するって心遣いはないんですか!?」
「んなもんあるわけないだろ。さ、とりあえず自分に使ってみろ」
「……はい」
釈然としないけど、まずは実践だ。
身体に黄の初級回復魔法を流して……。
「っ……。何かちょっとぴりぴりしますね……」
「よし、今から俺がこの魔吸石を投げる」
「ちょ、ちょっと待ってください! それさっきの電撃のやつですよね!?」
「そうだ。下手に受け止めると電撃を食らうぞー」
「やめてください! あれ本当に痛いんですから!」
「だったらふんわり受け止めろー。握らなきゃ発動しないんだからなー」
「う……、わ、わかりました……」
軽く投げてくれるんだよね……?
それをそっと受け止めたらいいんだよね……?
……先生……?
何で立ち上がって肩を回すの……?
「行くぞー」
ちょ! そんな振りかぶって上投げとか!
取れるわけないでしょ!?
避けないと!
……ってあれ?
先生の手から、魔吸石がゆっくり離れる。
まるで落ち葉が地面に向かうみたいに、私に向かってくる。
こんなの取るのなんて簡単!
私は余裕を持って、魔吸石を受け止めた。
電撃はなし! よかった!
なぁんだ先生、格好だけで、実は優しく投げてくれたんじゃ……。
……先生がまだ投げ終わった体勢のままだ。
片足でこんなにゆっくり動くなんて、普通無理だよね……?
……もしかして先生が思いっきり投げたのを、私がゆっくりに感じている……!?
これってすごい付与なんじゃ……!
あ、身体からぱちぱちが消えると同時に、先生の動きが元に戻った。
「っと。どうだ? 何もかもがゆっくり見えて、その中で普通に動けただろ?」
「は、はい! びっくりしました!」
「黄の初級回復魔法をかけた状態で集中すると、今みたいに周囲の動きを遅く感じるくらいに感覚が鋭くなる。そして身体はその中で普通に動ける。という事は?」
「実際はすごく速く動けるって事なんですね!?」
「そういう事だ。まぁその分身体への負担も多少あるから、こればっかり使うのも考えものだがなー」
「そうなんですね……!」
でも冒険者の人がこれで速い動きをできるようになったら、怪物なんか怖くないよね!
相手の攻撃は遅く見えるんだから、避けるのも簡単だし!
「ただ『俊敏』の最中に固いものにぶつかると、普通より大きな怪我をするから、そこは気を付けるように伝えろよー」
「わかりました!」
走って看板とかにぶつかると、歩いてぶつかるのより痛いのと一緒だね。
まぁ周りのものがゆっくり見えるんだから、そんなお間抜けな事にはならないと思うけど。
「これで急ぎの仕事をしなきゃならない奴とかで救護院も賑わうだろうし、つまらない噂もそのうち消えるだろ」
「あ……」
そう言えば元々はそういう話だった……。
先生はやっぱり私の事考えてくれてるんだなぁ……。
「振られた腹いせに仕事に没頭するアルクス、新たな付与を手に入れる、ってな」
「先生!」
「あっはっはっは! またなー」
あー! 逃げられた!
明日会ったら文句言ってやるんだからー!
読了ありがとうございます。
冒頭でR-18な事を考えた人。
正直に手を挙げなさい。
(=´∀`)人(´∀`=)ナカーマ!
次回もよろしくお願いいたします。




