第六十二話 あらぬ噂
ロセウスが自分を好きだと思っていたのは勘違いだとわかったアルクス。
勘違いは解消して、日常に戻ったと思いましたが……?
どうぞお楽しみください。
「さてと……」
私は机の前に腰を下ろすと、魔吸石に向かい合う。
この時間がお仕事の中で一番落ち着くようになった。
まずは『解毒』と『病気治癒』の効果を持つ、青の初級回復魔法を付与する。
冒険者の人だけじゃなく、『解毒』を使える法術士のいない救護院からも希望があり、最近注文が増えている。
それで助かる人が増えるなら嬉しいな。
「よーし、次は……」
『体力回復』とそれに合わせて気力も回復する橙の初級回復魔法。
タベッラさんから、事務の人で愛用者がいるって話を聞いた。
……昔のカルクルムさんみたいに無理してないといいけど……。
「ふぅ、次は……」
これは気をつけないといけない。
『再生』の力を持つ緑の初級回復魔法。
本気で付与したら、切れた手でも足でも元に戻してしまう。
高位の法術士でも儀式や特別な薬が必要な法術が、お手軽に使えるとなったら大騒ぎになる!
お肌のしみやしわの改善程度に力を抑えて、と……。
これが一番気を使うなぁ……。
「……よし! 後は……」
身体を攻撃から守る『硬化』を付与する、藍の初級回復魔法。
これが冒険者組合からの注文が一番多い。
酸蜥蜴に顔を焼かれたポルポラさんを怪我から守るためにと覚えた付与だったけど、他の冒険者さんを助けられてるのは嬉しい。
大きめの魔吸石にたっぷり付与して、と……。
「最後はこれだね」
魔力を人に付与する『魔力回復』の効果を持つ、紫の初級回復魔法。
これは魔力のない人に使うと魔力持ちにさせてしまうから、救護院にだけ渡す事にしている。
使う機会は多くないけど、魔力切れになると最悪一生魔術も法術も使えなくなるから、緊急で多くの法術を使わないといけない時の支えになっているそうだ。
人の命と自分の人生、その間で悩んでしまうのは当然だ。
でもそこで私が紫の初級回復魔法で、「人のために魔力切れになっても大丈夫!」って背中を押せるのは、やっぱり嬉しいな。
「ふぅ! 終わった!」
改めて私ができるようになった付与ってすごいなぁ。
しかも魔吸石に付与する事で、私がそばにいなくても人を助けたり守ったりする事ができる。
先生にはまたお礼をしないとね。
アウラン食堂の女将さんが、魔力かまどで豚肉を焼くのに挑戦してるって言うから、それをご馳走しようかな。
「……あの、アルクスちゃん……? 患者さんが来てるんだけど、お願いできる……?」
「……はい! 勿論です!」
ウィンクトゥーラさんの言葉に、私は勢いよく席を立つ。
初級回復魔法で人の役に立てる私は、何を恐れる事もない!
「アルクスちゃん! 元気!?」
「はい! 元気ですペッリスさん! 今日はお肌のお手入れですか!?」
「いえね、傷心のアルクスちゃんに差し入れをって思って、果物買ってきたの!」
「……ありがとうございます……」
「元気出して! アルクスちゃんならきっと良い男と出会えるからさ!」
「……ありがとうございます……」
もう! 何でこうなるの!?
ロセウスさんが私の事を好きで、私もそれでロセウスさんの事を好きになったけど、本当はポルポラさんが好きで私は振られたって話になるのおかしくない!?
そのせいで色んな人から慰められるし……!
うあー! もうずっと魔吸石に付与する仕事だけしていたーい!
「あっはっはっは! そりゃ災難だなアルクス!」
「笑い事じゃないんですよ先生! 皆して私の事かわいそうな子って扱いで!」
「それだけ愛されてるって事だろ? 甘んじて受けろ」
「うー……。でも困るんですよ! 特に症状がないのに救護院に来られても!」
「そのお陰で随分食べ物は充実してるようだがな?」
「……ありがたいです」
手に下げてる袋を見ないでください!
正直助かってます!
「でもそんなに噂が煩わしいなら、一つ新しいので塗り替えてみるか?」
「……えっ!?」
う、噂を新しいので塗り替える!?
それって、先生が私の恋人になるって事!?
……いや、そんなはずはない。
これで頼んだらからかわれたりするんじゃ……?
……でもふりでも恋人役がいたら、噂は静まるよね……?
ちょっとからかわれるくらいなら、いいかな……?
「……あの、じゃあ、よろしくお願いします……」
「よし。そしたら明日にでも救護院に部屋を借りとけ。周りに声が聞こえない部屋があれば、そこを頼む」
周りに声が聞こえない部屋!?
……何をされるんだろう……。
どきどきしながら私は、
「……はい、わかりました……」
そう頷くのだった……。
読了ありがとうございます。
何やら不穏な空気……。
次話もよろしくお願いいたします。




