第四十八話 石を巡る不穏な動き
魔力切れを起こした人なら迷惑をかけずに『魔力注入』を習得できるのでは、と希望を見出したアルクス。
しかし魔吸石を取り巻く状況には不穏な影が漂い始め……?
どうぞお楽しみください。
「先生!」
「おー、アルクス。お疲れ。……よし、魔力も『専魔の腕輪』も問題ないな」
「ありがとうございます!」
「で、どうだ? 魔法を使いたいって奴はいたか?」
「……その事なんですけど、それって魔力切れになった人でもいいですか?」
「えっ?」
私の問いに、先生はちょっと戸惑ったような声を上げた。
無理、なのかな……?
「……まぁ体内に魔力がない人間に魔力を注ぐ感覚が必要ってだけだから、魔力切れでも構わないが……」
よかった!
それなら普通の人を魔力持ちにするよりいいはず!
「だけど魔力切れの奴を探すのはかなり大変だぞ?」
「あ、はい、それはわかってます……」
「魔力のない奴から探した方が楽だと思うけどな……」
「それは、あの、ちょっと……」
「って事は、魔法使いってそんなに人気ないのか?」
「人気がないと言うか……、魔力があると、選べるお仕事がすごく減るので……」
そう答えると、先生は大きく溜息をついた。
「はぁ……。つまりあれか。この国では魔力持ちは魔法に関わる仕事しかできないようになってるのか」
「はい……」
「ったく馬鹿馬鹿しい。……ま、仕方ないっちゃ仕方ないけどなー」
「……?」
何だろう……。
先生が遠くを見てる……?
昔を思い出すような、懐かしむような……。
「で、その魔力切れの奴を見つける当てはあるのか?」
「あの、ウィンクトゥーラさんに相談したら、救護院に相談に来る人がいたら教えてくれるって……」
「そっか。ま、決まったら言えよー」
「あ……」
先生はそう言うと、すっと帰って行った。
夕日の中のその背中は、いつもより何だか寂しそうに見えた……。
「ウィンクトゥーラさん、どうでした……?」
「今のところ相談はないわね……」
「そうですか……」
数日経ったけど、今のところ魔力切れの人の情報はない。
年に一人いるかいないかって話だったもんね……。
気長に待とう!
お仕事はいっぱいあるし、先生が見てくれてる限り魔力切れの心配はないし!
「よぉ。昼時にすまんな」
「あ、タベッラさん! こんにちは!」
「タベッラ支部長、いつもお世話になっております」
ウィンクトゥーラさんの丁寧な挨拶に、私も慌てて頭を下げる。
「お、お世話になってます! タベッラ支部長!」
「よせよせ、堅苦しいのは苦手だ。院長は立場があるから仕方がないが、アルクスは商売仲間だ。普通でいいぜ?」
「あ、ありがとうございます!」
やっぱりいい人だなぁ、タベッラさん。
「それで支部長。本日のご用件は?」
「あぁ、ちょっと気になる事があってな。他の町の冒険者組合で、魔吸石の未返還が何件か出てるらしい」
「え、使った後返さない人がいるんですか?」
「そうだ。依頼の途中でなくしたとか落としたとか言ってるようだが、組合ではそれに備えて預託金を取ってる。にも関わらず頻度が多いのが気になってな」
「確かに……」
預託金って、物を借りる時に払って、ちゃんと返したら戻ってくるお金だよね?
借りたものを返せなかったらその分のお金がなくなるって思ったら、何が何でもなくさないようにするもんね。
確かに不思議だ……。
「もしかしたら空になった魔吸石を研究のために持ち去ってるんじゃないか、と俺は睨んでる」
「それって他の人が魔吸石に付与をしようと考えてるって事ですか?」
「そうだ」
そういえば先生が魔吸石の事を、
『魔術や法術を溜めて少しずつ放出する効果のある石だ。氷結魔術を溜めて食べ物の保存をしたり、火炎魔術を溜めて暖を取ったりするやつ、知ってるか?』
って言ってたなぁ。
でもタベッラさんがあちこちに頼んで試してもらったけど、私以外の法術士や魔術士の人には込められなかったはずだけど……?
「それって確かできなかったはずじゃ……」
「だがより深く研究すれば、と考える奴はいるだろうな。だが手に入れたくても、採掘組合の方に専売の契約を結んでいるから、高い預託金を払うしかない」
「そこまでしてもほしいんですね……」
「だから俺がこれだけあちこちを契約で縛ったんだよ。魔吸石から得られる利益は天井が見えない。アルクスがその気になれば、国がひっくり返る金が動くからな」
「ひぃ……!」
タベッラさんに助けてもらえて本当によかった!
そんな恐ろしい金額、見ただけで倒れちゃいそう……。
「今のところ魔吸石を提供しているのは、アルブム教の救護院という事しか知られていない。だが本気で利益を掠め取ろうとする奴等は、何をしでかすかわからん」
「こ、ここに来るかもしれないんですか……!?」
「可能性はある。だから身の回りには注意しろ。探りを入れてくる奴がいたら、人見知りを装って逃げろ。そして必ず俺に知らせるんだ。いいな」
「はい……!」
「院長、しばらくは警戒していてくれ。必要なら冒険者を手配する」
「それなら適任がいますわ。ポルポラ・ウィオラケウスを指名してくださいますか?」
「わかった。ポルポラ・ウィオラケウスだな」
頷くとタベッラさんは帰って行った。
魔吸石で沢山の人が助かってるって話を聞いていて嬉しかったけど、それだけじゃ済まないんだね……。
ポルポラさんが来てくれるのは頼もしいけど、少し気持ちが重くなる……。
「アルクスちゃん」
「はい!」
「あなたがしている事は神の教えに沿っているわ。自分が富む事だけを考える人も多い中で、皆の幸せを考えられるアルクスちゃんは本当に素晴らしいと思うの」
「ウィンクトゥーラさん……!」
「だから落ち込まないで。それにお陰でポルポラと毎日会えるようになったんだから」
「……はい!」
ウィンクトゥーラさんの暖かい言葉に元気が湧いてくる!
よし! 午後の仕事も頑張ろう!
読了ありがとうございます。
魔吸石を集める者とは?
そしてアルクスは『魔力注入』を身につけられるのか?
こういうガチ予告って楽しい……!
次回もよろしくお願いいたします。




